[ 017 ] ウサギのメイド
「いやー頼み過ぎちゃってごめんね。他の客も手伝ってくれてよかったー」
「そうですね。代金も他の客から貰えたのでエルツさんの懐を痛めなくて安心しました」
「そんなの気にしなくていいのに……優しいんだから」
また腕にエルツをくっつけつつ街を歩き始めた。ギルドがどこにあるのかわからないので、完全にエルツについて行くしかなく不安でしか無い。
「あとどれくらいですか?」
「んー、そこの路地を進んで右に曲がったらすぐだよ」
「思ったより近いんですね」
よかった。ちゃんと道案内してくれていたんだ。と路地を進み右へ曲がると……歓楽街に出た。
「あ、あの、エルツさん……?」
「さっきお酒入っちゃったから〜、そこの宿屋で少し休憩したいなって」
「だだだだ、ダメです! 僕お金ないですし!」
「それは私が出すから大丈夫だよ?」
「いやほら! 親方に? 戦って勝たないとそういうのは!」
「むー、まぁそうね……。パパに勝ってからじゃないとロイたん殺されちゃうか……残念」
よし、よしよし。
今度は断ったぞ……。僕はノーと言える男! えらい!
「ちゅ」
脳内で自分を褒め称えていると、不意打ちでエルツにほっぺにチューされてしまった! ふわああああ! こんにゃくよりも柔らかいものがこの世にあったなんて!
「これくらいならセーフでしょー? 子供じゃないんだしー」
いやいや、僕まだ十三歳ですけど! この世界の貞操年齢低過ぎない?! いや前世でも小学生で恋人がいるってのを見た事があるぞ?! 僕が遅れているのだろうか?!
「赤くなってんの、かーわい」
「は……早くギルドに行きましょう!」
しょーがないなー、私もお店の仕込みしなきゃいけないし行くかーと、エルツは諦めてやっと道案内してくれる気になった。
場所を聞くと、ギルドはルント湖から入った入り口のすぐ近くだった。
大昔はクルツ平原側から入った一等地にギルドがあったらしいけど、回復術師が減った事で依頼達成が困難になり、仲介料がギルドにも入らず立ち退きさせられたらしい。その後は街の不人気なルント湖側へ引っ越し現在に至るとの事。
「あ、そこだよ。ギルドは」
一瞬武器屋かと思うような巨大な剣のオブジェがやはり入り口の上に飾ってあるのがギルドらしい。大きさは先ほどのジャックの店よりも小さいけど、本当にギルドなのだろうか。あたこち後ガタが来ているように見える。
「めっちゃボロいですね……」
「そりゃぁ「今日限りで辞めさせて頂きます!」」
エルツと共にギルドの前に来たが、入る前に入り口からウサ耳のついた銀髪のロングヘアーのメイドさんがドアを壊して飛び出してきた。
「待ってくれぇフィーアちゃん! 給料一割アップするから! お願い! 辞めないで!」
「もー、騙されませんからね! 安月給が一割上がったところで雀の涙じゃないですか!」
「わかった! 未払いの給料払うから待つんじゃあ!」
「オンボロギルドのどこにそんなお金があるんですか!」
なんかすごい現場に出くわしてしまったかもしれない。話流れ的にウサ耳のメイドさんはギルドの受付嬢か何かで、それを引き留めてる長ーい顎鬚のおじさんが責任者なのかな。
「離してください! セクハラで訴えますよ! この! この……あら? まぁ! エルお姉様じゃありませんか。今日はどのようなご用件でしょうか?」
顔と声が営業スマイルに瞬時に切り替わってスカートをふわりと挨拶をしているけど、足では責任者を踏みつけてるその様を見て、僕の逆らっちゃいけない人リストに彼女の名前を追加した。
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