[ 095 ] 白い魔石

「ぐあああぁぁ!」

「ちっ、まだ生きてやがるか、めんどくせぇ。範囲は広いが命中率が悪いのがこの魔法の難点だな……」


 まずいまずい……。僕も腹に肩に足、行動不能と言っていいほどのダメージだ。すぐにクーアを使いたいが、トロイさんも血を流して倒れている。


 今直したところで追撃が来ると意味がない……。倒れていたルヴィドやガンツも何発か喰らっている。どうすればいい……。


「後八秒程度か、念仏でも唱えてな」


 魔法の再発動まで時間がない考えろ……。僕にクーアをかけて回復すれば、次の攻撃もクーアで回復出来る……。でもそれだと助かるのは僕だけだ。みんなを救う方法を……。生き延びる方法を……!


――「いざという時、お前の助けになるはずだ」――


 そうだ。親方に貰った小さな袋……。力を振り絞ってポーチの中の袋を取り出すと、小さな白い魔石が入っていた。


 な、なんだこれは? 今更一時的に魔力の上限を伸ばしても意味なんて……。いやもう他にやれることなんてないんだ……。親方を信じるしかない……!


「あん? なんだ? 最後の晩餐か? 味わって食えよ?  ハーハッハッハ!」


 パク……。白い魔石を口に入れると、通常の黒い魔石と同じくふわっと消えた。魔力の最大値が一時的に上がった感覚はないけど……いったい。


 ……ドクン。


 ……ドクン。


 な、なんだこの感覚……。


 体の中で何かが解けていくような……。


「じゃあな! メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト!」


 身体中を……。魔力が巡る!


【回復魔法:クーアが解放されました】

【回復魔法:レイトクーアが解放されました】

【回復魔法:アノマリーが解放されました】

【回復魔法:グローリアヴァイトが解放されました】


 回復魔法が解放されていく!

 考えている暇はない!


「グローリアヴァイト!!」


 ルーエの放った無数のレーザーが届くよりも早く、僕を中心に魔法陣が地面に広がり青く輝きだす。


「これ……は、傷が回復していく……」

撃たれた側から傷が再生する。倒れたみんなの傷も治っていく。広範囲の持続回復魔法?! 咄嗟に一番練度が高い魔法を選んだけど、正解だったようだ。


「か、回復魔法だと?!」


 僕は近距離の回復魔力回路なのに……。この魔法は距離関係なく回復範囲が広い! これならみんなも……!


「ぅ……何がどうなったんだ?」

「うーん?」

「怪我が治ってる……?」

「ちっ!」

「アダサーベン!」

「しまっ! ぎゃあああ!」


 ルヴィドが復活し、速攻で雷魔法をルーエに浴びせた。状況判断が早い。感電したルーエはギリギリ意識を保っているが練度★5や6の魔法を連発したツケが回ってきたのか、再度唱えるような魔力は残っていない。


「ミルト! 凍結!」

「グリーゼル!」

「くっ!」


 ミルトがルーエの手足を凍らせたその隙に、ルヴィドはルーエに近すぎ麻痺魔法を喰らわせる。


「ゼクンデ!」

「ぐぁああ!」


「ふぅ……。ロイエ君ありがとうございます。今回はさすがに死を覚悟しましたよ」


 ルヴィドがルーエを紐で縛り上げながら、僕にお礼をいった。僕だけの力じゃない。みんながいたからできたことだ……。


「ロイエ! 大丈夫か!?」

「ハリルベル! 無事でよかった。リュカさんも!」

「後半ほとんど記憶がありませんけど……なんでルヴィドさんはルーエさんを縛ってるんですか?」


 そうか、ハリルベルとリュカさんはルーエ達が来る前に力尽きたのか。二人が倒れてからの話をすると、ハリルベルは「俺一番役に立ってねぇじゃん」と落ち込んだ。


「そんなところも可愛いんですけど……」とリュカさんがこっそり言ったのを僕は聞き漏らさなかった。


「ふん。危なっかしくて、ひやひやしたぞ」


 暗闇の中、市長のアルノマールが現れた。その顔はなぜか疲労しており、衣服もあちこち焼けこげたり破れている。


「遅いぜ市長! ってか見てたんですか?」

「喚くなガンツ。そうだな、ルーエが現れたあたりからな」

「助けてくれてもいいじゃないですか!」

「馬鹿者。お前らの成長のためだ。時にトロイ……」


 名前を言われてそれまで黙っていたトロイさんが、ビクッと体を震わせた。


「はいっす……」

「わかっているだろ? いろいろ聞かせてもらうぞ」

「自分の知ってることなら、なんでも話すっす」


 観念したトロイさんがとても協力的な態度を取った事で、市長も警戒心を解いたのがわかった。


「生きてんのかー?」

「みなさーん! 大丈夫ですかー?」


 しばらくすると、プリンさんにシルフィさんもやってきて、怪我の手当という話になったが、全員無傷なのでプリンさんの質問攻めが始まったが。


「よし、ルーエとトロイはあたいがもらっていく。他の者は事後処理をプリンとシルフィに任せて、今日は休め。もろもろの話は、明日ギルドで話すから昼までには来るように」


 事情を知ってるアルノマールが、プリンの質問攻めを打ち切り解散させてくれた。


「あのシルフィさん、街のみんなは大丈夫でした?」


 背格好と髪の色がフィーアに似ているシルフィさんはどうにも話しかけやすい……。


「正門は貴方達が対処してくれて、西門と東門のカルミールベアは市長が倒してくれましたので、住民に被害はありませんでしたよ」

「市長って強いんですね……」

「まぁ、あれでも世界に数人しかいないSランク冒険者の一人ですし? ただ、デスクワークで体が鈍って苦戦していたみたいです」

「シルフィ! 余計なことは言わなくて良い!」

「はーい」


 その後の事はあまり覚えていない。全員でロゼさんを迎えに行って、そのままグートの宿に戻る気力もなく。封印教団の取っていた、樹上の街アストのメルダーホテルに部屋を取ってもらいベットに横になると、すぐに寝てしまった。


――いいか? ロイエ。これを飲むんだ。


 父さん……?


――にが〜い


 小さい頃の僕だ。これは……夢?


――よし、偉いぞ。 

  あなた、どう? 

  ロイエの回復魔力回路は封印した。

  あとは十五歳まで静かに暮らす事ですね

  あぁ、誰にも見つからず……。


 そうか、思い出した。僕は両親に魔力回路を封印されていたのか……。ならばあれば、封印を解く魔石……。親方はあれをどこで……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る