[ 199 ] 王の事情

「お察しの通り……。王は騎士団の護衛班、監査班を用いて、各地のフィクスブルートからこの星の魔力を集めています」

「ふむ、私達が知りたい部分はそこではない。なぜ騎士団は最大の敬意を払うべき王を打つ気になったのか」


 リューゲは少し周りを気にする素振りを見せると、小さな声でぼそりと呟いた。


「……王の寿命が尽きそうだからです」


 王が死にかけている? それがどんな関係が? なら放置しておけばいいのではないだろうか。わざわざ討ち取る必要はないと思うけど……。


「それは由々しき事態だな……。今までよりも護衛班、監査班の活動が激しくなるということか」


 そうか。王の死が近いから一日でも早く永遠の命を手にしたいのか。となると……。


「……現在、未発見の回復術師狩りと、練度の高い魔法使いの拉致が計画されてます」


 早く永遠の命を手に入れるため、なりふり構ってられなくなったというわけか。


「ふん、自分勝手な王だな……」

「王都研究所に潜入している者によると、実験は最終段階に入っているとのことです。それと警備が薄れた隙に実験の被験者名簿を入手しました」

「見せてみろ」

「こちらです」


 リューゲが取り出した書類には、ずらっと名前と性別、年齢、属性、練度が記載されている。そして何人かの名前にバツがついている……。


「このバツがついたのは」

「実験に使われて亡くなった方です」


 いつ作られた資料かわからないけど、パッと見てでも十人以上のバツがついている。回復術師が必要なのはルヴィドさんの話でなんとなく想像が付くけど……。


「あの……。なぜ練度の高い魔法使いや回復術師が必要なのでしょうか?」

「私もそれが聞きたいな」

「そうですね。結論から申しますと、永遠の命を得るには、回復魔力回路に星の魔力を流すそうです」

「回復魔力回路に?」

「そうです。ただし、それには星の魔力に耐えられるほどの……練度の高い魔力回路が必要でして。各地から回復術師を集め、練度を高める訓練を強要しているそうです」

「どうやって回復術師の練度をあげているんですか?」


 これが分かれば僕の練度も上げられる。そんなことを少し期待していたが答えは残酷なものだった。


「お気を悪くしないでくださいね。身内も一緒に拉致して、目の前で切り付けて痛めつけるそうです……。見殺しにしたくなければ回復させろと脅して」

「酷すぎますわ……」


 ……人間のやることじゃない。

 そんな事をしてまで王は永遠の命を得たいのか。


「練度が高く星の魔力に耐えられたなら王に移植するのか……。ならば、なぜ騎士団の人間が拉致されている。関係ないだろう」


 それもそうだ。回復術師さえいればいいのでは……。


「回復術師は貴重ですからね。どの程度の星の魔力に耐えられるかの実験の為だけに、消費するわけにはいかないのでしょう。練度の高い騎士団は捕らえられると星の魔力を無理やり流されたて、どこまで耐えられるのか実験体にされるそうです」

「それで、練度の高い騎士団が……」

「そうです。民間では高くても練度★3程度ですが、騎士団のメンバーなら最低でも練度★3、高ければ練度★5~6がおりますから実験には最適です」


 騎士団で実験して、捕らえてある回復術師で実験するのか……。王の寿命が近くなりそれに焦りが生じていると。


「今後、さらに罪もない村人や騎士団が拉致され殺されるでしょう……。永遠の命だなんて、本当にあるかもわからないもののために、これ以上民が血を流す必要はありません。我々調査班が王を討ち取ります」


 リューゲさんの決意は堅そうだ。

 これが事実なら王は、自国の民を生贄に使おうとしているのか、なんとしても止めたいけど……。


「なるほどな……。いつも慎重なアウスからの提案だったので、俄かには信じられない内容だったが、概ね理解した」

「恐らく渓谷の橋を落としてアウス達を足止めしている間に、王都に戦力を集めておるんじゃろう」

「我々もそう読んでいます。なのでギルドの冒険者の方々にお力添え頂けたらと……」


 調査班が騒ぎ立てながらフォレストを立ち、ヘクセライ経由で王都へ向かう裏で、僕らがデザントから海路へ王都へ直接乗り込むのか……。正直、護衛班のロートのような強さのやつが現れたら、手も足もでないかもしれない。


「嘘だろ……」


 突然ハリルベルがよろよろと立ち上がり、リューゲがテーブルに置いた資料を乱暴に手に取った。


「ハリルベル……?」


「くそったれが……。何が永遠の命だ、ふざけやがって……。ベルフィ……」


 ポタポタと涙を流すハリルベルの怒りに満ちた視線の先には、資料の真ん中……。ハリルベルの妹……ベルフィの名前にバツがされていた。

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