[ 067 ] ドストライク
「ハァ〜〜」
全員がその場で、長い溜め息を吐いた。無理もない、彼らから逃げるために、あれこれ用意して来たんだ。
「なぜ……こんなところに騎士団がいたんでしょう」
「恐らくナッシュの西側の船を抑えたのは先発隊で、今は別の部隊かもしれません」
「なるほど、でも五人しかいませんでしたよ。確か三十人くらいの部隊だと……」
「ええ、なので分隊に別れてフォレストからナッシュへ向かっている可能性があります。一度どこかでやり過ごせれば良いのですが……」
実は僕は黒髪の騎士に対して、全力でジオグランツを発動させていた。それをあの人は、ちょっと重いかな程度にしか感じていないようだった。真正面から戦って勝てる相手じゃない……。
「ロイエ。お前あの時、追加で重力魔法を発動させるか、少し悩んだだろ」
「……う、うん」
「真正面から戦って、勝てる相手じゃない事がわかったか?」
「ごめん、先走ることはもうしないよ。ロゼさんやリュカさんもいるし」
「わかってるなら良し、荷台から水取ってくるわ」
ハリルベルは僕の頭をポンポンと叩いて、荷物を探し始めた。僕の目的は騎士団を倒すことじゃない。安全な地に逃げて家族を探すことだ。
「あのー。先ほど聞いた説明によるとフィーアさん?が実は王国騎士団のスパイで、ロイエさんが回復術師だとバレてるんですよね?」
「ええ、それでフォレストにいた騎士団が、急遽ナッシュへ引き返したんですから」
「ギルドカードに思いっきりロイエと書いてあるのに、なぜバレなかったのでしょう」
確かに……名前だけじゃない、容姿についても報告していれば、一眼見ただけで僕が盗賊団に捕まっていた回復術師だと、わかるはず……。
「ほらよ。水持ってきたよ。みんな水分はちゃんと取っておこう。はいリュカさんの分」
「ありがとうございます。緊張して丁度喉が渇いていました。ゴクゴク……あら、おいしい」
フィーアが、騎士団にちゃんと情報を伝えなかったから誤って伝わったか……。フィーアは報告したけど、詳細は言わないでいてくれてた……だったらいいな。
僕はいまだにフィーアを恨んでいない。僕の思い描く「ナッシュのみんな」の中にフィーアが入っているからだと思う。
「あ、騎士団にロイエさんの情報がバレてないのは、それは私がフィーアさんを捕まえたタイミングが良かったからだと思います。彼女はこう言っていました。ゴクゴク」
――「王国騎士団、諜報員フィーアです。
ナッシュにて……回復術師を見つけました」――
「合言葉を話している声が聞こえて、カウンターで寝たふりをしていた私わぁ。管理室のぉ扉をぉ、ぶちー破ってぇ、フィーアさんを捕まえたのらー!」
「え、リュカさん?」
「なんれすか?」
「なんかロレツが回ってませんが……まさか」
ハリルベルから受け取った水筒の蓋を急いで開けて、匂いを嗅ぐときついアルコール臭がした。
「ハリルベル! これお酒だよ! リュカさんはお酒に弱いんだ!」
「まじか! すまん!」
ハリルベルがリュカさんへ駆け寄り、水筒を奪ったが時すでに遅し。
「あのーリュカさん? 大丈ぶふむ?!んー?!」
酔っ払ったリュカさんが、ハリルベルの口を……口で塞いだ。
「んー!! りゅぷはっ! りゅかひゃ! んーッ!」
「あわわわ……」
低レベルでキス魔となったリュカさんを、ハリルベルから引き剥がすと殴られた。
「なんすんのよぉ! はりたんはー! わらひのどストライクなんらよー! んむっ!」
ハリルベルはリュカさんのドストライクだったのか……。っていやいや、今そんなことしてる場合じゃない!
「ろ、ロイエさん、ハリルベルさんが酸欠で死んしまいます!」
「は、はい!」
馬乗りになってハリルベルの唇を奪うリュカさんを、二人かがりで強引に引き剥がした。
「げほっ!ごほっ! はぁはぁ……」
「はなひてー! わらひのこんきー!」
「ジオグランツ」
「ぶへっ」
「そ、そこまでしちゃいますかっ」
「とりあえず抑えておかないと……」
酔っ払った状態では贖えなかったのか、そのまま潰されてリュカさんは眠ってしまった。
「げほっ、ロイエ……ありがとう。死因が酸欠になるかと思ったぜ……」
「リュカさんは酒癖が悪いんだよ」
「いや、すまん」
「とか言ってる嬉しそうだね?」
「そそそそ、そんなことねぇよ!」
「顔が赤いですよ? ハリルベルさん」
「こ、これはリュカさんに口移しで酒を飲まされたから……で」
ハリルベルも女性耐性がないのか、恥ずかしさのあまり顔を手で覆っている。毎日炭鉱の家の往復だけだもんな、近くにいる女性は男まさりなエルツだけだったし。
「どうしましょうか? こんな道端でリュカさんがダメになるとは……」
「近くに休めるところはないですかね?」
「うーん、私も普段はナッシュから離れませんし、フォレストへ行く際はスムーズに着いてしまいますから」
「た、確か近くに小さな村があった気がする。俺が休みの日に探索した時にチラッとみたような」
「本当? ならそこで騎士団の分隊が通り過ぎるのを待つ事も出来るか……」
「そうですね。そうしましょうか」
酔い潰れてしまったリュカさんを馬車に押し込むと、ハリルベルとロゼがで二頭の馬を引き、脇道を逸れ村へと向かった。
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