[ 093 ] ボスカルミールベア

 正門に雪崩れ込んだカルミールベアを倒し終わると、リュカさんは力尽きそのまま正門の近くで倒れた。


「ガンツさん! リュカさんの回収を!」

「おう!」


 倒れたリュカさんを攻撃しようと、ボスカルミールベアが豪腕を振り上げた。


「ルヴィドさん!」

「わかっています。アダサーベン!」


 ルヴィドの放った雷の手裏剣がボスカルミールベアの体に突き刺さり、そのまま身体中を斬り刻む。しかし、八メートルの巨体は伊達じゃ無い。接続詞魔法無しとはいえ、ルヴィドの放ったアダサーベンはまったくのダメージを感じていないらしい。


 その隙に、ガンツがリュカを抱えると、フリューネルで逃走。ついでに倒れているハリルベルも担ぎ上げで僕らの後ろまで戻ってきた。


「ミルトさん! あとどれくらいですか?!」

「んー? もうちょっと大きいほうがいいかな? もう少しかかるよー」

「仕方ありません。……時間を稼ぎましょう」


 ミルトの準備が終わったら僕の出番だ。魔力を無駄には使えない。


「すみません。ルヴィドさんガンツさん、頼みます!」

「おう! 任せろ!」


 力強い返事をすると、ガンツは勢いよくボスカルミールベアに向かって加速した。


「ヴィベルスルフト!」


 リュカさんが先ほど使ったのと同じ、風魔法練度★5の連続高速移動魔法だ。練度★5まで使えるとは、ガンツさんはただの飲んだくれモブキャラじゃなかったのか……。


 疾走するガンツに、ボスカルミールベアはその剛腕を振り下ろす。まるでミサイルが落ちたかのような風圧と威力の攻撃が地面を次々に叩き込まれる。


 当たれば即死レベルの攻撃を、全て紙一重で避けるガンツの判断力と身のこなしは驚嘆に値した。


「ルヴィドさん! 何か援護できませんか?」

「んー? 大丈夫。ガンツ君だけだなんとかなりますよ」


 確かに現状はそうかもしれないが、最初からルヴィドは魔力を温存している気がする。雷魔法の遠距離系だからそれが当然かと思っていたが、正門から左へ流れるカルミールベアをガンツと倒す時も遠距離の練度★1魔法だけで対処していた。


 先ほどのアダサーベンも接続詞なしだった。何かを警戒して温存している?それとも……。


「出来たー! 出来たよー!」


 ミルトの準備完了合図が飛んできた。あとはボスカルミールベアを誘導するだけだ。


「ガンツさん! そのままこっちへ!」

「任せろ!」


 大暴れするボスカルミールベアを引き連れて、ガンツが僕らの方へ走ってくる。


 その間には、ミルトがドルックで掘った巨大な落とし穴!


 この暗闇ならまず見つかることはないし、あの巨体ならそう簡単には登れない。あとはジオグランツで押し込めば安全に倒せる。はず……。


「こっちこっちー!」


 あと十メートル……。


 もう少しと思った瞬間。どこからともなく「メルクーアレッタ」と声が聞こえ……。


 ガンツが水のレーザーに貫かれた。


「ぐあっ!」


 レーザーの飛んできた方向を振り向くと、ルーエが建物の影から身を乗り出していた。


「あーめんどくせぇ。全然火の手が上がらないと思ったら……邪魔してやがったか」


「アダサーベン・オルト!」


 ルーエの姿が見えた瞬間。ルヴィドの有無を言わさない雷の手裏剣が高速でルーエへと飛ぶ。

 

「ザントシルド」


 だが、ルヴィドの放ったアダサーベンは、地面から盛り上がった土の盾によって簡単に防がれた。


「はっはっはー! 相性が悪かったな!」

「ちっ……」


 ルーエは水魔法の使い手だ。誰がザントシルドを……。


「おい、役立たず。あのめんどくせぇ雷野郎はお前がやれ」

「……わかったっす」


 建物の影から、トロイが現れた。

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