[ 150 ] 火口の戦い
「でないですね……」
「本当に火口なの?」
「ええ、父は死ぬ前に言ってましたから……」
持ってきた食料を食べたり休憩を挟みながら、三十分ほどあちこち掘ってみたけど緑色のバスター鉱石は欠片も出なかった。
「やっぱり外側にはないのかもしれないですね。危ないけど、もっと火口まで降りてみましょうか?」
「そうだね! 降りてみよう!」
「わかりました。ピヨちゃんはどうします?」
「行くピヨ。置いてかないでピヨ」
ピヨは魔力切れから少し回復したらしく、見た目は正常に戻っている。ただ、いつもみたいな元気はない。
「ロイエー! はーやーくー!」
「はーい! ピヨおいで」
「ピヨ……」
――モワモワと煙が出ていて視界の悪い火口へと降りていくと、異変が起きた。
「熱い……」
「ですね……。なんでだろう。ラッセさんにかけてもらった時はもっと涼しかったような」
「私の魔法もある程度の熱までしか防げないので……」
「ああ、ラッセさんはヴェルトまで唱えてましたね。それで耐熱出来る温度の上限が違うのかもしれません」
「ヴェルトですか。私は練度★3なので無理です。すみません」
「謝る必要ありませんよっ! 十分効果は出てますから」
本来なら五十度近い体感温度になってる場所が、魔法のおかげで三十五度くらいまで下がっている。夏日の猛暑程度なら、耐えられなくは無い。
「んー? 今の鳴き声は何?」
「なにか聞こえました?」
火口付近へ降りていくにつれて強くなった硫黄の匂いと吹き出る煙で、視界が悪い。
「え? ロイエ聞こえなかった? コケーって」
「コケー? ま! まずい! ちょっと戻りましょう!」
「あれ? なんか動いた?」
「ピヨ? フリューネル」
ミネラさんが指差す方へ視線を向けると、ピヨが風魔法で煙を吹き飛ばしてしまった。消えた煙の先には、赤いトサカに蛇の尻尾をつけたニワトリが数百体……。
「キモいピヨー!」
「あ、バカ!」
「「「「「コケー?!」」」」」
レプティルクックに気づかれてしまった。そうかミネラさんのお父さんが地震で出来た亀裂でヘーレ洞窟まで落ちたなら、逆にヘーレ洞窟で発生したレプティルクックがここに登ってくる可能性も十分あった。
シュテルンさんが、ヘーレ洞窟のレプティルクックが報告よりも少ないって言っていた原因はこれか……。
「あ、気持ち悪くなって来ちゃったピヨ……」
まずい、いつのまにか囲まれている。軽く二百匹近くいるぞ。僕やレオラ、ミネラさんの魔法で戦える数じゃ無い。
「ロ、ロイエさん……ど、どうしましょう!」
「なんなのこのニワトリは……数多すぎでしょ」
「あいつらは火魔法と土魔法を同時に使います!」
「はぁ?! モンスターのくせに魔法使うの?!」
どうしよう。一直線に攻めてくるなら僕とレオラの重力魔法で隙間なく攻撃できるかもしれないけど、既に囲まれている。
「「「「「「コケコケーー!」」」」」
ドドドドドドドドッ!!!
レプティルクックが号令を受けたかのように、一斉に僕らに向かって押し寄せて来た。
「ロイエさーん!」
「ちょ! どうするのよ!? Eランクでしょ! なんとかして!」
「みんな! 僕に捕まって!」
レオラがミネラさんが僕にしがみついた。あちこち柔らかい感触が当たって恥ずかしくなったが、今はそれどころじゃ無い。
「ジオグランツ!」
僕らの周囲を軽くして無重力状態を作り出した。
「ピヨ! ごめん!頑張って! フリューネルで僕らを上空へ!」
「フリューネル……おぇピヨ」
ピヨのおかげで、突撃してくるレプティルクックの群れからギリギリ上空へと飛び上がった僕ら。眼下には大量のレプティルクックが集まっている。
「レオラ! あいつらを押し潰して!」
「そういうことね! ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」
レオラの発生させた重力場が眼下に集まっているレプティルクックの群をまとめて押しつぶす。
「「「コケー!? グェ!」」」
範囲が狭く流石に一度では全部を潰せない。レオラが再度魔法を唱えて、逃げ惑うレプティルクックの群れを次々に潰していく。
レプティルクックから火魔法や土魔法が飛んでくるが射程外で、こちらには当たらない。
「ロイエに言ってたっけ? 私が遠距離系って」
「いえ、港で仕事をしているレオラさんをみた時に、明らかに近距離の範囲外の荷物を軽くしてましたので」
「なーるほど! どんどん潰していくよー! ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」
空中からの遠距離重力魔法は強かった。ブルーポーションで魔力を回復しながら次々と攻撃することで、ほとんどのレプティルクックが潰され、魔石へと変貌している。
「後数匹逃げてるのがいますが、一匹一匹は強く無いので襲って来たら対処しましょうか」
「ピヨちゃん降ろして〜」
「もう無理ピヨォおええ。ロイエがピヨを酷使するピヨォオ」
「僕の重力魔法で降りましょう。ツヴァイ・ジオフォルテ」
徐々に重力をプラスになるように強めていき、ゆっくりと下降する。そこは元いた場所とは思えないほど、レオラの重力魔法で穴だらけになっていた。
「あ! ロイエさんレオラさん! あそこ! 緑色にな光ってます!」
「わお! やったー! 取り放題だね!」
穴だらけにした火口の断面から、緑色に輝くバスター鉱石がたくさん露出していた。
「ピヨ、この魔石食べておいて、帰りの分の魔力を補給しておこう。これを食べると魔力が増えるんだ」
「なるほどピヨ。わかったピヨ。もぐもぐ」
ピヨはレプティルクックの魔石を拾って食べ、僕らはひたすらカツンカツンと岩を叩いてバスター鉱石を回収して、リュックへ詰める。
何度かレプティルクックが襲って来たけど、数も少なく統率力もない奴らは、近づく前にレオラに重力魔法で動けなくされ殴り倒されている。
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