[ 108 ] 重力魔法使いレーラ
「あー、家までペシャンコになっちまったなー。ジジイに怒鳴られちまうぜ。で? お前らは誰だ? そっちの騎士も星食いの一味だろ? 殺してもいいか?」
突如現れた無茶苦茶な男。先ほどの超広範囲重力魔法から、この男こそ市長の言っていた重力魔法使いレーラ。その人だと僕らは確信した。
「ま、待ってください! レーラさん! こっちの騎士は無害かと思います!」
「あ? なんで俺の名前を知ってんだ? 昔どこかで会ったか? なんで殺しちゃダメなんだ?」
「僕らはフォレストの冒険者ギルドからアルノマールさんの紹介で来ました!」
「おぉー。フォレストから来たのかお前ら。マールは元気してたか?」
マール? あー、アルノマール市長のことか……。やけに可愛い呼び方をするな……。やはりガンツさんの期待通りの関係なのだろうか。
「はい、アルノマールさんはお元気で……ちょちょちょー!ちょっとー!」
一瞬目を離した好きにレーラが、ファレンさんに拳を振り下ろそうとしていた。
「あ? なんだよ。さっきから……。さっさと殺した方がいいだろ? こんなやつら」
「えーと、わかりました。僕らにも事情がありますので、とりあえず彼は縛っておくので、お話ししませんか?」
「……呪文詠唱しないように口を封ろよ」
「わかりました」
「んじゃ、ジジイに報告もしなきゃいけねーし。俺の家行くか」
こうして更地となった村を歩き、お土産と縛ったファレンさんをジオグランツで軽くして背負うと、僕らはレーラの後に続いて、高台の避難所を目指した。
「あの、星食い達を知っているんですか?」
「知ってるも何も、何人もぶっ殺してるからな」
「何人も? ですか?」
「ああ、俺はあちこち旅をして星食い達を殺して回ってんだ。ここのフィクスブルートも狙ってるみたいだから張ってたんだが……。お前らまでやっちまうところだったぜ」
「はは……」
笑えない……。僕が重力魔法使いじゃなかったら確実に死んでたな……。
「お前らも星食いを追ってるのか? その騎士も殺しておいた方がいいと思うけどな」
「いえ、きっと彼は大丈夫だと思います……」
同じ騎士団でも、ファレンさんは本当に知らなかったみたいだし。やはり騎士団の中でも正規の騎士と、潜入してる星食いのメンバーが混在してるのではないだろうか……。
「あ、そうだ。こちら市長のアルノマールさんからレーラさんへの書状です」
「しちょう? あいつ市長になったのか?! せっかくやりたがってたマスターになったって喜んでフォレストに向かったのに、何してんだ? どれどれ……」
レーラが手紙を受け取ると魔力ランタンで照らして内容を確認するが、すぐに突き返された。
「長いこと文字に触れてないから読めねぇや。すまねぇ、読んでくれ」
「え、見ても良いんですか?」
「だって読めねぇし」
「わかりました……」
受け取ったピンクの便箋を開くと、見るのも恥ずかしいセリフや丸文字、ハートのマークが踊っている。
「えーと……『レーちゃんへ。マールでちゅ』いや無理です! 読めません!」
「はは、いつもの事だから気にすんな。読め」
前半の恥ずかしすぎる愛の言葉がたくさん書かれおり、見たことがバレたら消し炭にされるレベルの内容だった。ちなみに、ルヴィドさんはひたすら笑いを堪えていた。
「……『というわけで、そこの重力魔法使いの面倒を見て欲しいでゅ。またチュチュしようね。マールより』――はぁ、以上です」
「なるほどな。まぁ詳しい話はお前からもう一度聞いたほうが良さそうだな。せっかくならマールも連れて来てくれよなぁ。女成分が足りねぇ足りねぇ」
雑談を挟みながら山を登ると、やたら大きな建物にやってきた。これはファレンさんが言っていた避難所かな?
「おい、ジジイ」
避難所のドアを乱暴に叩くと、中から口髭を生やした頭の寂しい老人が顔を現した。
「レーラか。どうじゃ? モンスターは? 村はどうなった?」
「あー、俺が行った時点で既に村は壊滅してたよ。ただ残ってたモンスターは全滅させたから安心しな」
「やはり村はダメだったか……仕方ないのぉ」
え……。村を壊滅させたのは、ほとんどレーラさんにだけど……。黙っておこう。、
「やはり調査などと言って来ていた王国騎士団の仕業かの?」
「ああ、間違いない。一人は殺したが一人は捕えたから聞き出そう」
「よくも我々の村を……この悪魔め!」
お爺さんが杖でポコっとファレンの頭を叩くと、ファレンが目を覚ました。
「む?! むぐー!」
「腕と口を縛ってるから安心しな」
「ふぅ、びびったわい。とりあえずわしらはここで一晩明かすでな、すまんが明日は復興作業を手伝ってくれんか?」
「ああ、良いぜ。こんな時しか役に立てないからな」
避難所の中から複数人の話し声や生活音が聞こえる。相当数の人数が避難していたようだ。怪我人がいなくて幸いだけど、明日の復興作業が大変そうだ……。
「来な、俺の家はあっちだ」
山の丘にある避難所の近くにレーラの家はあった。家と言って良いのかテントというべきか……。
「結構簡素な感じなんですね……」
「あ? ああ、基本的にあっちこっち移動するからな。あ、そうか入りきらないな。何人だ?」
「全員で五人ですね」
「その騎士はあっちの木に縛ってこい。四人分でいいな」
レーラが、テントのそばに転がってた丸太を斧で割って、簡易的な椅子を用意してくれた。縛ったままのファレンさんは少し離れた木に繋いできた。
「まずは、礼を言っておこう。お前らが村で戦ってくれたおかげで、高台の避難所にはグリフォンが来なかった。ありがとな」
「いえ、僕たちも勝手に戦闘を始めてしまい……すみません」
「それはお互い様だ言いっこなしな。で、マールがお前の面倒を俺に見て欲しいんだってな? 悪いけどお断りだ」
彼の性格からしてその答えが返って来るのはわかっていた。テントでの生活から恐らく一人でいるのが好きなんだろう。そんな人が弟子を取るとは思えない。
「僕の名前は、ロイエ・ディアグノーゼと言います。星食いを止めるために、どうしても力が必要なんです」
本当は家族を探すために、一人でも戦えるくらい強くなりたいっていうのが本音だけど、村でのレーラの反応から星食いに敵意を持ってることは確実なので、目的はそっちだと言った方が良いとルヴィドさんからのアドバンスだった。
「その弱さでか? 道中聞いた話だとグリフォン相手にも大苦戦の上、星食いにも手も足も出なかったようじゃねーか?」
「そうです。僕たちは弱い。だから強くなりたいんです! レーラさんの元で修行させてください!」
「だから断るって言ったじゃねーか」
「お願いします! 同じ重力使いとしてレーラさんのように強くなって仲間を守りたいんです!」
「……仲間を守りたい……か。なら余計無理だ。俺は力になれねーよ」
ここで引き下がるわけにはいかない!
「帰る家も家族もない……。僕にはあなただけが頼りなんです! お願いします!」
「……ふぅ。お前も大概しつこいな……。なら条件がある。その腰の剣を使ってもいい、どんな手を使ってもいいから。座ったままの俺に一撃でも入れてみな」
練度★6持ちの星食いを瞬殺するような男に一撃……。
「……わかりました。手加減しませんよ」
「チャンスは一度だけだ。殺す気で来い」
ものすごい覇気を感じる。レーラも本気だ。彼相手に長期戦なんて無理だ……。短期で決めるしかない。
「この丸太を投げるから、落ちたら開始な?」
立ち上がり、宝剣カルネオールを抜くと、レーラが丸太を放り投げた。レーラは動かない。脚力には自信がある。速攻で決める!
ゴンッ
丸太が地面に落ちた瞬間に走り出しそうとしたが……。体が重くて足が前に出ない!
「くっ! これは、無詠唱のジオグランツ……!」
「察しがいいな。そう、俺の重力魔法は適性☆10だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます