[ 094 ] トロイの覚悟
「ふむ。やはりですか。ルーエさんの魔法では地下にあれほどの穴を開けるのは不可能です。土魔法使いが裏にいると思っていました」
それでルヴィドさんは魔力を温存していたのか……。となると、あの時ルーエさんを逃したのはトロイ……。
「トロイさん、ルーエさんはモンスターをこの街に呼んでました! どうしてルーエさんに加担するんですか!」
「……っ! ロイエさんには関係ないっす! 自分たちの邪魔をしないで欲しいっす!」
『グォォオオオオ!!』
ルーエとトロイに気を取られてるうちに、背後ではボスカルミールベアの攻撃をガンツさんが肩を抑えながら、なんとか避けている。
「くっ!」
どうする……前にはルーエとトロイ、後ろにはボスカルミールベア。ガンツさんもそう長くは持たない……。
ミルトは落とし穴を作るのに魔力を使いすぎている。僕も宝剣はリュカさんに貸して手元にない……。ルヴィドの魔法もトロイがいる限り効かないだろう。最悪だ。少しでも魔力を回復する時間を作るしかない。
「トロイさん! ボスカルミールベアを倒さないとフォレストが壊滅してしまいます! この街が好きだと言っていたトロイさんの言葉は嘘だったんですか?!」
「カルミールベアは自分らが倒すので、問題ないっす! 今回の件は見なかったことにして欲しいっす!」
「おい役立たず。勝手に決めるな。見られたんだ、殺すしかない」
「そんな……」
トロイの様子がおかしい……。
自らの意思でルーエの仲間になったわけではないのか?
「ロイエ君、なんとかトロイ君を説得してください。恐らくそれが一番の解決策です」
ボソリと僕に漏らすと、ルヴィドはルーエに向かって走り出した。彼らの狙いはルヴィドさんにトロイをぶつけることだ。
なら逆は行けばいい! ルヴィドに合わせて、僕もトロイに向かって走り出す。
「トロイさん! 何があったんですか! 話してください!」
「話すことなんて何もないっす!」
足の速さなら僕が一番だ。トロイに近づくと彼はザントシルドを唱えたが出るとわかってる攻撃なら避けるのは容易い。地面から突き上がるザントシルドを避けるとトロイへ急接近した。
「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」
「ぐへ!」
四倍重力でトロイを捉えた。
「むぐぅ! フェルスアルトファーラー!」
周囲の地面を持ち上げようとしているが、どうやら彼は近距離系の土魔法使いらしい。僕の重力圏内の地面しか操れていない。
「うぐぅ……」
練度★4の魔法では僕の多重重力の方がやや強いらしい。本来なら自在に地面を操れる魔法のはずだが、ほとんど浮いていない。
「諦めてください! トロイさん!」
「嫌だっす! 自分が頑張らないと……じいちゃんが死んじゃうんっす!」
「じいちゃん?」
「ぬうぅうう! リーゼファウストアルム!」
「……な!」
重力四倍で抑えているにも関わらず、地面が盛り上がってくる……! 土魔法練度★5の魔法か?!
「くっ!」
ボゴォオ!と音を立てて、僕のいた地面から巨大な岩の手が現れた。三メートルほどある岩の手は、僕に向かってその拳を振り上げた。
「ズゥウウウウン!」
咄嗟の回避が間に合って、攻撃を避けることが出来たが、重力は解除されてしまった。
「じ、地面が凹んだ……なんて威力だ」
威力的にはボスカルミールベアの攻撃とほとんど変わらない。
「おい役立たず。何ちんたらやってやがる。さっさと殺せ」
「こ、殺さなくても良いと思うっす……」
「あー? 殺すしかねぇだろうが!」
「で、でも……」
なんだ? ルーエとトロイは同じ目的で動いてるわけじゃないのか? モンスターを呼び出すというのは、何が目的なんだ……?
「ぐあぁっ!!」
ルーエとトロイに時間がかかってる間に、ガンツがボスカルミールベアの一撃をまともに受けてぶっ飛ばされた。
「ガンツさん?!」
魔力切れに加えルーエから受けた一撃も軽くはない。早く癒さないと……。
「ロイエ君! 私とミルトで時間を稼ぎます!
「がんばるかー!」
「させるかよ! ヴァリアブルクヴェレ!」
「グリーゼル!」
「ちっ!」
ルーエの放った水の蛇は一瞬にして凍結された。
「ミルトはそのままルーエを抑えてください! カルミールベアは私が相手します!」
ルーエをミルトが、ボスカルミールベアをルヴィドが、トロイは僕が何とかするしかない。
「クラウンクロイツ!」
ルヴィドはボスカルミールベアに向かって雷魔法練度★5の魔法を発動させると、空気中に稲光が走った。次第にボスカルミールベアの周囲に百を超える雷の剣が現れ、それら全てがボスカルミールベアへと次々と突き刺さる。
『ゴァアアアアア!!』
やったか?!と思ったのも束の間、ボスカルミールベアは雷耐性が高いのかやはりあまり効いていない。そのまま口からヘルブランランツェを吐き出した。
「ぐぅ……!」
「うわあああ!」
雷の剣が刺さりながらもボスカルミールベアは火を吐き、ルヴィドとミルトを殴り飛ばした。
「二人とも!」
「はーははは! こりゃいい。練度★5程度しか使えない癖にでしゃばるからさ。無駄死にお疲れさん」
「無駄じゃない! みんなこの街のために、この街に住む人のために戦ってるんだ! バカにするな!」
「……」
『グォォオオオオ!』
まずい……もう残っているのは僕だけだ……。前にはルーエとトロイ。後ろにはボスカルミールベア。どうする……。
ふと、ルヴィドの声を思い出した……
――「ロイエ君、なんとかトロイ君を説得してください。恐らくそれが一番の解決策です」――
「おい。役立たず、早くそのガキを殺せ」
「……っ」
「トロイさん! 貴方はそんな人じゃない!」
「……自分は……」
「この街を! みんなを救ってください!」
「あーめんどくせぇ、早くやれ! あの約束を忘れるなんなよ!」
「トロイさん!」
「うわああああああーー!」
トロイは叫びながら僕の横を通り抜けると、ボスカルミールベアへ一直線に走っていくと地面に手をついた。
「ドルック・オルト・ヴェルト!」
突如、巨大な穴が地面に開き……ボスカルミールベアは肩まで穴に埋まった。
「な、あの役立たずが練度★6のヴェルトを?!」
僕はトロイさんは役立たずではないと思っていた。スライムを閉じ込めるための掘りは、並の魔法使いでは到底作れるものではなかったから。
「てめぇ、役立たず! 裏切るのか!」
「トロイさんは役立たずじゃありません! 彼はその力でスライム五百匹を閉じ込めて村を救った!英雄です!」
「ロイエさん……」
「役立たず……あの約束は破棄だ! ジジイにあの世で会うんだな!」
「……じいちゃんだったら! みんなを救えって言うっす!」
「ハッ! あの世で仲良くしてな! メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト!」
ルーエの周りに無数の水が集まり、それぞれが膨らんでいく……! ミルトは気を失って動けない。水のレーザーは、重力では防げない!
「ハーハッハッハ! 死ねっ!」
無慈悲な無数のレーザーが……僕の体を、倒れたみんなを、ボスカルミールベアの頭を貫いた。
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