[ 008 ] ハリルベルの秘密
ハリルベルにより明らかになった両親の行動に今更ながら感謝で涙が出た……。
「父と母と、兄さんに会いたい……」
「あー、その事だけど、ディアグノーゼだよね。ミドルネーム」
「はい、何か知っているんですか? 教えてください!」
「丁度四年ほど前かな。盗賊団の討伐に莫大な懸賞金を貴族のディアグノーゼさんが賭けてさ。結構話題だったんだぜ」
「父様……」
「盗賊団を見つけたって話は何度かあったんだけど、追い詰めてもどこかへ姿を消すと全回復して現れるってんで採算が取れない!と冒険者達は盗賊の討伐をやめちゃったんだよね」
ぼ、僕のせいだ……。僕がやつらに回復魔法を施したから……。結果的に父様を苦しめることになっていただなんて……。
「ディアグノーゼさんは、懸賞金の金額を上げて再度討伐隊を結成したりして、結果的に屋敷も土地もすべて手放したって話だ。気を悪くさせたらすまない」
「いえ、知れてよかったです。ありがとう……ございます」
効率的な回復の方法とか、そんな事をしている裏で、父様や母様が苦しんでいたなんて、僕が追い詰めたもの同然だ……。いや、いまさら悩んでも仕方ない……。父と母が生きているなら会いに行かないと。
でもさっきのようなブラオヴォルフと遭遇したら一人では切り抜けれない。一緒に戦ってくれる味方を増やすのが僕の最優先目標かもしれない。
そのためにはまず彼が何者で、何を目的としているのか知っておく必要がある。
「あの、どうしてハリルベルさんは僕を助けにきてくれたんですか? なぜ王国騎士団と同じ鎧を着ているのですか?」
「ぐっ……それは……」
真っ暗闇だが、ハリルベルがバツの悪い顔をしているのが手に取るようにわかる。だんだんと声に自信がなくなっている。
「あー、うーん。実は言うと俺はさ、冒険者なんて言ったけど、まぁ実際は火事場泥棒なんだ……」
「え?」
「いやほら、盗賊団ってすぐ回復するし『不死身の盗賊団』とか言わててさ。そんな奴らに勝てるわけないだろ?だから王国騎士団が盗賊団を討伐するって噂を耳にしたから、全財産注ぎ込んで王国騎士団と同じ鎧を裏ルートで手に入れてさ」
「全面衝突中にアジトに忍び込んで金品を奪おうとした、ってわけですね」
「ま、まぁそういうこと……別に君を助けに来たわけじゃないんだ。カッコ悪くてごめんね」
「いえ、おかげさまで色々な事を知る事が出来ました。ハリルベルさんは僕の救世主ですよ」
恥ずかしいっ!とハリルベルが洞窟の中でジタバタしている音がする。実際助かったことには違いない。感謝しても仕切れない。
「あれ? でもどうして王国騎士団から逃げたんです? 僕を引き渡せば、結構なお金が貰えるのでは?」
「そうだね。回復術師の提供は莫大なお金が貰えるんだけど……実は俺の妹も回復回路持ちで産まれたんだ」
「そうなんですね……」
「ああ、十二〜三年くらい前の話だけどね。妹が三歳の頃に発覚して、父と母は生活苦からすぐに国へ売却手続きをしたんだよ。その日は父と出かけた妹が帰ってこなくてさ。先に夕飯食べてたら父だけ帰ってきたんだ」
十二〜三年前だと、もしかしたら僕と同じ年くらいかな。僕は家族が匿ってくれたから九歳まで家族の愛を受け取る事が出来たけど、ハリルベルの妹は……。
「父親に妹のことを聞いたら売ったって言うじゃないか。父親に食ってかかったら逆に殴られてさ。お前が今食ってる飯も妹を売ったから食べられるんだ!とか言われて、悔しくてさ……」
子供は生活能力が無いのだから親に従うしか無い、例えそれがどんな親であろうとも……。
「だからかな。ロイエが兄を探して、さらに回復術師って知って妹と重なってさ。あいつらには渡したく無いって思って……あ、君の気持ちを聞く前に勝手に判断してしまってすまない」
「いえ、僕も両親と兄を探さなきゃいけないので、結果的には助かりました。ありがとうございます」
「そう言ってもらえると助かるよ」
ハリルベルから知りたかった事はある程度聞けたところで、明日は日が登る前に森を抜けて、町まで行く必要があるからと、会話を切り上げて早めに寝ることにした。
久しぶりに人とこんなにも会話した事で、ストレスが発散できたのか、その夜は悪夢を見ることなく寝る事ができた。
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