[ 212 ] 魔力回路の融合

「しっかりしろ! ロイエ!」

「ぅ……ぐぅ!」


 誰かが叫んでいる。

 ズキズキと頭痛が酷い。


「うぁああああああ!」

「ロイエ! 負けるな!」


 僕は今どうなっているんだ……。

 全身が悲鳴をあげている……。

 これは……誰の声だ……。

 身体中が痛い……。

 もはや何が何だかわからない……。


――「おい! ロイエ!」


「ハリルベルさん! どいてください!」


 僕を呼ぶ誰かの声が聞こえる。

 ふいに柔らかいものが口に触れ、何かが口の中に流れ込んでくる……。


「ごく……。げほっ」

「ロイエさん!」

「はぁはぁ……。ぅ、ロ……ゼ?」


 目を開けると、目の前には涙目になっているロゼの顔があった。僕は……。


 そのまま顔を横に向けると、膝をついて僕の手を握っているハリルベルがいた。


「ハリルベル。僕はいったい……。痛っ」

「お、おい。まだ無理すんな」


 頭がズキズキと痛い……。

 そうだ。思い出した。


 体を起こして辺りを見回すと、僕はゼクトと会った街の外の塀の近くで倒れていた。空を見上げると日が上がり始めているから、相当の時間ここにいた事になる。


「ゼクトは?」

「ゼクトって、あの仮面女か? ここにはいなかったけど……」

「このポーションは、ロゼが飲ませてくれたの?」

「え?えぇ。ですが、ロイエさんの手に握られてましたよ」


 僕が握っていた? なら握らせたのはゼクトだろう。


「二人はどうしてここに?」

「俺が今朝ホテルに向かったら、ロイエは来てないって言われてさ。慌てて街中探したら門番が夜中に出て行ったというじゃねぇかって、俺らが聞きてぇよ」


 昨日ゼクトが倒した時より、落ちてる魔石の数が増えている気がする……。彼女が僕を守っていてくれたのか?


「しっかりしろ!って言ったのはハリルベル?」

「ん? しっかりしろ? ああ、それは言ったけど……」

「そう……なんだ」

「ロイエ、大丈夫か?」

「何があったんですの?」

「実は――


 僕はレストランを出た後に戦いの気配を感じて、街の外に向かったこと、そこで黒い仮面の女ゼクトがブラオヴォルフと戦っていたこと、彼女から魔力回路の治し方を教わってトライしてみたことを伝えた。


「はぁ?! 親方があいつらには関わるなって言われただろ!」

「でも……」


 悪い人には見えなかった。

 むしろどこか懐かしささえ感じられた。


「まぁ済んだ事は仕方ねぇけどよ。で、魔法は使えるようになったのか?」

「やってみるよ。ジオグラン、


 な、なんだこれは……。体の中に巨大な魔力の流れを感じる……。これがゼクトの言っていた『回路を合わせる』というやつか、今ならわかる。その意味が――


「ジオグランツ・オルト・ツヴァイ・ヴェルト」


 唱えた瞬間、信じられないくらい巨大な範囲でジオグランツが発動した。目算だが、120メートルの範囲にある岩や草木が次々に浮き上がる。


「きゃぁあああ!」

「ロ、ロイエ?!」


 範囲内に入っていた二人も、突然浮き上がったものだから驚いて空中で手をバタバタしている。


「ご、ごめんごめん」


 すぐに魔法を解除すると、浮いていた岩や草木と共に二人もゆっくり降りてきた。


「い、いまのなんだよ。範囲えぐかったぞ?!」

「これがゼクトの言っていた事だったんだ。魔力回路の融合とでも言うのか……」

「っていうか。お前、重力魔法は練度★4のオルトまでって言ってたじゃねぇか、いまヴェルト使ってたぞ?!」

「うん、それが魔力回路融合の効果みたいだ。ツヴァイの魔法で回復魔法へ接続できるみたい」


 ジオグランツ・オルト・ツヴァイの後に回復魔法のヴェルトへ繋げた。これで練度★4でもレーラには劣るが同じくらいの超広範囲重力魔法が使える。これは大きな武器になる。


「なるほどな……。すげーパワーアップじゃねぇかよ!」

「ロイエさん、お身体への負担は大丈夫なのです?」

「まだ少し頭が痛いけど……これはどうしようもないから、気にしなくていいよ」

「そうですか……」


 ロゼは本当に心配してくれていたみたいだ。ぎゅっと体を抱きしめると、ハリルベルがボソボソと呟いていた。


「いいよなぁ、俺はシルフィに何も言わずに出てきちまったから、もう怖くて帰れねぇよ……」

「はは。確かに……」


 あの恐ろしいシルフィ相手に、ハリルベルがどこまで耐えられるだろうか……。考えただけでも恐ろしい。


 ロゼの提案で、しばらくその場で体が落ち着くのを待つと、僕らはゼクトに会うためギルドを目指した。

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