第93話 その頃……4 ◆

「乗っているだけというのもなかなか大変だ。ふー。シェアト様。戻りました」


 一度実りの町へと戻っていたコールが食料などを持ってまた杜若へと戻って来た。

 コールは運転席から駅のホームへと降りるとまず軽く背伸びをしてから駅舎の方へと声をかけ。そして運転席に積んできた荷物を下ろしだす。


「あまり多くはないが――でもこれでしばらくは大丈夫のはず」


 コールは積み込んできた食料などを見つつつぶやく。


「――うん?」


 そしてここで違和感に気が付いた。


「――シェアト様?」


 コールは持ち上げた荷物を一度その場に置いた。そしてあたりを見回すが――誰もいない。人の気配そのものがない。

 そもそもだ。機関車が駅へと到着すればそれなりの音がしている。というか、かなり前から走行音は聞こえていたはず。特にこの杜若のように何もないところなら煙も見えるだろうし。音も良く聞こえるはずだ。

 本来なら到着と同時に誰かが出てきてもよかった。出てくるはずだった。


「――シェアト様!」


 嫌な汗を流すコールは慌てて駅舎内へと入り。シェアトの名を再度呼ぶ。

 しかし物音すらない。


「悠宇殿!海楓殿!ちか殿!」


 シェアトととともに居たはずの彼、彼女らの名も呼んでみるがまた物音一つしなかった。


「――そんな……」


 その後コールは駅舎のまわりも急いで確認したが誰もいない。

 再度駅舎の中をくまなく探したが誰もいない駅員室らしきところの中も見たが誰もいない。

 まさかと思いつつ屋根や床下も確認できるところは確認してみたが(ガチで屋根まであがったコール。無駄に身体能力が高いことを誰もいないところでアピールした)ネズミ1匹いなかった。

 駅舎の中で立ちすくむコール。


「まさか――まさか……悠宇殿たちが――敵。もしかして悪夢の仲間だった……?いや、そんな事。でも――なら何故いない」


 コール自身数分居なくなった。ではなく。数時間この土地を離れた。

 それは悠宇たちなら問題ないと思っていたから。しかし、現実はその自分が居なくなった数時間で大変なことが起こった。

 

 シェアトが誘拐された。

 コールの頭の中では勝手にそんな言葉が浮かんだ。


「――くそっ」


 コールは下ろしかけた荷物はそのままにして再度漆黒の蒸気機関車へと乗り込み。即ハンドルを乱暴に押し込んだのだった。

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