第141話 男はチート

 お気に入りの蒸気機関車を眺める1人の男性。

 誰かとは言わない。

 いつものあの男である。

 なお、今は遠い昔?のとある話だったりする。


「――うーん。もしこの機関車に何かあったらと思うと心配だ。心配だ。脱線でもしようもんなら。そりゃ大事だ。さすがの俺にも脱線した機関車を簡単に戻す能力――いや……待てよ?あるかもしれねぇーじゃん!」


 ――普通はない。


「そうじゃんそうじゃん。機関車ももしかしたら意思があるとかよ」


 ――ない。いや――どこかの世界ではそういう物にも意思が――などと言うことがあるかもしれないが。一応今のところはないと言っておこう。

 ない。


「つまりだ。機関車の記憶をいろいろ改ざん――」


 もう一度言っておくが物の記憶を改ざんなどと言うのはそりゃ――いや、もういいか。

 しばらくとある男を1人で話させておこう。


 男はふと蒸気機関車の漆黒のボディに触れる。

 男の手は少し熱を持ってたボディからの熱を。やけどはしないレベルの熱を感じている。

 

「おお!やっぱり意思あるんじゃね?これできるだろ。俺より熱いってことは余裕だろ」


 ……ツッコミが不在の為男が勝手に話しているが。

 動いていた蒸気機関車。そりゃそこそこ熱を持っている――って、もしかすると大やけど――などと言うことも触る場所や時ではあったかもしれないが。この男そういう勘というのは良いのか。ハズレは引かなかった。

 ――たまたまなのだが。それも運というのだろう。


「やっぱ俺が気に入っただけはある。お前。待ってろよ。俺がもしもの時の為にいろいろしてやるから」

 

 それからしばらく男の独り言は続いた。


「とりあえず掃除しなくても勝手に綺麗になる。ピカピカを維持する――だろ」

「燃料消費は良く――」

「老朽化で爆発とか嫌だから――そうだ。この今の状態を維持とか――まあできるだろ。俺だし」

「あとは――もし脱線とかした場合は――まあ初めに戻すが便利だよな。まあそうだな。俺のホーム。拠点に戻ってきてくれれば問題なしだろ。ついでに何かあっても勝手に直るようにする。というか移動中に勝手に直るだろうが――って、まあ俺が使っている限りそんな無茶はさせないがな。がはははははっ」

「あとは――とにかくこいつは最高の機関車であり続けると――」


 ……男の独り言はホントしばらく続いた。

 

 それからこの蒸気機関車。勝手に意思があると男に判断されていた蒸気機関車は、長く長く走り続け。一時主不在――ということもあったが。次の世代までしっかりと残り続け――というか。もうこの蒸気機関車はちょっとやそっとでは壊れない。チート蒸気機関車のようにあの男にされてしまったのだが――まあ長く愛されるということにしておこう。

 なお、このことに関しては今後誰かが気が付くということもないのだった。まあそのうち何故か壊れない蒸気機関車と気が付く者は居るだろうが――。

 とにもかくも男により最強の蒸気機関車となってしまったこの漆黒の車両は――まあ簡単に言えば不死鳥のようなものだった。


 だからちょっと脱線したくらいでは――元に戻るだけである。

 それもいつも通りの姿で――。


「いやー、蒸気機関車にも意思があるとか。最高じゃん。やっぱこういう世界が良いな!」


 何度でも言うが。蒸気機関車の意思は――もういいか。

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