[ 198 ] 秘密の会議

「来たか……座れ」


 ソファーに座る市長とマスター、そして二人の騎士が立っており、こちらへチラッと視線を送った。


「え、騎士団……」

「市長、どう言うことですか」

「聞こえなかったか? 座れ」


 アルノマール市長の威圧に寒気が走り、僕らはローテーブルを挟んで反対側の空いているソファーへ腰を下ろした。


「お前らも座れ、話がしにくい」

「わかりました。リック、お前は警備にあたれ」

「はっ」

 

 リックと呼ばれた若い声の男性騎士は、僕らの入ってきた入り口へ向かうと侵入者に備えて、槍を構えたまま警備を始めた。


「話を始めるぞ」


 騎士団を交えての会議だなんて……。少し緊張する。


「こちらの騎士団は調査班の副団長のリューゲ殿と、調査員のリック殿だ」

「初めまして、冒険者のロイエです」

「ハリルベルです」

「ロゼと申します」


 座ったままぺこりと頭だけ下げた。

 なぜここに調査班の副団長が……? アウスはアクアリウムにいるのに別行動をしているのか?疑問は尽きないが、そんなことはお構いなしにアルノマールの話は始まった。


「まず、この中で一番事情を知らないのがロイエ、お前だ。お前にわかりやすいように話をするが、疑問があったらその場で質問しろ」

「わ、わかりました……」

「よし、まず現状の把握だ。ルーエをはじめとした星食いを名乗る連中が、あちこちでフィクスブルートから星の魔力を抜いているのは知っているな?」

「え? ええ、何度も戦いましたし」

「トロイから聞いたそいつらの目的は、永遠の命だと言っていたのは覚えているか?」


 トロイさんがルーエから聞いたという話の一つだ。ルヴィドさんの予想では、仮に永遠の命が手に入るとして、騎士団の護衛班が動くなんて、欲しているのは王で間違いないという予想だった。


「星の魔力がそのまま永遠の命になるわけではなく、何人かの犠牲と回復魔法使いが必須らしい、と言うことまでは憶測がついている」


 それもルヴィドさんの予想通りだ。調査班の何人かが行方不明になっているという話も繋がっている。一般人ではなく、わざわざ調査班の人を誘拐していることから、それなりに魔法の練度が高くないとダメなのだろう。


 同じ騎士団なら連れ出しやすいし……。仕事柄、行方不明になったところでバレにくい。


「お前ら、調査班の団長を務めているアウスは知っているな?」

「はい」

「いえ、俺は会ったことないですね」


 あ、そうか。ハリルベルは会ったことが……。いやあるな。


「ハリルベル、僕らがナッシュからハイネル村へ馬車で移動した時に会った騎士団の人を覚えているかい?」

「ああ、そんなことあったな」

「あれが調査班の団長のアウスさんだよ」

「なるほど、あの人か……。今思うと相当強そうだったな」

「めちゃくちゃね」

「そのアウスからの報告だと、現在ではアクアリウムで足止めを食らっているとのことだ」

「渓谷にある橋の崩落ですね」

「ああ、本当はアクアリウムにいる本隊とロイエも合流して、フォレスト経由でヘクセライへ行き、そこから王都へ攻め込むつもりだったが、計画が変わった」


 いや、その王都へ攻め込むって話の流れが意味不明なんだけど……。質問があったら言えと言われたけど、口を挟んで良いのか……。


「ロイエ殿もご存知かと思いますが、渓谷の橋が落とされたからです」

「え? ああ、そうですね」


 突然騎士団の人に話を振られたけど、僕の名前は知っているのか……。


「うむ。本来は王都から一番遠いアクアリウムで密かに戦力を集め、一気に王都まで攻め込み王の首を取る予定だったが……」

「アルノマール殿、渓谷の橋を落とされたタイミングから考えても計画が漏れている可能性があります」

「そうだな。そこで二手に別れることにした」


 ダメだ。王都を攻めるのはもう決定事項で前から決まっていたみたいな口ぶりだし、市長と騎士団の男の人の話がヒートアップしてて話を挟めそうもない……。


「アウス率いる本隊は、橋が直りしだい計画通りにアクアリウムからフォレストを経由して陸路でヘクセライへ向かう」

「待ち伏せされている可能性が高いですね」

「うむ、そこでもう一つの部隊だ。ギルドメンバー何人かでチームをつくり、デザントから海路で王都へ攻め込んでもらう」

「なるほど、陸路と海路から王都を挟み撃ちですね」

「そうだ。その役をお前たちに頼みたい。ロイエ出来るか?」

「……え?」

「人員はお前が決めていいぞ。フォレストとデザントのギルド団員を使ってもいい。出来るか?」


 ちょ……え? 僕らが王都へ攻め込む? どう考えても無理だ。戦力的な事もそうだけど、メンタル的にも無理だ。


 王が民を皆殺しにしようとしてるとか、そういう話なら止めなきゃいけないと思うけど……。一緒に王都を攻めましょうと提案して、ギルドのみんなが「よしそうしよう」なんて話にはならない。


 誰かが言っていたが、仮に王が不老不死になろうが民には関係ない事だ。しかも犠牲になってるのは騎士団で、フィクスブルートから魔力を吸った後のモンスター退治も騎士団側でやっているとルヴィドさんが言っていた。


 この国の民から見たら、僕らの方が悪者なのではないだろうか。なぜアルノマールは話の核心の部分を言わないんだ。


 チラッとアルノマールに視線を飛ばすと、市長の目は本気だった。


 いや、無茶苦茶な人だが、それを強要するような人ではない……。マスターが黙っているのも気になる。ここはアルノマールを信じてみよう。


「出来ます。僕らにお任せください! 必ずや王都を落として見せましょう」


 隣で、ロゼとハリルベルが驚愕の表情を浮かべているのが見えた。ごめん、きっと市長にも考えがあっての事だと思うんだ。


「よろしい。それでこそ我が精鋭。では話して頂けますか? リューゲ殿」

「かしこまりました。では王の近辺についてお話しします」


 リューゲと呼ばれた騎士は兜を脱ぐと、水色の髪に緑の瞳、女性受けしそうな優しい顔立ちが顕になった。

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