[ 190 ] ハリルベルと?

 樹上の街アストへ上がると鍛錬所を目指した。

 アルノマール市長に先に挨拶をと思ったけど、先週会ったばかりだし、ハリルベルに先に会いたかった。


「鍛錬場は市役所の裏手って聞きましたけど……」

「ええ、市長が特別に作ってくれたんですけど」


 僕とロゼが市役所の裏へ回った時だった。


「ヴァッサー!」

「ヴェルア!」


 相反する魔法がぶつかり白煙があがる。


 最初に飛び出してきたのはハリルベルだ。1年前より体が引き締まり筋肉質になっている。その体からはアルノマール市長の訓練の厳しさが伝わる。


「くっ!」


 ビュンと白煙から飛び出た小さい誰かが、ハリルベルに襲いかかる。小さい影は杖を使った杖術が得意らしく、背やリーチの低さを杖で上手いことカバーしている。


「フッ! はぁ!」


 ハリルベルも木剣で反撃を行うが、見事に防がれ一撃も決まっていない。


「ほれ、行くぞ」


 あれ? どこかで聞いたことのある声が聞こえた。しだいに白煙が薄れて、もじゃもじゃ髭の小さなお爺さんが現れた。


「メルクーアレッタ!」

「いまだ! ヴェルア!」


 メルクーアレッタを練度★1のヴェルアで防ぐ?! 無理だ。練度が違いすぎる。僕はすぐに回復魔法が使えるように構えた。


しかし、僕の予想を裏切って、ハリルベルはヴェルアの小さな火でメルクーアレッタをかき消した。


「もらったーー!」


 その勢いのまま、ハリルベルが小さなおじいさんに追い打ちをかけると木剣を思いっきり振りかぶった。が、杖で受け止められ、その一撃は届くことはなかった。


「うむ。まぁもう少しじゃな」

「くぅ! もう少しだったのに!」


 ハリルベルはがっかりすると洋服の土を払い、尻餅をついた白髪の髭もじゃ老人……ナッシュのマスター。アテル・ロイテへ手を差し伸べた。


「マスター!」

「おー? ロイエか、久しぶりじゃのう」

「久しぶりじゃのう、じゃないですよ!」


 思わず涙が出た。

 僕がここまでこれたの全てマスターのおかげだと言っても過言ではない。練度のごまかしにギルドカード偽装。それらがなければ僕はとっくに騎士団に捕まって、どうなっていたか……。


「マスター、お久しぶりです。お元気なようで何よりです」

「うむ、お主もずいぶん大きくなったな」

「おーい。ロイエ、俺を忘れるなよー」

「ご、ごめん。ハリルベル。お待たせ帰ってきたよ」


 僕にとっては家族に等しい二人に会えたことで、色々と我慢してきたものが溢れ、また涙が出てしまった。


「あー! ロイエをいじめたなー! フリューネル!」

「な、なんだ?! この鳥……うわぉああああ!」


 ハリルベルがピヨの魔法で吹き飛ばされてしまった。


「ハリルベルさん大丈夫ですか?」

「う、うーんr


「こらピヨ、ダメだって言ったじゃないか」

「ごめんピヨ……。ロイエが泣いてたから……」

「ありがとう。嬉しくて泣いちゃっただけだから」

「えへへ」


 ピヨは僕の周りをピヨピヨと鳴きながら飛ぶと、僕の肩に降りたった。


「ほぉ、これ珍しい。人語を喋る上に魔法まで使える鳥とは……。長年生きてきたがこんな生き物は初めて見たわい」

「ピヨだよ。よろしくピヨ」

「フォッフォ、よろしくのぉ」


 こうして僕はハリルベルとの再会だけではなく、ナッシュなマスターとも再開することが出来た。


「とろこで、マスターはなぜここに? 僕らが出た後、マスターは騎士団に捕まってナッシュは封鎖されたって聞きましたけど……」

「表向きはな? 騎士団長のアウスと話をしてな。星食いの尻尾を捕まえるために、一時的にロイエを泳がすって話にわしも同意したのじゃ」

「それじゃあ……」

「ああ、基本的にどこにいてもアウスの率いる騎士団がお主を捕捉していたはずじゃ」


 それでバルカン村ではすぐに騎士団が駆けつけたのか


「ところで、アクアリウムへ行かなかったそうじゃな」

「ええ、少し用事ができて……。代わりに僕の仲間が行きましたけど」


 アウスはアクアリウムに来いと言われたが、僕は僕でそれどころではなかった。


「どうやらそれはアウスにとって誤算だったみたいでな。計画の変更が出てしまった」

「計画?」

「……王の暗殺、わしらでクーデターを起こすんじゃ」

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