第181話 反発中

「ガクさん。そりゃないよ」

「俺たちもう歩けんよ」

「お前たちが乗るところないじゃろうが」


 草原のど真ん中。正確に言うと、実りの町から杜若まで3分の1くらい進んだところの線路上で――高齢男性たちが何やらガクに言っていた。 


「もう歩けん」

「わしらも悠宇殿たちの機関車に乗りたい」

「乗りたい乗りたい!」

「子供か!」


 何が起こっているか。

 現在は実りの町へとなんやかんやで、悠宇たちが向かうことになってしまったところ。

 そして実りの町へと出発――となったのだが。

 ガクとアクは2人でシェアトを。悠宇たちを探しに来たわけではない。

 もちろん御付き――というべきか。とにかく高齢の男性陣も連れて来ていた。

 そんな中でガクは自分たちは機関車で早く実りの町に戻り――という感じで話を進めていたのだが。まあそれに対してまた歩いて帰る――と気が付いた御付きだった男性陣がガクに文句を言っているところだったりする。上の人というべきか。とりあえず国王?元国王?に意見を言える雰囲気があるのは良いことだろう。

 ちなみに男性陣の最後方では、面白がってか。アクが男性陣側に入り、一緒に声をあげて楽しんでいたりするのも――まあ雰囲気が良いということにまとめておこう。

 なお、アクのその様子に今気が付いているのは悠宇とちかだが何も言うことはなかった。

 ちなみに海楓とシェアトはすでに機関車に乗り込み揉めている男性陣を少し上から見ている――という状況だった。


「海楓。どうすれば逃げられると思う?」

「今は――大人しくしていて――隙を見てかな?」

「なるほどなるほど――」

「ってか、シェアトがお仕事?言うのかな?今から行くとか話していたドーナツ国?との話し合いってか――そう。繋ぐ?ことをしっかりして、その功績をアピールして悠宇のところに行くって言ってみるのは?」

「なるほど!町を救った功績ね。いや、国の再建の第一歩をして――うんうん。いけそうな気がしてきたわ」


 ……いや――おしゃべりをしているだけかもしれない。それもなんか起きそうな。起こしそうな雰囲気の話をしていたが。こちらの話は、悠宇とちかには届かないのだった。


 それからもしばらくガクがみんなにいろいろ言われるという良き雰囲気?の時間が続き――結果。


「とりあえず乗れるだけ乗って元気な者はしがみついていけ!」

「……いやいやガクさんそれは――」

「「「おお!」」」

「いや、皆さんも『おお!』じゃなくて」

「なんかすごいことになりそうですね」

「これ――定員オーバーってか。どうなんだ?安全上とか」

「――まあ揺れは少ないですからスピードをあげなければ――だと思いますが……」

「でも数十人無理矢理――炭水車?っていうのかもう屋根にも乗ってるし」

「――皆さん。元気っていうか。ワイルドですね」

「いや、これいいのか……マジで」


 何が起こったか。

 現在漆黒の蒸気機関車。気ほどまではボディを輝かしていたが。今は――ちょっと見にくくなっている。何故なら機関車のあちらこちらに高齢男性がしがみついているから。


 どんな状況だ!?


 と、思われるだろうが。これは現実。

 もう歩きたくないと言う御付き?で来ていた人々に対して『しがみついていけ!』ということを言ったため。先ほどまで地面に座るなりしていた人が急に元気になり機関車の掴めそうなところを各自掴んで乗ったのだ。ボディって熱くならないのか?などなどいろいろ気になるところもあったが。でも掴めているので問題ないのだろう。

 なお、気が付けばガクとアクも運転席にしっかり乗っている。そしてアクとガクについて運転席に便乗しようとした男性陣とちょっと揉めている?様子が見える。


 ブオォ。ブオォォォーー。


 すると、漆黒の蒸気機関車はいつも通り?のけたたましい汽笛を鳴らし車輪を動かしだした。


「おおお、すげな」

「身体に響くねー」

「もう一発頼めんか?それ引っ張るんか?」

「このレバーで動くんか……どれ」

「いやー、ホント揺れないもんだな」

「これなら余裕じゃ」

「おお、これならあっという間じゃ」


 そして大歓声?の中機関車は進みだす。今のところ振り落とされそうな人は居ない。というか、男性陣みんなここまでなんやかんや言って歩いてこれる体力などがあるためか。余裕そうだった。そんな中機関車のスピードはどんどん上がっていっているようだ。快調に車輪が回りだしている。

 それからは、ほとんどまっすぐに伸びている線路なので機関車の姿は良く見えるが。スピードが出ていたためかすぐにそして少しのアップダウンがあったのだろう。小さくなっていった機関車の姿が完全に見えなくなった。


「「……」」


 大草原に2人を残して――。

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