[ 215 ] 水魔法使いの強襲

「お前は、誰なんだ」

「わたし? そうねぇ、まぁ教えても問題ないかな?」


 そういうと、僕の背後に現れた女医とは別に、もう一人建物の上から女医が現れて僕の背後に降りてきた。


「私は騎士団の護衛班、グロッサ。お察しの通り水魔法使いよ。よろしくね」


 グロッサは指でピースを作ると、ニコッと笑ってひとつ結びにした長い金髪を解いた。


「なんでハイネル村を襲った」

「うわー、一番つまらない質問しちゃったねぇ。わかってるんでしょ。星の魔力を集めるためよ。仕事だもん、しかたないじゃない」


 言いながらも、二人に分身しているグロッサは、それぞれがメルクーアレッタを放ってくる。


「くっ」

「いいわね。あなた楽しめそうだわ。ほらほら早くしないとあの人達が溺死するわよ」


 そう言いながらも、僕を建物に近寄らせないように攻撃を加えてくる。重力魔法で建物の一部を破壊すればみんなを、助けられるのに。


「僕らが集まるのを待ってたのか?」

「そうよ。本当はゼクトちゃんも仕留めたかったんだけどねぇ、逃げ足が早いから諦めたわ、はい隙あり」

「ぐあ!」


 メルクーアレッタが僕の左肩を貫通した。すぐに無詠唱クーアで治すと、グロッサは驚愕の表情を見せた。


「え?……え? 今治したわよね? あなた回復術師なの?」


 目の前には分身した2人のグロッサ。僕の背後には岸壁が退路を塞いでいる。……ここだ。ゆっくりと位置を微調整すると、グロッサへ話しかけた。


「……知らなかったのか? 僕は練度★6で適性は10の回復術師だ」

「えぇえー! なにそれ! 最高のお土産じゃない! 安心して、あなたは殺さずに連れて帰るわ。……半殺しにはするけど」


 次の瞬間、グロッサの背後からさらに3人のグロッサが飛び出してきた。計5人のグロッサ、以前戦った騎士団のノルムや港長のポルトさんと同じなら、この魔法は最大で5人までだ、この中に本体がいる。


「「「「「メルクーアレッタ!!」」」」」


 5人のグロッサによる超範囲攻撃。

 今までの戦いから、グロッサはメルクーアレッタを一つに束ねて威力を上げることが好きなようだ。


 僕はこれを待っていた。


「ハリルベル!!」

 

 呼ばなくてもわかっていただろうけど、頭上から飛び降りてきたハリルベルが僕の前に出ると呪文を唱えた。それを見る前に、僕もキーゼル採掘所の建物へ一足跳びで跳躍する。


「ヴァルムヴァント・オルト!!」

「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ・オルト!」


 グロッサの放った超高密度のメルクーアレッタを、ハリルベルが火魔法練度★5の防御系魔法を一点に集中させ点で防いだ。


 それと同時に僕は、重力魔法で水攻めされた事務所の一部を崩壊させ、水を抜く。


「な……嘘でしょ?! 火魔法で私のメルクーアレッタを防ぐなんて……!」


 建物が崩壊し水が抜けると同時に、部屋の中からマスターがメルクーアレッタを放つグロッサの分身を1人が破裂させた。


 どうやら親方の土魔法で強化した岩を混ぜた土石流のような合わせ技のメルクーアレッタのようだ。さすが昔からの知り合いだけあって連携がすごい。


「あーもう。めんどくさいわねぇ」


 キーゼル採掘所の中からはマスターと親方、建物の下に僕がいて、岸壁の近くにはハリルベル。グロッサを取り囲むような立ち位置は、僕らにとっては有利だ。


「ゴホッ、まったく酷い目にあったわい」

「いくら護衛班とはいえ、この人数に勝てると思うなよ」

「あらあらやだわぁ。護衛班舐めすぎよ?」


 圧倒的に不利な状況でも、グロッサは余裕の笑みを崩さなかった。


「レプンケレットメーア」


 来るっ! 未知の魔法だが、対処するしかない。全員が自身の得意とする呪文の詠唱を始めたが。


「ジオグラン……」

「へルブラン……」

「メルクーア……」

「フェルスア……」


 僕らの呪文が唱え終わるより早く、グロッサの魔法が瞬時に僕らを水の泡で閉じ込めた。


「?!」

「あーら、マヌケばかりかしら? どうやら初見だったみたいね。これは水魔法練度★8のレプンケレットメーア。空気中の水分を、好きな位置に固めることが出来る便利な魔法よ」


 ま、まずい……。出現位置指定の水魔法だと?! 呪文詠唱が出来なければ魔法は発動しない。窒息だと回復魔法は効果がない……!


 全身が水で包まれた僕らは、身動きも出来ず……ただ水の中をもがくしかなかった。

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