第130話 立ち入り禁止内

『あっ。はい。ありがとうございました。おやすみなさいです』

『ああ』


 悠宇としばらく家の前で話していたちか。

 悠宇が角を曲がるまでちゃんと後ろ姿を見送った後。ちかは自分の家。室内へと向かって歩き出す。


「ただいまー」


 鍵を開けると真っ暗な室内。

 電気を付けながら誰もいない部屋へとそんなことを言いながら、ちかは部屋の奥へと入っていく。

 玄関からリビングまではいつ誰が来ても問題ない状態。綺麗に掃除されている。

 廊下に荷物が落ちているとかそんなことはない。ちょっと段ボールが壁に立てかけて置いてあるけどそれは問題ないレベルだろう。ちなみにちかが誰かのそのことを聞かれていたら『そのうち片付ける予定。ちょっと今先輩のところでいろいろあって忙しいから』などと答えていただろう。

 リビングへと入ったちかは適当に荷物を置いて――ちょっと休憩。と言わんばかりに、小さめのソファに腰を下ろす。そしてソファに置かれていた小さ目のクッションを抱く。

 少し前までは先輩と居たこともあり賑やかだったが。今は静か。室内はシーンとしており。ちょっと耳を澄ますとパトカーの音が聞こえている。ちかは『誰かお巡りさんに追いかけられているのかもしれない――まさか先輩じゃないよねー』などと思いつつ。微笑みつつクッションをさらに強く抱いた。

 そしてちかは、クッションを抱く力を少し緩めてから、ぼーっとしつつ。今日の事。最近のことを思い出していた。


「――シェアトは危険だよね――でも、うん。私と先輩だし。うんうん」


 そして何やらつぶやき――1人ニヤニヤしていたが――これは本人しか知らない事。

 それからちかはしばらくニヤニヤした後。ふと立ち上がりシャワーを浴びるために自分の部屋へと着替えを取りに向かった。

 ちかがガチャっとドアを開けて自分の部屋に入り電気を付けると――。


「えへへっ」


 再度にやける。いや、先ほどのここ最近を思い出している時よりちかはにやけつつ。声にも出しながら自分の部屋へと入っていく。

 何故なら――。


「どの先輩も良いなー」


 壁にたくさんの先輩の写真が貼ってあるからだ。

 それは隠し撮り――ではなく。一応ちゃんと悠宇と一緒に撮ったものを印刷したもの。

 そこそこ大きく印刷されているのはお気に入りの写真――ではなく。本当にお気に入りの写真は小さく印刷。肌身離さず持っていたりするのだが――今はその姿は確認できない。 

 

「――どれお風呂に持って行こうかなー」


 ……自分の部屋で何をつぶやくのも自由である。

 ちかがこの後しばらくいつも通りニヤニヤ何か言うのだが――それは個人情報ということで。カットしておこうか。

 これはちかの一日の終わりの楽しみの時間である。ということにしておこう。

 

 なお、ちょうどこの頃。ちかの思っている人。悠宇はというと、シェアトと共に走っているのだが――そんな事とは知らず。ちかは『これにしようかな』などと言いながら1つの写真を防水ケースに入れ、着替えも持って洗面所へと向かうのだった。


 この時。少し、ほんの少し普通なら気が付くことはないレベルのことだが。

 ――ちかの髪が少しだけ伸びていたのだが――それはまだ本人も周りも気が付かないことである。

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