[ 099 ] 別れ

「市長ー! 戻りました!」

「ブリュレさん、その耳はどうしたんですか?」


 丁度話が終わったところで、プリンとシルフィが帰ってきた。ギルドの外には、リアカーに乗った巨大な箱が置かれているのが見える。あれがお土産かな……。


「よし! それじゃ面倒な奴が来る前にさっさと出発するぞ!」

「面倒な奴って誰ですかぁー?」

「一番厄介なのは秘書のエリーテだな」

「ほほぉー? で、どこへお出かけですか?」

「あれ、その声は……」


 プリンとシルフィの後ろから、女性がひょっこり現れた。一度だけ見たので顔はあまり覚えてないけど、確か市役所にいた秘書の人だ。この市長をコントロールするほどの人だ。並の人物じゃないだろう。


「う……エリーテ。どうしてここが……」

「市長の考えることなどお見通しです」

「……プリン。貴様喋ったな……」

「すみません……」

「シルバービーによる世界樹の延焼処理と、カルミールベアによる街の損害対策、費用負担など色々やることはあるのですから、出かけてる暇はありませんよ?」

「うぅ、わかったわよ……。わーかったわよ。はぁ」


 傍若無人なアルノマールでも逆らえない人がいるのか……。エリーテさんとは、どんな関係なんだろう。


「ロイエ、さっきの件だが……どうするかな」

「私とミルトが同行しましょう」

「え? ルヴィドさん、いいんですか?」

「ええ、それほど急ぎの用事はありませんし、道中で未発見のフィクスブルートを見つけるかもしれません。場所だけでも押さえておけば、だいぶ違いますから」

「ルヴィドー! 出かけるか?!」

「そうです。ロイエ君と少しだけ旅をしようかと思ってね」

「わーい! 美味しいものあるといいなー」


 ミルトが白いドレスをひらひらさせて、ぴょんぴょん飛び跳ねている。このミルトの面倒を見ながらの道中が少し心配だ……。


「ちなみにルーエさんは、いまどうしてるんですか?」


 これを逃すと聞くタイミングが無くなると思って、こっそり市長に聞いてみた。


「ああ、全然口を割らなくてな。ちょっと思う事があって王国騎士団への引き渡しではなく、ヘクセライへ密送した」


 市長ほど血の気が多いなら、既に殺して埋めているかと思ったが、生かしておいた事に少し驚いた。何か情報を引き出せると良いけど……。


「これが奴のいる詳しい居場所だ。まずは北門を出て砂漠都市デザントを目指せ」


 市長から居場所の書かれた紙を受け取ると、ポーチへしまった。頑なに名前を言わないところを見ると、何か知られたくない事情でもあるのだろうか?


「わかりました。あの……その方は何という名前なのですか?」

「な、名前は……その紙に書いた! 後で読め! 絶対後でだ! わかったな?」

「は、はい……」


「よろしい……。それと、この書状を奴に会ったら渡してくれ」

「わぁ、可愛らしいピンクの便箋ですね」

「貴様、絶対に中を見るなよ? 極秘事項が記されてるからな? わかってるよな?」

「ぜ、絶対開けません……」

「よし! 北門に馬車を待たせてある。準備が出来次第さっさと出発しろ!」


 ナッシュを出る時も手ぶらで出てきたし、僕は特に準備らしい準備をする必要もない。ルヴィドとミルトの顔を見ると彼らも準備万端だったらしく、頷いた。


「ハリルベル、君と出会えた事が僕の一番の幸運だった。本当にありがとう……。ここで待っていてくれ、必ず戻るから」

「ああ、行ってこいロイエ。俺も負けないくらい強くなるからな」


「リュカさんも、ここまでのサポート本当に心強かったです。ありがとうございました。引き続き情報収集お願いします」

「いつでもヘクセライに来てください。安全は保証します」


「ロゼさん、あなたのおかげで窮地を脱せることも多々ありました。本当にありがとうございました。また会いましょう!」

「……わたくしこそ、楽しい日々をありがとうございました」


 ロゼさんについて来てもらえれば嬉しいけど……。どこにルーエみたいな過激な星食いの連中がいるかわからないし、ロゼさんを守れる自信がいまの僕にはない。


「……ルヴィドさん、ミルト。行きましょうか」

「はい。ミルト行きますよ」

「わーい」


 プリンさんからカルミールベアの討伐手伝いの代金を貰うと、みんなに別れを告げて僕たちは街の北門に向かって歩き出した。

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