[ 216 ] 護衛騎士グロッサ
水の牢獄とでも言えばいいのか、グロッサの放った魔法レプンケレットメーアは、僕ら全員を閉じ込めて窒息させるのに十分な強さを持つ魔法だった。
練度★8というと市長の使っていたブレンメテオーアと同レベルの魔法だ。僕らは対抗するのではなく引くべきだった。
「ゴボゴボ……!」
予想外の水責め攻撃は、僕らが息を吸う間もなく発動した為、体内の酸素量が厳しい……。
「この魔法さー、練度★8の割にはちょいと避ければ終わりだから、知ってる人には効きにくいのよね。初見でラッキー」
いつ間にか分身を解除したグロッサは、楽しそうに歩いてハリルベルの前へ来ると、スカートを捲り太ももを露わにして装備していた短剣を取り出した。
「ま、窒息させてもいいけど、私は確実派なの。ごめんねー。奇跡は起きないんだよねぇアハハ」
「ゴボッゴボッ!」
容赦なく短剣を突き刺されたハリルベルだが、ほとんど血は出ない。僕が無詠唱のクーアでその傷を癒したからだ。
「あー! いっけなーい。忘れてたわ。君がいたんだったね。でもどーしよかな。この魔法使ってる間って他の魔法使えないのよねぇ」
だから剣でとどめを刺しにきたのか。確かにこの水の牢獄に殺傷力は無い。今のうちになんとか抜け出さないと……。
でも、どうすればいい。重力魔法も詠唱出来ないからダメ。回復魔法は練度★3までなら無詠唱可能だけど、クーア、レイトクーア、アノマリーしか使えにない。破壊剣も強い衝撃を受けないと超振動はしない。
「しょーがない。窒息するまで待たせてもらおうかな」
何か手はあるはずだ。何か……。
ハリルベルが水の中で口を抑えて苦しそうにしている。
諦めるな。絶対誰も見殺しになんてしない……!
くそ、意識が……。
ギリギリまで考えろ。僕に出来ることを!
そうだ。魔力回路が繋がったんだ……。重力から回復への連携は出来てる……。
なら、回復から重力への連携も理論上出来るはず。回復魔法は適正★10の効果で練度★3までなら無詠唱が出来る。もしこれが重力魔法にも適応されているのなら……!
もうこれに賭けてみるしかない!
僕はクーアを無詠唱で使う時と同じく重力魔法を心の中で唱えた。
(ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!)
「な?! ぐぅう!」
出来た! 油断していたグロッサへ重力魔法がヒットした。護衛班ともなると魔法抵抗力が高いのか、僕の重力魔法がそれほど効いていないように見える。
魔力を、防御に向けているからか、グロッサのレプンケレットメーアが少し小さくなると、 一番巨大の親方の顔が水から出た!
「ブハッ! リーゼファウスアルム・ヴェルト!」
「しまっ!」
親方の唱えた土魔法練度★5で、地面から無数の土の腕が生成されると、水の牢獄に捕まってる僕らを掴んで放り投げた。
「ッハァ! ヘルブランランツェ・オルト!」
空中に投げられながら、ハリルベルが針のように細くさせた青白い高温の炎ヘルブランランツェを、重力魔法で動けないグロッサに向けて投げつけた。
「くっ! ギャァアアア!」
ハリルベルの攻撃は、グロッサの右腕に刺さり燃え上がった。その威力は僕の想像してたよりも強く、あれだけの攻撃でグロッサの右腕の皮膚は垂れ下がり間違いなく重症だった。
「げほっ……はぁはぁ」
親方のお陰で、全員水から出ることは出来た。グロッサの右腕は使い物にならないくらいの重症。レプンケレットメーアの弱点もわかった。完全に僕らの形勢逆転。
「隙ありじゃ。メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト!」
マスターの魔法がグロッサに向けて放たれると、それらは全て命中した。
「ぎゃぁああぁああ!」
「よし!」
護衛班ロートの強さが脳裏に焼き付いているせいで、同じ護衛班のグロッサに恐怖を抱いていたが、この四人ならいける。メルクーアレッタで貫かれたグロッサは、倒れずに立っていた。
「ふふふ……。痛いねぇ。痛いよぉ」
「ハリルベル! トドメを刺すんじゃ!」
技後硬直で動けないマスターがハリルベルへ指示を飛ばしたが、一歩遅かった……。血だらけのグロッサが僕らを睨むと呪文を唱えた。
『ヴァッサークローネ』
グロッサが唱えた瞬間、まるで洗濯機の中に放り込まれたのかと錯覚するほどの巨大な渦が発生した。
波に飲まれる寸前の僕らを、親方の召喚した腕が救って建物の屋上に避難させてくれたが、激しい渦の流れで岩の腕も全て砕けた。
「おいおい、なんだよこりゃ」
「ロートの時と同じだ。あの状態になるとあらゆる魔法や物理攻撃が効きません……」
「まずいのぉ、王冠クラスか……」
「爺さんなんだそりゃ」
「練度★9のクローネ系魔法の使い手を、王冠クラス言うんじゃよ」
巨大な渦潮が一点に集まり収束すると弾け、その中から水の化身と化したグロッサが現れた。
「アーハハハ! ヘクセライでの戦いのために体力温存してたけど、もういいわ。私の肌を傷付けた罰。身をもって受けなさい」
ロートの時と同じように、もはや人間ではなく全身が水で出来た水の精霊とでも呼ぶべき異形の存在が、僕らの前に立ちはだかった。
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