第23話 この3人おしゃべり好き

 ちかの能力。それは現金化らしい。

 いや、間違いなく物を現金化する能力。

 もし少し前まで悠宇たちが過ごしていた場所。現実世界。現在の世界?とにかく住んでいた場所で、そんなことが出来たらそれはそれは生活が変わっただろう。

 ちかがいれば何でも現金化。不要なものがお金に――もしかするとちかが手に持てないものでも、ちかが能力を使えば何でも現金化できるなら、億万長者も夢では――かもしれなかったが。現在悠宇たちが居るのはまだ知らぬ土地であり。ちかの能力により。多分この場所の通貨。お金を得れることはわかったが。使い道がない。そもそも3人しかいないこの場所。特に今の状況が劇的に変わることはない。

 というか。ここ数時間悠宇たちはもしこれが冒険などのゲームならスタート地点から動いていない。チュートリアルすら始めていないような状況だった。


 まだ何も始まっていない。

 もしかしたらキャラメイクで数時間かけているようなものかもしれない。


 ちなみに、ちかのの能力はどうやら、なんでもかんでもできるわけではない様子だった。

 例えば、地面の土や石ころでは何も変わらずだった。ちかが石を手に持ってもそのまま石。ということだ。

 またボロボロの建物近くにあった朽ちた木。枝なども同様に何も起こらなかった。


「とりあえず――この石炭だけは金貨に変えれるってことですね」


 そう言いながらちかはまた石炭?と思われるものを巾着袋へと変えた。


「――まあ今のところ金貨?の使い道もそもそもこの蒸気機関車も動かせないからな。結局はちかの能力が分かっただけだが――」

「確かに。ってそういえば私たちってこれからどうなるんですか?」

「いや――わからん。マジでわからん」


 改めてだが。悠宇の言う通り。本当にこの後この3人がどうなるのかは――誰にもわからない状況のままだ。


「まあこのままだったら――3人で暮らしていく?」


 すると少し考える素振りをしつつ海楓がそんなことをつぶやいた。

 何故か楽しそうな表情をしているのは――気のせいではないが悠宇もちかも触れなかった。


「――海楓サラッと言うがな。食料とかも見つかってないぞ?このままだと未来は餓死だぞ」

「あー、確かにってあまりお腹がすいたり喉が渇いたりって――2人ともする?」

「いや……今のところ驚きが多いからかそういうのは――」

「私も特に」


 海楓の問いに少し考えながら答えた悠宇とちか。

 確かに悠宇に関してはこの場所に来てから数時間。もしかすると経過しているような感覚だが。今のところ悠宇はこの場所に来てから何かを口にしたことはない。でも何も口にしていなくても特に問題は起きていなかった。


「まるでここは時間の流れがおかしいっていうのか――もしかして私たち飲食しなくても生きていける?」

「それは――だが」

「でも、不思議なことがすでに起きてるんだし」

「うーん。まあ」


 それぞれが少し考えるが。これだ!という答えにはたどり着かない。


「うーん。気にするとお腹空いてきそう――」


 少し考えたところで、ちかの発言により3人の口元が緩む。そして考えても答えが出そうにないことは無駄に疲れるだけなので考えないことにした。


「まあ、ちかの意見もなんとなくわかる。今は忘れていたというか。いろいろ起こったからな」

「じゃあお腹が空く前にどこか探さないとだよね。って、悠宇の能力だっけ?線路どうなってるの?」

「あー、でもあれそんなに早くないからなー」


 海楓に言われると悠宇は勝手にどこかへと延びていっている線路の方を見る。

 すでに悠宇たちの居る場所から線路が真新しくなっている場所。生まれている場所は――見えなくなっていたが。地面から淡い光が発せられているので遠くでぼんやりとだが。線路が生まれている場所はわかった。なので悠宇は指をさしながら答える。


「あのあたりだな」

「あまり進んでないね」


 悠宇が指さす方向を海楓とちかも見て、海楓のつぶやきにちかが頷いた。


「私たち結構話していましたよね?」

「悠宇の能力は微妙と――使えない弟でごめんね。ちかちゃん」

「何もない海楓に言われたくないんだが」

「でも機関車動かせないとね。線路だけ作ってもだよ?」

「それは――ごもっとも。ってか、この場所で誰か探すとか。町を探すより俺たち元の場所に変えるすべを探した方がいいのか」

「まあ、そうだろうね。いきなりこんなところで3人しかいませんじゃ――悠宇の子供を私とちかちゃんが産まない限りずっと3人だよ?」


 悠宇の肩に手を置き。ポンポンと叩きながら言う海楓の口元は少しにやけている。

 余談を言っておくと、この場には悠宇とちかしか今のところいない。なので海楓はまったりモードとでもいうのか。学校での姿はもう影も形もなかった。


「何を言い出すのかこいつは」

「悠宇先輩との子――」

「あれれー?悠宇は嬉しくないのかな?この美少女ともしかしたら――あんなことやこんな事――ができるのに?それでも男の子?」


 少し悠宇が恥ずかしそうな。何とも言えない表情をしたことを見逃さなかった海楓が悠宇に絡みつきながら再度いじる。おまけで脇腹を突っついたので悠宇の身体が少しくの時に動く。


「ニヤニヤしながらいじって来るな」

「ニヤニヤーニヤニヤー」

「口に出すな」

「悠宇先輩との子――」


 ちなみに海楓が悠宇に絡んでいる際。1人だけ上の空が居たが――もちろんそれはちかだ。1人自分の世界に入り込んでいた。


「ちかー。なんか声に漏れてるし。海楓以上になんでにやけてるんだよ」


 なお、悠宇たちの近くでちかは呟いていたため。悠宇にも海楓にも丸聞こえだったりする。


「なっ!?に。にやけてませんよ!?って――声に出てた?えっ!?」


 悠宇の指摘の後今度はあたふたするちか。今更口を手で閉じても遅い。

 そんなちかの様子を見て呆れる悠宇と、微笑む海楓。今この3人の居る場所の空気は多分――和やかである。


「まあいいや――って、海楓のアホな話には付き合わないで――」

「いやいや、悠宇。子孫繫栄大切だよ?もし私たちだけなら私たちの代で人間が途絶えるんだよ?」

「ちょっと待て海楓。そういう話は――まあ今じゃない気がする」

「まあ、もしこのままここで悠宇と子供作って――そのあと元の世界に戻れました――じゃね。大騒ぎだけどね」

「ほんとだわ。って、じゃなくて。海楓。1回その話止めろ。マジで何か見つけるかなんかしないとずっとこのままだぞ」

「はいはい。わかったよー」

「まあ確かにこのままずっと――は困りますよね」

「でも機関車は何もなくて――あと目につくものと言えばその駅?ボロの建物だよね?」


 悠宇に絡んだまま海楓が建物の方を見る。すると悠宇とちかもつられるようにそちらを見た。視線の先には旧駅舎らしい見た目の建物。

 すでにざっくりとは確認している場所である。


「ああ。あのボロボロの建物。でも特に何かあるわけじゃないんだよな」

「隠し扉とかは?」

「ぱっと見はそんなものなかったと思う。とにかくボロい。危険だな」

「悠宇先輩。もう1回確認してみた方が良くないですか?海楓先輩の言う通りSLにも何もないなら――まああとは建物。それでもだめなら――まあその時はその時です。ここから見えない草原の先に歩いていくことになるのかもしれませんし。それにまあさすがにもう帰れないという選択肢のことも考えても――ですし」

「うん?ちかはもう諦めたか?」

「あっ、いや、まあ先輩たちと過ごすのも――ってか、さすがにここまで手がかりがないですから。それによくよく考えたら。普段から私も両親と住んでいるわけではなく。今のように先輩たちと居るので、そこまで変化ないかな――と、全く知らない土地ですが。もし自分1人ならこんなに落ち着いていることはないと思いますが――とにかく。先輩と一緒なら――――」

 

 少し恥ずかしそうにもじもじと答えるちか。その後何かぶつぶつ言っていたが――そのつぶやきは2人には届かなかった。


「悠宇。ちかちゃんが妄想の世界に入った」


 いや、届いていた。海楓が悠宇を突っつきながら。目の前でぶつぶつまだつぶやくちかの方を見ている。


「元はと言えば海楓が話を脱線させた気もする」

「えー、そんな事してないからー」

「ちかが何やら妄想の世界に入るきっかけは海楓な気がするがな」

「でも悠宇興味ありありでしょ?こんなかわいい子2人と3人だけの空間に居るかもなんだからー。それに今こうして私が悠宇を触っているようにちゃんと相手の事を触れるっていうことは――」


 楽しそうに海楓は悠宇の身体を触りながら悠宇をいじる。頭から肩。お腹を海楓は悠宇の身体を楽しそうに触っている。


「ちょ黙れ。あとくすぐったい」

「あっ。想像してるー。これは悠宇想像してるなー悠宇も妄想の世界入りたい?いや――実際に――かな?にひひー」

「耳元で話すな」


 実際悠宇も男の子。もちろん――いろいろ考えることはある。

 現に先ほどから海楓はずっと悠宇にくっつく形で話している。なので、例えいじられているとわかっていてもだ。悠宇頑張っていろいろ耐えていた。


「あー、でも、私は悠宇のお姉ちゃんだからねー。さすがに弟とそういう関係はここでも問題かな?」

「おい、いつから俺たちは血が繋がっていることに――って、余計なことはいいから」

「一応私お姉ちゃん設定ですから」

「――」

「悠宇が無視したー。お姉ちゃんになんて態度だー」


 海楓のペースに飲まれないように悠宇が一度明後日の方向を見て海楓の話に返事をしないと、悠宇の身体を触っていた海楓の手はポコポコと悠宇の背中を叩きだした。


「はぁ……まあいつも通りというか。海楓も現状に慣れてきたと」

「まあとっくに慣れてるけどね。って、私もさっきちかちゃんが言ったように、悠宇とちかちゃんが居るからね。不安はそんなにないし」

「いい適応力だよ。って、そろそろ再度建物見に行くか。このままだとほんと俺たち動かない気がしてきたし」

「あっ、だね。って、ちかちゃん鼻血?」


 悠宇が呆れつつ海楓を引っ張る。引きずるように無理矢理歩き出すと一応海楓の足も動き出したが――すぐに海楓がそんなことを指定したため悠宇は足を止めてちかの方を見た。


「――ふぇっ?ってえ?嘘――って、何もないじゃないですか」


 悠宇がちかの方を見ると、海楓の指摘を受けたちかが鼻を手で隠し――確認している。実際本人ももう気が付いているが、ちかは鼻血を出しているとかそういうことはない。単にちょっと妄想の世界に入っていそうなちかを海楓がいじるために言ったのである。

 ということで、一瞬海楓の発言に焦ったちかだったが。すぐに嘘とわかり。悠宇と海楓に近寄りつつ文句を言うのだった。

 それからなんやかんやと騒いでいる3人はそのあと建物の方の探索へと再度行き。


「――あれ?悠宇。ちかちゃん。これ――」


 再度確認したボロの建物内でとある発見をするのだった。

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