[ 098 ] これから
「それと、ロイエ。お前の家族についてだが、各街のギルドに問い合わせした結果。ここからさらに西へ向かった先、水上都市アクアリウムで見かけたという情報があった」
「本当ですか?!」
「ただ……二〜三年前の話だそうだ。息子を見なかったか?と探し回ってる男を見つけ、マクレーレ船団の船長があれこれ手を尽くしてくれたらしくてな。ディアグノーゼの名前を出したら、昔手伝った事があると証言をくれた」
水上都市アクアリウム……。
「さ、三年も前の話ですよね。それよりも魔法都市ヘクセライに向かった方が良いのでは……」
リュカさんの提案ももっともだ。三年前の父さんの消息よりも、王国騎士団にナッシュが封鎖されている状況から見て、ここへ来る可能性もある。魔法都市ヘクセライで一時的にほとぼりが冷めるまで、匿ってもらった方が良いのだろうか。
「ロイエ、少しでもお父さんの足跡を辿ったほうがいいとオレは思うけど」
「いえ、王国騎士団が目と鼻の先のナッシュにいるんです。いまのうちにヘクセライで匿って貰うべきです」
「私は、ロイエさんとならどこへでも……」
ハリルベルとリュカさんの意見ももっともだ……。ロゼさんは仕事してください……。しかし、どの案もしっくりこない。三年も前の情報を頼りにアクアリウムへ向かったところでもういない可能性が高いし、かといってヘクセライに隠れていては家族は探せない……。
「お前今何歳だ?」
「もうすぐ十四です」
「あと一年ちょいか……。ならさっきの話の続きだが、重力使いの男のところへ行ってみないか?」
「え? アクアリウムやヘクセライではなく……ですか?」
「ああ、正直お前は弱い。あいつの元に行って鍛えてもらったほうが、今後のためにもなると思っただけだ」
昨日の戦いでも、僕は自分の力でカルミールベアを一匹も倒せてない……。アクアリウムへ行くにしても、ヘクセライへ行くにしても、星食い達が魔吸石でまたモンスターを呼び出したら、僕は足手纏いにしかならないかもしれない……。
「アルノマールさん、その人のところに行ったら強くなれますか?」
「ああ、確実にな」
「でしたら……僕をその人のところに連れてってください!」
「奴はドSだからな。きついぞ?」
「……がんばります」
ガンツが「やっぱり市長はその男とそういう仲なんだろうな」と、こそこそ後ろで話してるのが聞こえ、市長に殴られてた。
「ロイエ。俺もついていくぜ!」
「ハリルベル……ありがとう!」
「何を勝手な事を言ってるんだ? お前はここに残るんだよ」
「へ?」
「そんなヘボくれた火で、星食いの連中と戦えるのか? しっかり鍛えてやる」
「そ、そんな……」
「あん? 嫌だってのかい? ヘルブランランツェ三本が限界だなんて、この先お荷物にしかならないだろ」
「うぅ、がんばりま……す」
市長のゴリ押しでほぼ強制的に、ハリルベルはここに残る事が決まってしまった。
「あの、やっぱり私と一緒にヘクセライへ来たほうが……」
リュカさんが食い止めるのもわかる。ただもうヘクセライへ行く理由があまりなくなってしまったのも事実だ。
「僕の回復魔法の封印解除の方法はわかりましたし、ヘクセライで十五歳まで隠れて過ごすならその時間を使って、少しでも強くなりたい。それが僕の願いです」
「そう、ですか……」
「その代わり、こんな事を頼んで申し訳ないのですが、僕の家族を探してくれませんか? どんな情報でも結構です」
「あちこちの街で出張所を開いてるので、それは構いませんが……」
「それは我々封印教団もお手伝いしますよ。モンスターを封印する事から、星食い達を皆殺しにする事が、私たちの目的に変わりましたが……。ロイエ君が修行してる間、各地の活性化してるフィクスブルートの位置の把握や、周辺住民のモンスター発生に対する対応能力について調べておきましょう」
「ありがとうございます!」
みんなの進むべき道が段々と見えてきた。とりあえず騎士団に追いかけ回されない十五歳まで、少しでも強くなる。
「あの、私は……」
「ロゼさんは貿易の仕事があると思いますし、ナッシュへ戻ったほうが良いと思います」
「そ、そんな……確かに昨日の戦いでは全くお役に立てなくて、心苦しい思いをしておりますけど……追い返さなくても……しくしく」
「あ、いや、そんな事! これっぽちも思ってませんよ! むしろロゼさんがあの場にいたら僕は冷静ではいられなかったと思います」
「そう言っていただけると幸いです」
「修行中は、ロゼさんに構ってあげられないですし、立派な男になって帰ってきますから待っててください」
ひゅーひゅーとガンツが口笛を吹いている。あんな見た目だけど恋愛話が大好きなんだな……。
「……。わかりました。私は仕事をがんばります」
なんかすごく納得してない顔をしているし目が笑っていない。言葉に迫力がまじっているけど、大丈夫だろうか……。
「はぃ、お願いします……」
「よし! そうと決まれば行動だ。あの男のところにはあたいが連れてってやる。出発は今日だ」
「はや! 急ですね……」
「お前らが穴開けた地面とか、あれこれ直さなきゃいけないからな、あたいには事務仕事が山のように待ってるんだよ!」
「「「ごめんなさい」」」
一同全員で謝ると、ハリルベルが重大なとこを思い出した。
「あれ……? ブリュレさんは?」
「誰でしたっけ?」
「ほら、プリンさんの兄の……」
「シルバービーが襲ってきた時に一緒に戦ってくれた……」
「うーん、私頭の悪い人って嫌いなので、忘れた可能性があります」
リュカさんのドストレートな返答に、ガンツが腹を抱えて笑っていると、市長が答えてくれた。
「ブリュレはシルバービーを駆除した後、すぐにハイネル村へ向かってもらった。あちらも狙われる可能性があったからな。ルーエは捕えたし、そろそろ戻ってくるはずだ」
噂をすればなんとやら、ギルドのドアを乱暴に開けると黒マントに黒フードのブリュレが飛び込んできた。
「ただいまー! じゃなかった。……戻ったぞ」
相変わらずミアさんの真似継続中のブリュレ。戻ってくるなり依頼書を机の上に乱暴に叩きつけた。
「おい! ただの見張り。……こんな簡単な仕事を俺によこすとは……! いい度胸いだだだだだだ!」
「あーん? 何様だテメェ」
「ごめんなさいごめんなさい! 調子に乗りました! さーせん!」
市長がブリュレの耳をひっぱりながらカウンターへ連れていく。どうやら市長自ら依頼の受領を行うようだ。
「あの……プリンさんとシルフィさんは?」
「ああ、あの二人には買い物を頼んである。彼女らもそろそろ戻ってくるだろう」
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