[ 149 ] 飛べ飛べ

 翌朝、ミネラさんのお店に集合した。


「なんじゃお前ら! 強盗か?!」

「ロイエ、このお婆さん記憶が飛んでるよ。呪いでもかかってんじゃ」


 高齢だし認知症かな。ミネラさんのお父さんが亡くなってから、物忘れが酷くなったらしい。


「お婆ちゃん! 今日は家の中でお留守番しててって言ったでしょ」

「あー? そうだったかのー?」

「そうだよ。はい、この本面白いから読んでて」

「本当に面白いのかい?」

「気にいると思うよ。ほらほら家に入って」


 ミネラさんからボロボロの本を受け取ると、お婆さんはしぶしぶ引っ込んでいった。


「あの本は?」

「ああ、あれはね。お婆ちゃんが大好きな本よ。読んでも記憶を無くしちゃうから何度でも楽しめるの」

「そうなんですか……」


 それは喜んで良いことなのか返答に悩む。前世の病院でも認知症の患者さんは多くみてきた。あれほど医学が進んだ世界でも解決できていない病気だ。この世界ではさらに大変だろう……。


「お二人にこちらのリュックを用意しました!」


 渡されたのはボロ布を繋げた大きなリュックで、中に食料らしき包が入っている。


「ありがとうございます。現地で食べて空になったリュックにバスター鉱石を入れて持ち帰る感じですね」

「そうです。問題はこれです」


 ピッケルやらが色々飛び出している巨大なリュック……。おそらく採掘道具だろうけどいくらなんでも大きすぎる。


「ちょっとー! 大きすぎでしょー!」

「大きいピヨ」

「うーん。ならこれに乗って行きますか」

「乗って行く?」

「ええ、昨日話しましたよ。火口までは飛んで行くと」


――「ひゃっほー! 高ーい! 早ーい!」


 僕らはデザントの街の東側へ出ると、ミネラさんの用意した巨大なリュックに乗り重力魔法で僕らごと軽くして、ピヨの風魔法で空を飛んでいる。


「湿地帯には毒カエルがたくさんいるから、もっと高度をあげるんだ」

「わかったピヨ」


 山と同じくらいの高度まで一度上がってから目指せば、毒カエルを相手する必要はない。ヘーレ洞窟を目指すとは違い火口に行くならこれが最適解だ。


「まさか重力魔法で空を飛べるなんて」

「レオラもピヨを連れてれば出来ますよ」

「帰ったらやらせてやらせて!」

「いいピヨ!」


 ピヨの魔法で推進力を得た僕らは、問題なく湿地帯の上を通過している。やはりこの高度までくれば安全だ。


「しかし、ピヨちゃんこんなに小さいのにすごい魔力量ですね。もう十回くらいフリューネル使ってますけど、平気?」

「いつもは三回くらいで気持ち悪くなるピヨ。なんでだろうピヨ」

「そうなんですか? なんででしょうね」


 ……? いつもは三回で魔力切れ? 今日は十回でも余裕? どういうことだろう……。ピヨに何かが魔力を供給している?それとも回復している?ピヨの魔力容量が増えた?あ……


「まさか!」


 慌ててポーチを探ると、ない。ヘーレ洞窟で集めておいたニワトリ、レプティルクックの魔石が……。


「ピヨ、この中に何個か石が入っていたけど、どうした?」

「……おいしそうな色してたから、食べちゃったピヨ」


 それだ。魔石を食べて一時的に魔力が増えているんだ。入っていた石の数とフリューネルの消費を考えると、たぶん帰りの分の魔力は無いんじゃないか?


「あ、ロイエ! 火口が見えてきたよ! 熱くなってきた!」

「ちょっと気持ち悪くなってきたピヨ……」


 まずい……。いまから引き返すのも無理だ。かと言って高度を下げるよりも火口に向かった方が距離が短い。


 仕方ない。現地でモンスターを倒して魔石を手に入れるか、歩いて帰るしかないな……。


「ミネラさん!シェンバウムを!」

「はい! シェンバウム・オルト」


 氷の結晶が僕らを包み込み、火口から発する熱を緩和した。


「涼しいピヨ」

「へぇーこれは便利な魔法ね。使い道が限られるけど」

「ピヨ! あそこ見えるか? 火口の外堀、少し平地になってるところ! あそこへ着陸しよう!」

「……うぷ、わかった……ピヨ」


 魔力切れ寸前のピヨが頑張って風魔法を操り、なんとか無事火口の近くに降りることができた。


「もうダメピヨ、動いたら吐くピヨ……」

「ありがとう、ピヨは休んでて」

「ピヨォ」


 ナッシュの火山は活動がない死火山だったが、このアインザーム火山は今もマグマがグツグツと湧いていて、辺りは硫黄の匂いが立ち込めている。


「臭っさーい」

「ええ、これがマグマの匂いなんですか?」

「まずいな、有毒ガスだったらどうしよう……」

「え!? 毒ガス?!」

「ピヨちゃん! 風魔法出して!」

「無理ピヨォ〜」


 ガスに関する知識はないからわからないけど……。


「ミネラさんのお父さんの死因はなんですか?」

「見つけてくれた方は、ニワトリにやられたって言ってました」

「え?」


 レプティルクックが火口にもいたってこと?


「えっと、数ヶ月前にギルドマスターが助けてくれたんですけど、マスターが言うには地震があってヘーレ洞窟に向かったらニワトリに襲われている父を見つけて、連れて帰ってきたと」


 なるほど。少し読めてきたぞ。ミネラさんのお父さんはこの火口で採掘をしていた。その時に星食いがフィクスブルートから魔力を吸い取って地震が発生。


 地震の影響でこの火口のどこかに穴が空き、ヘーレ洞窟まで落ちてニワトリに襲われた。そこへマスターがきて助けた。それなら筋が通るな。


「なら、この火口には有毒ガスは出ていないってことになりますね」

「確かに……そうかもしれませんね」

「むーむー?」

「レオラ、息しても大丈夫だよ」

「ほんと?! 騙してない?!」

「僕らも口を塞いでないだろ?」

「そ、そうね」

「臭いピヨ〜」


 よし、とりあえず火口で死ぬことはなさそうだ。


 少し安堵してあたりを見回すと、いつ噴火したのかわからないが、火口の中ではまだボコボコとマグマが噴出し赤く燃えている。みたところモンスターはいない


「ミネラさん、採掘をやっちゃいましょう」


 カツーンカツーン!

 振り返ると既にミネラさんがピッケル片手に岩を叩いていた。


「もうやってるよー。ロイエも早く早く!」

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