[ 189 ] フォレストギルド
馬車を降りると、一年ぶりのフォレストは様変わりしていた。
まず世界樹と呼ばれていた巨大な樹木が半分ほど焼け落ちている。
「ロゼ、あれって……」
「市長やハリルベルさんとの修行の結果ですわ……」
何がどうやったらあんなことに……。街のシンボルをあそこまで燃やしてしまっていいのだろうか。いいわけないよね……。
「ここがフォレストか、ここで仲間と落ち合うんだよな?」
「ええ、そうです。ハリルベルと、ルヴィドさんミルトの三名と合流する予定です」
店長はきょろきょろと辺りを見回すと、クンクンと何やら匂いを嗅ぎ体の向きを変えた。
「なら数日はかかりそうだな。俺は適当に宿を取るから出発の日が決まったらギルドに伝言してくれ、この街の料理も食べ歩いてみてぇからな。一人の方が楽だ」
「わかりました。ではまた数日後に」
「ああ」
左手で料理中の鰹節を持ったまま、リュックを片手に店長は街の中へ消えていった。
「わたくし達は、一度ギルドに顔を出しましょうか。タイミングがよければハリルベルさんもいると思いますし」
「そうだね」
本当に久しぶりだ。あたりを見回すと、元ギルドマスターのルーエやボスカルミールベアが暴れた街並みは綺麗に直っている。
「いらっしゃいま……あ、ロイエさん」
明るい声で出迎えてくれたのは黄色い髪のプリンさんだった。
隣には銀髪がフィーアに似ている、シルフィもいた。
「おいおい、こんなお子様が冒険者かよ。ガーハハハハ! ママのところへ帰んな」
「何やってるんですかガンツさん」
「フハハハ。元気そうで何よりだ」
デザントのギルドマスターとキャラかぶってるガンツが、豪快な腕で握手を求めてきた。
「少しは強くなったか?」
「ええ、少しは」
ガンツの目がキラリと光り構えを取ったが、二階から降りてきた人物によってガンツの粗相は止められた。
「ガ、ガンツさん、ここでの戦闘はご法度ですよ」
階段を下りてきたのはトロイだった。
「ふん、いっちょ前にマスター気取りか」
「ガンツさん、マスターへの侮辱はランク降格になりますよ」
「へいへい、冗談だよ。すまなかった」
一年前よりも、スッキリとスリムになり男前の顔になったトロイの姿がそこにはあった。
「ロイエさん、お久しぶりっす」
「トロイ? ずいぶん変わったね。ギルドマスターになったの?」
「ええ、騙されていたとはいえ、本当は処刑されても文句が言えない立場っす。でも市長が便宜を図ってくれて、無罪とする代わりにギルドマスターとしてほぼ無報酬で働けと。おかげでゲッソリ痩せたっす……はは」
「自業自得です」
鋭いプリンさんの突っ込みを受けてトロイはぐうの音も出なかった。
「あれから一年ですか、積もる話はありますので、夜はここで宴会を出来るように用意しておくっす」
「え、悪いよ」
「いいんです。ロイエさんはこの街を救ってくれました。それくらいやらせてほしいっす」
「そっか、ありがと。ところでハリルベルって……」
所在を聞こうとしたら、無口な印象のあるシルフィが何の恨みがあるのか僕を睨みながらそっけなく答えてくれた。
「ハリルベルなら、この時間は樹上の街アストの鍛錬所にいます」
「そ、そうなんだ、ありがと……」
ん? いまシルフィがハリルベルと呼び捨てに?
この沈黙が何を意味するのかシルフィは察したらしいが、それでもなお睨んでくる。
「あの、もしかして……」
「なにか?」
「いえ、なんでもないです……」
怖すぎる、なんだこの圧力。これ以上はなにも聞けない。
僕はロゼに目で合図を送ると「また夕方に」と言い残してギルドを後にした。
「あのロゼ、もしかしてシルフィとハリルベルって……」
「ええ、お付き合いしておりますわ」
「やっぱりか、なんであんなに……」
「ロイエさんが来たらハリルベルさんと他の街に行ってしまうからじゃないでしょうか」
「そっか……。でもそればっかりは……」
「ですわね。なのでシルフィさんもあれ以上なにも追及出来なかったんですよ。女心をわかってあげてください」
「はい……」
随分と様変わりしたフォレストギルドに驚きつつ、僕らは樹上の街アストに行くべく水上エレベーターを目指した。
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