[ 143 ] 次の依頼は?

 軽く昼食を食べてからギルドに戻ると、誰かがクエストボードを見ていた。


 背丈は同じくらいで、黒髪ショートヘアにナックル……というんだろうか、鋼鉄のグローブを両手に装着しており、拳闘士みたいな装備が印象の男の人だ。


「あ! ごめんね! 見たいよね? どうぞ!」


 訂正、振り返ったら女性だった。どこかで見た気がすると思ったら、昨日港見で見た重力魔法を使ってた人だ。遠目だったから男の子に見えたけど。


「いえ、大丈夫です。ここから見ますから」

「えー、私が意地悪してるみたいじゃん。ほら!こっちくる! 若い癖に遠慮しないしない」


 強引に引っ張られて横並びにされてしまった。見たかったのは事実だし良いか……。


 ぱっと見でも、昨日から増えた依頼は無いな。


 希少鉱石の採取、金貨八枚

 噴水の掃除、金貨二枚

 街の掃除、金貨三枚

 王都への荷物搬送の警護、金貨二十五枚


 噴水の掃除に僕の魔法は役に立たないし、街の掃除はまぁできなくは無い。護衛はそんなに時間が取れないし。


「希少鉱石か街の掃除かな……」


 希少鉱石の依頼を手に取ろうとしたら、先ほどの女性に取られてしまった。


「あ……」

「あー、ごめーん。私もこの中だとこれくらいかなーって思って〜」

「いえ、どうぞ。僕は後から来ましたし」

「そう? 悪いねありがと!」


 うーん、比較的楽そうな依頼を取られてしまったな。街の掃除を地道にやるしか無いかな。何もしない時間を作る方がもったいない。


 街の掃除の依頼書を手に取って受付へ向かうと、なにやら先ほどの女性がラッセさんと揉めている。


「なんでよー! 私ずっとランクFじゃん!もうEくらいの実力あるって〜」

「ダメです。規則です」

「もー! ケチー」


 何を揉めているんだろうか。先ほどの稀少鉱石の採取依頼に何か問題でもあったのかな?


「どうしました?」

「あぁ、さっきの……。聞いてよ! あの依頼! ランクEじゃないと受けれないって言うんだよ!」

「お姉さんはいくつなんですか?」

「……Fだよ」

「じゃあ足りないから受けれないのは仕方ないのでは……。受付ランクはその依頼を受けて、確実に生存して帰って来れる目安ですから」

「だーかーらー! 私の実力はランクEくらいあるって言ってんのよ」


 むちゃくちゃだ。この世界には回復術師がほとんどいないから、ポーションが高い。昔ハリルベルに聞いた金額だと、一つで金貨二十五枚って話だ。年々材料の入手難易度が上がって、値上がりを続けてるらしい。


「せめてランクEの人が同行するなら認めますが……」

「それじゃー報酬がほとんどそいつに取られちゃうじゃないの! ランク違いのパーティは上のランクに八割持ってかれるじゃない」

「それはそうです。ランクEの方が低ランクを連れていくと、その分守るものが増えるので、難易度は逆に高くなる場合がありますから」

「譲れて半分までだわ! シュテルン空いてないの? あいつなら言いくるめられるわ!」


 シュテルンさんはこの人に搾取された過去があるのか……。彼は押しに弱いから想像が付きやすい。


「シュテルンさんは、現在任務を受けていて不在です。ランクE冒険者なら、そちらのロイエさんが適任かと」

「え?」

「え?」


 僕? ランクいくつだっけ……。ナッシュで最初にもらった時はGで、フォレストの騒動でランクFに上げてもらったから、Fだとおもうけど……。


「ラッセさん、僕はランクFじゃないですか?」

「いえ、ギルドカードに反映してないだけです。ギルドの記録ですと、バルカン村のモンスター大量発生の報告が村長から二件、この街でのファブロさん捜索で、Eになっていますよ」

「本当ですか?なら更新してもらってもいいでしょうか? お金かかりますか?」

「いえ、更新は無料でやっています」

「なら、お願いします」


 ポーチからギルドカードを取り出して、カウンターに出すのと同時に、ラッセさんの右手に持った何かが僕の額に触れた。


ピッ


「あ!!!!」


 しまった! 更新って属性測定器で測る必要があったのか! ば、バレちゃう!

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