[ 092 ] ハリルベルの意地
僕とミルトは、ルヴィド達を見習ってヒットアンドウェイ戦法を使い、一匹のづつ確実に倒して行った。
ミルトは、どういうわけか……火、水、風、土、雷の五種類の魔法を使えている。僕が回復と重力持ちなので、ミルトと僕が組めばどんな状況でも対処出来るのでは?と思ってしまうほど相性がよかった。
「あー、そろそろ酔って来たかもー!」
十体ほど倒したところで、ミルトが魔力切れになりかかった。左側では相変わらず安定した攻撃でルヴィドとガンツが活躍しているが、ハリルベルとリュカは苦戦している。
「もう埒があかねぇ! ヘルブランランツェ!」
空が一瞬明るくなるほどの高熱を灯った青い炎の槍がカルミールベアを三体同時に貫く……。が、やはり元々ヴェルアを使うだけあって火耐性が高い。ハリルベルの会心の一撃すら、それほどダメージがあるようには見えない。
「くそ!」
「ハリルベル君! 奴らに火は効かないわ!」
「やっみなきゃ! わからない! ゴクゴク……」
何がハリルベルをそこまで奮い立たせるのか、魔力切れをブルーポーションで無理やり回復させているが、もはや吐き気でブルーポーションを飲めないレベルまで悪化している。
「うぷっ、ヘルブランランツェ!」
ブルーポーションを飲みながらの無理やり捻り出した二本目の炎の槍で、カルミールベアが少しぐらついて膝をついた。
「おぇ……まだ、まだぁあああ!」
「もういいわ、! 無理しないで!」
「う、ぐ……ヘルブランランツェ!」
ハリルベルの限界、三本目の炎の槍がカルミールベアに突き刺さると、ついに限界を超えた。三体のカルミールベアは生き絶えて魔石へなり、地面へ落ちた。
「へっ、ざまぁ……みろ」
バタっと気を失ったハリルベルのフォローが必要だ。リュカ一人では戦えない。
「ミルト! こっちだ!」
「はーい、ゴクゴク。うえっ……これゲキマズっ」
正面を離れてハリルベルの方へ向かおうとした時、今までよりも大きな鳴き声が聞こえ、地面を揺らした。
『グォォオオオオッーー!!!』
声のした方へ、すかさずガンツが花火を飛ばすと、一瞬だけ闇夜の中にシルエットが見えた。
カルミールベア自体がニメートル近くあるのに、それよりさらに大きい、八メートルほどのボスカルミールベアが背後に控えていた。
「な……なんだ、あの大きさ……」
それを見たガンツが震えた声を出すの同時に、ボスカルミールベアの足元に控えていた二十体ほどのカルミールベアが一斉に雪崩れ込んできた。
「な……」
土埃を上げて迫ってくるカルミールベアの大群を前に、逃げの一手しか頭には浮かばなかった。が、一人だけ違った。彼女は戦おうとした。
「ロイエさん! ルヴィドさん! 雑魚は私が食い止めます!」
リュカが声を張って作戦を伝えるも、作戦ですら無い内容に戸惑っていると、僕の元へ彼女は駆け寄って来た。
「ロイエ君! 私を軽くしてください! それとその宝剣貸してください!」
リュカの真剣な瞳に迷いは無い。僕はすぐにジオグランツでリュカを軽くすると、宝剣を渡した。
「ルヴィドさん! 私が突破口を開きます! 後のことは任せました!」
ルヴィドは親指をグッと上げて合図すると、それを見たリュカは拾って来た魔石を食べ始めた。
「私のことはもぐもぐ……気にしないでください! ごくん。行きます!」
リュカが宝剣カルネオールを構えると、呪文を唱えた。
「ヴィベルスルフト・オルト!」
瞬間、リュカの足が光り輝き出した。と思ったら既に姿はなく、攻め込んできていたカルミールベアの首が飛んだ。
「これは……風魔法練度★5?」
文字通り風のような速度で、雪崩れ込んできたカルミールベアの間を飛び移り、宝剣で頭部を次々と斬り裂いていく。
練度★1のフリューネルは一方向にしか風を発生させられないが、これは常に自在に風を操っている。
本来ならこの魔法で、これほど高速で飛行することは不可能なのだろうが、ジオグランツによる軽量化で羽毛のように軽いリュカさんは、まさに閃光の如く雪崩れ込んできたカルミールベアを次々と倒していく。
「わお、これはすごいですね。まさに切り裂く風」
リュカは重力範囲内から外れないように戦ってくれていたが、近場のカルミールベアを倒し終わると、魔力が切れる前にボスカルミールベアの足元の雑魚を倒すため、重力圏を飛び出した。
その隙にルヴィドとガンツが正門まで来た。ハリルベルは倒れたままだが、あの位置なら大丈夫だろう。
「さて、彼女がカルミールベアを倒し後、あのデカブツをどうしましょうか」
「市長も火魔法なので、もし駆けつけてくれても効くのかどうか……」
みんなカルミールベアとの戦闘で体力半分と言った感じだった。あのボスカルミールベアをどうやって倒すか……。リュカさんが稼いでくれた時間で考えなくてはいけない。
「後五匹。ロイエ君の重力圏外では、彼女も限界でしょう。回収にむかいましょう」
カルミールベアの間を縫うリュカは、徐々に速度を失いつつある。考える時間などほとんどなかったが、もうやるしか無い。
「ガンツさんは風ですよね。フリューネルでリュカさんを回収してください」
「まかせろ!」
「ルヴィドさんは、その間少しでも良いのでボスカルミールベアの注意を惹きつけてください!」
「頑張りましょう」
「ミルトは……ごにょごにょ」
「え? まじ? めちゃ楽しそう!」
「それ本気ですか? 楽しそうですね」
僕の作戦を聞いて、ミルトは楽しそうにはしゃいだが、もうこの作戦しかない!
「作戦開始!」
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