[ 214 ] 情報共有会
僕らはギルドを出ると、キーゼル採掘所に集まった。
――「あいつにはあまり関わるなと言ったばかりだろうが」
「ごめんなさい。親方」
僕らが親方のところに到着して怒られてると、マスターもやってきた。タイミング的には丁度良く、僕は昨日から今朝にかけて起きた事を、事細かに説明した。
「むぅ、魔力回路の融合なんて、聞いた事もないけどのぉ」
「本当ですか?」
「うむ。しかも回復魔法だけで乗り切る? にわかには信じ難いが……」
「そういえば、気付け薬だって何か渡されたので飲みましたけど……」
「うぇ。毒だったらどうすんだよ」
「容器は残ってるか?」
「そういえばなかったですね……」
何も疑わずに飲んでしまったけど、あれが何か体に作用した可能性も十分ある。しかし、そんなものを作れる設備や研究施設は限られてくるのではないだろうか。
「ま。どっちにしろ、ロイエの魔力回路を治してもらったなら様子見で良いかと思うがのぉ」
「いや、奴は情報を知りすぎている、あまりに危険だ」
ゼクトに関して意見は二つに分かれた。僕らの動きを全て知っているなんて、危険すぎるという親方と、それだけ情報があるのに攻撃してこないところを見ると、もう少し様子を見たいというマスター&クルト派だ。
「でも親方。危険な存在ではありますけど、居場所がわからなければどうにもならないと思いますけど……」
「まぁ、そうだな」
結局、僕らはゼクトに何も出来ない。なんせ捕まらない。Sランクの風魔法冒険者を拘束するなんて、それこそ風を捕まえるようなものだ。
「ロイエ。次ゼクトに会ったら、彼女の真意を聞いてくれ、不安要素は無い方が良いからな」
「はい、わかりました」
僕も敵か味方か聞いたけど、答える気はないようだった。もし、次に会うとしたらヘクセライか王都な気がする。
「ちなみに、昨日の夜から朝にかけて、ここを出航した船は無いんですか?」
「無いな。今朝はお前らが乗るための船を用意してたから常に人がいた。あんな目立つやつがいたらすぐわかるだろう」
それもそうか。それにヘクセライまでどれくらいの船旅になるのかわからないけど、風魔法使いとはいえ一人で航海出来るとは思えない……。
「ゼクトが何を考えてるわからんが、こっちから捕まえるのは無理だろう。待つしか無いな」
「そうですね……」
結局、みんなを集めた意味はあんまり無かったかもしれない。意識を合わせられただけでもいいか……。
「ところで、村長の様子はどうだ?」
「今日は朝からロイエが行方不明だったから、まだ……」
「ごめん……」
「まぁあの女医なら、信頼出来そうだったし、大丈夫だろう」
「女医……?」
クルトさんが女医という単語に怪訝な顔をした。何か思い当たることがあるようだ。
「ハリルベル。それはどこの診療所のことだ?」
「え? 中央地区Cエリアにある診療所です。村長を預けてて、そこに女医さんが……」
「あの診療所には女医なんていないぞ?!」
その瞬間、部屋の窓ガラスを割って大量の水が流れ込んできた。
「なんだ?!」
「ほれっ! ヴァリアブルクヴェレ!」
流れ込む大量の水を逆に操ろうとして、マスターが魔法を繰り出すが、相手の魔力の方が強かったのか、一部しか操れず、僕とハリルベルだけがマスターの操る水の蛇により窓の外に放り出された。
窓から放り出されると、採掘所の外には例の女医が立っていた。
「あら? 脱出しちゃダメじゃない」
「ロイエ! 援護を頼む! ジジイより強いぞ! 油断するな! ヴェルア・オルト!」
ハリルベルが店長と練習した技だ。右手にヴェルトを纏い女医に殴りかかった。おそらくメルクーアレッタを警戒しての事だろう。攻撃でも防御でこなせる最善手をハリルベルは選択した。
「ふふ、なにそれ面白いわね。メルクーアレッタ!」
「ぐっ! ぐぁああああーー!」
メルクーアレッタは無数のレーザーを放つ技だが、信じられない事に女医は全てのメルクーアレッタを束ねて一つの巨大なレーザーとしてハリルベルへ放った。
「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ・オルト!」
ハリルベルが一瞬でやられたんだ。僕も出し惜しみしている場合じゃない。僕は使える魔法の中で、一番殺傷力の高い組み合わせを選んだ。
「潰れろッ!!」
マスター以上の魔法使い。躊躇してる余裕は無い。
確実に捉えた、そう確信した。しかし――
「なっ……」
重力魔法で潰した女医は、ぱしゃっ!と水になり弾けた。
「ふふ、たんじゅーん。本体がそんな前線に出てくるわけないじゃない」
背後から声がして側転しながら振り向くと、僕がいた場所にメルクーアレッタが着弾し大穴を開けた。
「あらあら、あの体制から避けるんだ。いい脚力ね」
マスター以上の水魔法使い。
彼女こそが、ハイネル村を襲った張本人だ。
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