第146話 行列進む? ◆

「準備はできたか?長旅になるぞ。留守番の者はしばらくの間この地を頼んだぞ」


 実りの町の新しく作られた駅近くで多くの人が集まっていた。

 集まっているのはこの町の人々。ほとんどが高齢の男性だった。留守番側には高齢の女性が多く集まっている。

 集団をまとめているのはこの町の長。長いグレーの髭を風に揺らしているガクルックスだ。

 現在は旅支度をしており。動きやす服装をし。そして町に残っていた馬に手助けをしてもらいつつ跨ったところだ。

 そしてその横にもう一頭馬が近付いてきた。


「ガクよ。ベク1人で町は大丈夫か?何もないとは思うが――なんか心配しかないんだが」


 その馬に乗りながらガクルックス。ガクに声をかけてきたのはアクルックス。アクである。こちらはいつもと同じような服装だ。


「仕方なかろう。まあコールも――一応居るからの」

「まあボロボロだけどな」

「にしても。本当に悠宇殿たちがシェアトを――の」


 少し考えながらつぶやくガク。すると同じように考えるような素振りでアクも口を開いた。


「――だな。なんかありそうというか――まあ俺としては消えた機関車だな。突然目の前で消えやがったからな。つまり――」

「悠宇殿たちはまだ何か秘密がある――」

「だろうな。にしても一度杜若まで行くしか――か。俺たちは見てないんだからな」

「コールが混乱してなければな」

「まあとりあえず行きますかな。このままじゃなんも進まん気がするし。それに久しぶりいい気分転換だ」

「アクよ。旅行じゃないのじゃぞ」

「わかってるわかってる」

「――こっちも大丈夫かのー。まあ、出発するぞ」

「にしても杜若か。何日かかることだか」


 ガクが声をかけると、まずガクの乗った馬が歩き出し。その少し後ろをアクの乗った馬が付いていく。そしてその後ろには御付きの集団がゆっくりと動き出した。

 なおこの集団何度も言うが高齢者ばかり。スピードはゆっくりとしたものだった。


 ちなみに、今実りの町で何が行われているかというと。

 シェアト探しの旅。杜若へと向かおうとしているところである。

 本来は町の人を連れて行く必要はなかったが。数日前に1人で戻って来たコールがシェアトが悠宇たちに誘拐されたという報告をしてきたため。その確認――(なお、コール以外はそんな事ないだろ。多分何か理由がある。あの悠宇たちが――と、実はあまりシェアトの心配はしていなかったりする。無事と思っていた。というか。悠宇たちがシェアトに振り回されているのではないだろうかと逆にちょっと心配していたりもする)の旅であり。道中が長くなる可能性もあり。いろいろと荷物を持つ人が必要だったり。そもそももしもの為の戦力も必要だったりということでそこそこの集団となっていた。


「お気を付けてー」


 ガクとアクが歩き出すと留守番組のべクルックス。ベクが他の留守番組の人たちの代表として声をかけた。

 

 ちなみにそんなベクの声を聞きながら先頭を行く2人。アクとガクはというと――。


「――今もし攻め込まれたら瞬殺だろうな」

「アクよ。縁起でもない事――」

「事実だろ。ベクと婆さんらだろ」

「一応コールもおる」

「まだ怪我人だけどな。でも蒸気機関車が派手に脱線していたのに骨折だけで済んでるならマシか」

「――まあ話を聞いておると。コールもコールじゃが――」

「力だけはあるからな。そりゃ1人で慌ててぼっきりと――傑作だな」

「はぁ。いろいろ大丈夫かのー」


 実りの町の長。出発そうそうすでに疲れた表情になっていたのは――誰も知らない事である。

 ちなみにガクの後ろではアクが話ながらまったりしているのだった。こちらはこちらで全く何も心配していない。むしろ今を楽しんでいる様子だった。

 あと、そんな2人の後ろを歩いている御付きの人は――。


「ふー、なかなかだな」

「そろそろ休憩せんとな」

「だな」

「まあシェアト様も遊びたい年頃だろう」

「駆け落ちかの」

「若いっていいな」

「おーい、ガクさんよー」

「そろそろ休みましょうや」


 すでに疲れており。先頭を行くガクに向かってそんな声をかけるのだった。

 

「まだ町出て数百メートルじゃぞ!」


 もちろんガクはすぐにそんな返事をしたが――何度でも言う。高齢者の集まりだ。ガクとアクに関しては馬に乗っているだけだが。後ろの御付きは歩いている。

 そして今までの実りの町でのみんなの生活も活動、休憩、活動、休憩。もう少し休憩――などと休み休みに物事をするのが当たり前の人たちだったので、遠く、それはそれは遠い杜若への旅は数か月にも及ぶ壮大なものとなったのだった。


 なお、道中は特に何もない平和な道中だったりした。

 トラブルが起こることなく。敵とも遭遇することもなかった。

 しいて言えば――休憩が多く。食べるのは好きな人が多かったため。食料がどんどん減っていき。途中で食料探しという余計なことが増えたりしたくらいだった。


 これはシェアトが悠宇たちの世界へと行き。

 1日異世界観光をしていた時の数十日間のガクたちの出来事である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る