[ 096 ] ルーエの目的

 翌日、僕らはメルダーホテルで朝食を食べると、魔法リフトを使ってギルドへ向かった。


 ちなみに、ホテル代については朝方ギルドの受付嬢のシルフィがきて、市長持ちだと教えてくれた。


「来たか……」


 ギルドに入ると怪盗ノワールの破壊した壁の穴は板が打ち付けられており、床も雑に塞がれていた。やっつけ仕事だが、昨日の今日なので仕方ない。


 既にギルドには、ルヴィドとミルト、ガンツさんとトロイも来ており、着席していた。


「とりあえず座れ」


 市長のアルノマールに言われて、ハリルベル、ロゼ、リュカの僕たち四人も席に着いた。プリンさんとシルフィは不在なのは、僕の回復魔法の件があるからだろう。


「まず一つ目。ルーエの目的と背後についてだ」


 トロイさんは脅されて手伝っていた感じが強い。出来れば処罰は免除してくれると嬉しいな。そんなことを考えていた。


「ルーエの持っていたモンスターを呼ぶ装置。これは非常に珍しいが昔一度だけ見た事がある。確か魔吸石と呼ばれる物だ。隕石から採取された非常に珍しい物だったとはずだ」


 魔吸石……? 魔力を吸うのか……?


「そして、実はこのギルドの下には活性化したフィクスブルートが眠っている」

「フィクスブルートが……?」


 あの赤い巨石フィクスブルートがこの地下に? 全然意味がわからない……。それが魔吸石とやらと何の関係が……。


「魔吸石は、その名の通り魔力を吸い取る。ルーエがギルドの床に向けて使ったなら、フィクスブルートから魔力を奪った。そういう解釈になる」

「確かに……。そうかもしれませんが、フィクスブルートってそもそも何なんですか?」

「それは、自分から説明するっす」


 市長の隣で落ち込んでたトロイが顔を上げた。


「ルーエさん達……。星食いは、この星の魔力を吸うと言ってました」

「ほし……ぐい?」

「はい。自分も詳しい話は聞かされてないんですけど、フィクスブルートは星と繋がっていて、魔力を吸い取ると星が反撃のためにモンスターを生成するらしいっす」

「俺は、フィクスブルートの近くにモンスターは出ないって聞いて育ったけど……」


 ハリルベルの問いに、間を置かずアルノマールが答える。


「非活性化したフィクスブルートは魔力を持たないからな。ナッシュの街中にあるフィクスブルートは光っていなかっただろう?」


 確かにそうだ。昔はみんなで囲んで魔力を奉納したと、クルトさんが言っていた。


「ルーエさん……星食い達は活性化してるフィクスブルートから魔力奪って、何を……」

「それは……」

「言ってもいいか? トロイ」


 市長からの投げ掛けに、トロイは頷くしかなかった。


「前市長は、トロイの祖父なんだ。彼が人質に取られている」

「え?! 前市長は亡くなったって……」

「ああ、亡くなった。それはあたいも確認したからな。ただ……」

「……星の魔力を集めると、永遠の命が手に入るっす」

「え……。どういう……」


 ルーエ達、星食いはフィクスブルート、星から魔力を集め永遠の命を得るのが目的……そんなことのために……。


「じっちゃんが死んで……泣いていたらルーエさんが生き返らせてやるって声をかけてきたっす。星から魔力を集めれば永遠の命が手に入る。じっちゃんを生き返らせる事が出来ると……それで自分は協力を」


 みんなが息を呑むのがわかった。ルヴィドすらも顎に置いていた手を下ろした。


「なるほどです。星食いに永遠の命ですか、我々が追っていたモンスター出現の前兆地震は、彼らの仕業で間違いなさそうですね」


 それを聞いた時、リュカさんが立ち上がった。


「貴方は知っていたんでしょ。ルヴィド」


 ギルド内が静まり返る。ルヴィドさんが星食い達を知っていた? 知っていて追っていた? 確かにそれなら辻褄が合う事が多い。ルーエが魔吸石でフィクスブルートの魔力を吸っていると即座に判断したのもルヴィドだ。


「ふー、貴方のことは昔から苦手だったんですよ。その感の鋭さ……」

「貴方はいつだって大切なことは言わないのよ。急に魔法研究所を辞めちゃった時だって……」

「その話はまた今度にしましょう」


 全員の視線がルヴィドに集まる。ルーエの正体や目的も大事だが、僕はもう一つ気になっている事がある。


「ふふ、ロイエ君の視線。聞きたいことはわかってますよ。そこでご飯を食べてるミルトの事ですよね」

「はい。彼女は火、水、風、雷、氷の五つの属性を操りました。とても自然に身につけた力とは思えません」


 ルヴィドは手で丸を作るとウィンクした。


「正解です。実は、彼女は星食いの作った実験台の一人なのですよ」

「じ、実験台……?」


 あんな無邪気に一人だけ飯を食べてる女の子が、実験台……。あのミルトの笑顔は辛い過去の裏返しなのかもしれない。


「ねーねー、これおかわりあるー?」


 いや、気のせいかもしれない。


「ミルトが実験場で聞いた話しと、私の推測。そして魔法研究所での研究結果を交えて話します。ロイエ君、魔力回路は体のどこにあると思いますか?」

「え、こころ……心臓ですか?」

「違います。魔力回路は脳にあります。脳全体が魔力回路と言って過言ではありません」


 と言うことは……。


「ミルトは元々水属性の魔力回路を持っていました。そして、火、風、雷、氷の魔力回路を持つ人間の脳を移植されました」

「え。でも、見た目が……頭五つあるわけでは……」

「脳を削って他人の脳をつけて、回復魔法で癒着させたそうです。それを四人分」


 狂気の沙汰だ。確かに元いた世界でも、脳というのは半分無くなっても影響がないと言われている。だからって……。


「実験はやべーけど、そこのお嬢ちゃんは回復と重力以外の魔法を全部使えるって事かー、便利だな」


 身もふたもないことをガンツさんが言うが、確かにミルトの戦い方を見る限り、万能でどんな状況にも対応出来ている。


「んー、それが弱点がありましてね。ロイエ君、ミルトはどんな魔法を使っていました?」

「えーと、グリーゼルにヴェルア、グレンツェンとアングリフにフリューネル……あ」

「気付きましたね。そうです。彼女は五属性を使える代わりに、全て練度★2までの魔法しか使えません」


 いくら対応力が高くても、練度★2までしか覚えられないのは大きなデメリットだ。威力の高い練度★6の魔法や上級者達が使う★7のヴェルトが使えないのは致命的だと思う。


「これは私の想像ですが、人間が習得できる魔力回路の上限は一つの魔力回路につき練度★10までです。ミルトは五属性を練度★2まで、合計で10です。これは何かしら因果関係があるかもしれません」


 なるほど。いくら五属性を操れても根本が違うのか。それぞれ違うボールが入った二つの袋を持つのが、僕のようなダブルで、五種類のボールが一つの袋に入った状態がミルト。


「ミルトは脳を改造されているせいで、見た目より言動や行動が若干幼稚なのところもデメリットですかね?」

「確かに……」


「ルーエの正体。ミルトの他属性の謎。あとはロイエ、お前の回復魔法についてだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る