[ 213 ] テトラの事情

「クルトさん! ゼクトいますか?」


 乱暴にドアを開けてギルドに入ると、メイドのキキとララが敵襲と勘違いして武器を構えてた。


「ああ、ごめんなさい」

「いらっしゃいませ。ロイエ様、ハリルベル様」

「どうした? そんなに慌てて」

「ゼクトですよ。来ませんでした?」

「いや、来てないけど……」

「そうですか……」

「彼女と何かあったのか?」

「いえ……」


 いないか。そりゃそうだよな。でも、彼女には聞かなきゃいけないことがたくさんある。


「クルトさん、ちょっと内密の話があるんですけど……」

「なら奥で話そうか」

「いえ、出来れば親方と前マスターのアテルさんも一緒に話したいんですけど」

「ふむ、急を要するみたいだな。ララ、市役所にいるアテルさんへ連絡を頼む」

「はーい」


 小柄なメイドのララが間延びした返事をすると、長身のメイドのキキが咳払いをして、ララがビクッと震えた。どうやら上下関係が少しあるらしい。


「ロイエ、顔色が悪いぞ。餌飯は食べたのか? じいさんが来るまで少し時間があるから、朝食でもどうだい?」

「え、うーん」

「ロイエ、ロゼと約束しただろ。お前は休める時に休んだ方がいい」

「そうかな……。じゃぁ、お言葉に甘えようかな」


 実はロゼはここに来ていない。船の用意が出来そうだという情報が来たらしく、いまは一人でフリーレン商会に向かってもらっている。


「と言ってもあまり時間はない。キキ、簡単な食事を」

「かしこまりました」


 お辞儀をするとキキは、テキパキと軽食の準備んしてくれた。サンドイッチに温かい飲み物。ほんの数分で出てきたからすごい。


「どうぞ、お召し上がりくださいませ」

「ありがとうございます」


 僕が応接スペースに座ってサンドイッチを食べていると、ハリルベルとクルトさんは、カウンターでなにやら話し込んでいる。村長の様子も見に行かないとな……と思ってる時だった。


 カランコロン


「ウッスー!」


 オレンジ髪にピンクのフード付き洋服を着た小柄な女の子。テトラがギルドへやってきた。質問するなら千載一遇のチャンスだ。


「クルちゃんおはよー! 昨日受けた依頼なんだけどさー」

「クルトさん……」

「わかってる……。テトラ、ちょっと君に聞きたい事があるんだ」

「良いけど何ー?」


 テトラにはまるで警戒心がない。まだ幼いし、なにも知らない可能性が高いが……。僕らは四人で応接スペースに座ると、テトラはおいしそうにジュースを飲み始めた。


「僕は冒険者のロイエです。こっちはハリルベル。元々ナッシュにいて、最近戻ってきたんだ」

「あ、先輩なんですね! 初めまして、テトラです。こう見えても十九歳です。よろしくお願いします」


 めちゃくちゃ年上だった……。ペコリとお辞儀をするテトラだが、パクパクと出されたお菓子を食べ始めた。やはり中身は子供なんじゃないかと思う。


「君とゼクトさんは王都から来たらしいけど、どんな関係なの?」

「え? ゼクトちゃん? そうだねぇ、うーん。私は元々アクアリウムの冒険者ギルドで活動してたんだけど、荷物の輸送護衛依頼があって王都まで行ったの」


 なるほど、アクアリウムの冒険者だったのか。しかし、あんな不気味な仮面を着けてるゼクトを、ちゃん付けとは……。


「でね。王都まで行ったから、しばらくは王都のギルドで活動しようかなって思ったらこれがまさかの門前払い。私Cランクなのにだよ? 頭来ちゃうよねー」

「理由は?」

「さぁ? 門番がいて話も聞いてくれないの」


 シュテルンさんが王都のギルドは騎士団が介入していると聞いてた事があるが、入ることすらできないのか。


「でも嫌なことばかりじゃないよ? 王都のご飯がおいしいんだこれが! でも、あれこれ飲み食いしてたらお金も無くなっちゃってさ。アクアリウムに帰れなくなっちゃったのよー! アハハ」


 全然笑えない。どんだけ飲み食いしたんだ……。しかし、ゼクトと王都からここに来たんだから。何かしらの接点はあるはずだ。


「どうしてゼクトとナッシュへ来たんですか?」

「帰れなくて困って酒場で金を貸してくださいって回ってたら、話を聞きつけたゼクトさんから個人的に依頼を貰ったんですよー」

「個人的な依頼?」

「ズバリ、王都からナッシュまでの同行だよ」

「ヘクセライ経由ですよね?」

「そうそう。降りなかったけどね」


 ゼクトがわざわざナッシュに来るためにテトラさんを雇った? なんのために?


「目的は聞いていますか?」

「探し物があるとか言ってたかな?」

「ずっとあの格好なのか? 不審者感すごいだろ」


 すかさずハリルベルが突っ込む。

 それは僕も思っていた。いくら有名なSランク冒険者でもあの格好は怪しい。


「まさかー、王都を出る時は仮面は外してたし、普通の格好だったよ」

「え? 顔を……見たんですか?」

「うん、イケメンだったねぇ。女にしておくのが勿体無いよー」


 話を聞くと、ゼクトは王都からナッシュへ来るためにテトラを雇い、一般人を装おって脱出したようにも聞こえる。


 調査班との衝突があることを事前に知っての移動なら、ヘクセライへ向かうのが普通だろう。何をしにナッシュへ来たんだ?


 まさか、僕の魔力回路の治療のため?

 いやそれはない。僕の魔力回路がおかしくなったのここに来る直前だ。ゼクトが知るはずもない……。


 結局話を聞いてもゼクトの目的も姿をくらました理由もわからなかったが、テトラさんが敵ではない事だけはハッキリした。

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