[ 097 ] 回復魔法の秘密

「ロイエ。聞きたい事があるんだろ」


 市長が顎で僕を刺した。ここにいるみんなは、苦楽を共にした仲間だ……信頼して話そう。


「僕は回復術師です。回復と重力のダブルです。でも、生まれてからずっとクーアは詠唱なくても使えるし、でもあんまり回復力は高くなく、ずっと不思議でした」


 みんな僕のことをみて、静かに聞いてくれている。心温まる視線に勇気をもらった。


「ナッシュにある、キーゼル採掘所の親方に貰った白い魔石を食べたら、一気に練度が解放されました」

「その白い魔石だが、これのことか?」


 市長がポケットから白い魔石を一つ取り出した。


「あ! それです!」

「ふむ。これは昨日ルーエがボスカルミールベアの頭部を貫いて倒した落とし穴の中から見つかった物だ」


 アルノマールはそう言って、僕に白い魔石を手渡してきた。


「あれ、ロイエ? 確か属性測定器でマスターに調べてもらった時、回復の練度★7って言ってなかったか?」


 そうなのだ。確かにマスターからは練度★7と言われた。でも、白い魔石で解放されたのは練度★4まで、なぜ途中で解放が止まったのか……。


「それについて、ルヴィドから話があるそうだ」

「封印教団ですから、封印系についての調査は専門です。恐らくロイエ君は幼い頃に、封印草を食べさせられませんでしたか?」

「そのまんまの名前ですね……」

「四百五十年ほど前に流行った魔草だそうです。魔力回路を封印する効果があると、古文書に記載されていました」


 あの夢……。あれは恐らく本当に起きたことなのだろう。両親は僕を思って魔力回路を封印してくれたんだと思う……でも。


「恐らく封印は完璧では無かった。四百五十年も前の技術ですからね。部分的に回復魔法が使用可能だったんだと思います」


「確かに、僕が使えていたのは使えたのは自分から他人の魔力で回復する練度★1のクーアと、遅延回復を行う練度★2のレストクーアあたりですかね」


「練度★3のアノマリーは、状態異常を回復する魔法です。私の雷魔法練度★2のゼクンデを数秒で解除したことからこれも使えていたと思われますね」


 確かに……。あの時ハリルベルは動けなかったけど、僕はすぐに動けた……。あれがアノマリーの効果なのか。クルトさんがリーラヴァイパーの毒で腕をやられた時、僕なら本当は治せたのだろうか……。


「あの、クーアや遅延回復のレストクーア、アノマリーが無詠唱で使えていたんですが……」

「それは適正による効果ですね。本来魔法は口に出すことで、体内の魔力回路に最適化されて魔力が流れて発動しますが、適正☆10だと練度の低い魔法は既に魔力回路が最適化されているため、詠唱が不要だと聞いた事があります」


「適正☆10だって?! あたいも長いこと冒険やってるが適正☆10の奴には会ったことないな……どれ。ピッ」


 アルノマールは、おもむろに属性測定器を僕のおでこに当てた。結果的にはマスターに計ってもらった時と大した変化はなかった。


回復属性:短距離系、練度★8、適正☆10

重力属性:短距離系、練度★3、適正☆8


「つまり、ロイエ君は封印の甘かった練度★1〜3は適正の効果でギリギリ無詠唱で使えていて、今回白い魔石を飲んだことで封印草の効果が弱まり、練度★1〜3の弱い封印と練度★4の封印が解除されたのですかね」

「そうかもしれません。本来なら練度★8まで解除されて欲しかったですけど……」


 すると、わくわくした顔でロゼさんが詰め寄ってきた。


「ロイエさん! さっき市長から貰った白い魔石、食べてはいかがでしょう?!」

「そ、そうですね。これでさらに封印が解けるなら……パク」


 魔石研究者としての血が騒ぐのだろう。ロゼさんの提案を受け入れると、僕は白い魔石を口に入れた。昨日と同じくふわった消える……が、魔力が巡るような感覚が起きない。


「特に変わらない……ですね」

「あれま、うーん。計測器持ってくれば良かったですね……」

「なあロイエ。昨日食べた白い魔石って、もしかしてロイエがボスリーラヴァイパーを倒した時の物か?」


 そうかもしれない。ハリルベルとクルトが倒したボスリーラヴァイパーは焼かれて土に埋まってるから掘り出せなさそうだし。


「親方に貰った白い魔石と、今食べた魔石の違い……」

「場所、属性、ボスの種類……倒した人?」


 リュカさんの考察に、ハッとした。


「ボスリーラヴァイパーは僕が倒しましたが、先ほど食べたボスカルミールベアを倒したのはルーエさんですね……」


「倒した人の魔力を魔石が帯びる……その魔石じゃないと封印が解けない……それは十分ありそうですね」

「んじゃ、もういっちょ魔吸石で吸ってボス呼んでみるか?」

「や、やめてくださいっ。封印は解除したいけど、街に迷惑をかけてまでしたくはないです……」


 ガンツのとんでも提案を跳ね除けるも、トロイからとんでも提案が出てきた。


「ハイネル村にも活性化したフィクスブルートがあったっす……。村人を避難させた上でボスを呼ぶのはどうっす?」

「ダメです! それでも村へ多少の被害が出る可能性があります。他人に迷惑をかけてまでやりたいとは思わないです」

「まぁ、ロイエがそう言うならいいんじゃないか? 無理に封印を解かなくても、新しく解放された範囲持続回復魔法はめちゃくちゃ便利だし」

「うん。ありがとう……ハリルベル」


 ただ、昨日みたいに練度★4のグローリアヴァイトが無ければ乗り切れなかった場面があるのは確かだ。次の段階に行くと何が使えるのになるのかだけ、知っておきたい気持ちはある。


「ルヴィドさん、回復魔法練度★5は何が使えるんですか?」

「それはわかりません。何せ五百年前から回復術師が、激減していますからね。文献もあまり残っていないのですよ」

「そうなんですね……。では、もう一つ。火や水などは練度★3が接続詞魔法のオルトでしたが、重力や回復魔法の練度★3は違いました。オルトは解放されないのでしょうか?」

「ん? あたいが冒険者してる時に出会った重力使いの男は、オルト使ってたぞ。もしかしてら他の属性とは覚える順番が違うのかもな」


 使ってた人がいる! それは少し期待できそうだ。先日の戦いではジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテでも雑魚カルミールベアすら倒すことは出来なかった。もう少し強い魔法が必要だ。


「あれは……色々となかなか良い男だったな」

「お? 市長、その男となんかあったんですかい?」

「……詮索は許さん」


 ゴチンと、ガンツが殴られた。

 あはははとみんなから笑顔が漏れる。まだ頭のどこかに戦闘の余韻があって緊張してたけど、少し解けた気がした。

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