[ 009 ] ブラオヴォルフ
「よし、大丈夫そうだ」
日が上がる前。ハリルベルを先頭に甘い森を出発した。
この森にはラングザームと呼ばれる花が咲いており、それがこの甘い香りを出しているらしい。ハリルベルによると虫や動物はこの香りを好むらしいが、穢れにより産まれたモンスターはこの香りが苦手で近寄らないとか。
「甘い森を抜けるとクルツ平原に出るんだ。その街道を進めば炭鉱の街ナッシュに入るんだけど、平原は見通しが良いから王国騎士団に見つかる可能性も高い」
「平原の距離は?」
「およそ五キロほど。歩けば一時間の距離さ」
「でも、それは……すぐに見つかりそうですね」
「ああ、遠回りになるけど平原を避けて、ルント湖を迂回して街へ入ろう」
地理がさっぱりなのでハリルベルに頼るしか無い。黙々と歩くこと数時間。足の疲労は寝たおかげでだいぶ良いけど、やはり重い。平地を歩く分には大丈夫だと思うけど炭鉱街というから山登りがあるのだろうか。それだけが心配だ。
甘い匂いが薄れて、突然森が終わり視界が開けた。目の前に広がる丸い形の湖、ルント湖。
目算でどれくらいかわからないが、ハリルベルが言うには以前このルートを使った時は半日ほどかかったという事だ。水分も持っていない僕らが隠れながら街に行くには最適なルートであることは確かだった。
「今更ですが、炭鉱の街ナッシュに行く理由はなんでしょうか?」
「ああ、言ってなかったね。正直言って回復術師を匿った時点で、俺は王国にその事実を知られると罪人扱いで投獄されちゃうんだよね」
「え! ど、どうしましょう?!」
「俺が君を連れ出したのは事実だし、後悔はしてないよ」
そうは言っても、こっちは気にする……。何かの拍子でハリルベルが捕まるようなことがあったら、自首してでも刑を軽くしてもらおうと心に誓った。
「まぁそれはいいとして、ブラオヴォルフとの戦いでわかると思うけど俺は冒険者としても弱くて、普段は炭鉱で働いてるんだ。安月給だけどね」
「なるほど……それで火事場泥棒を」
「ぐっ、まぁそういうこと。炭鉱の親方ならロイエを匿ってくれると思う。あ、もちろん回復術師ってのは秘密にして、孤児だと言えばだけどね」
「なるほど、ナッシュの街を拠点に両親と兄の捜索を行うと……」
「あんまり後先考えず家に帰ろうと思ってたからそこまで考えてなかっけど、そうだね。それも良いと思う」
そんな話をしながらルント湖が常に見える位置で森の中を移動する。湖の側を歩くと遮蔽物が無く、仮に王国騎士団がこっちまで捜索に来た場合、すぐに見つかってしまう可能性が高く。このような非効率な移動方法を取らざるを得なかった。
半分ほど踏破したところで、日も上がってきて喉が渇いて来た。昨日から水分なしで歩いているため限界に近く、僕たちは周囲を警戒しながら湖へ近づき水分補給を行うことにした。
「んぐんぐ……ぷはぁ! おいしいですね!」
「ああ、このルント湖の水は鉱山から流れていて、ナッシュの街でも住民の大切な生活用水にもなっているからね」
交代で警戒しつつ水を飲む。幸い王国騎士団はこちらまで来ていないようで、また近くの林へ身を隠すことができた。喉も潤って安心して進んでいると、すぐにハリルベルがピタリと止まった。
「マズイ……」
「どうしました?」
「ブラオヴォルフの群れが近づいてる……」
彼には特殊な力でもあるのか、僕は全くわからない。特に遠吠えも聞こえないし、足音もしないような。
そう気軽に構えていると、いつのまにか前方にブラオヴォルフが現れた。その隙に背後にも二匹。左右に一匹づつの計五匹のブラオヴォルフに囲まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます