[ 109 ] 弟子採用試験

 この感じ……。おそらくジオグランツしか発動してない!今なら間に合う!


「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」

「フフ……。ツヴァイ・ジオフォルテ・オルト」


「わっ!」


 レーラはさらに重くすると思ったので反対に軽くなるよう重力魔法をかけたのに、逆に軽くされてしまい僕は浮いた。


「ふむ。単純計算でもオルトを発動させてる俺の方が、お前より操れる重力の幅が広いのはわかるよな?」


 足が宙に浮き、ふわふわと体が浮いてしまう。発動中のジオグランツを重くしたり軽くしたりと、抵抗しても常にゼロに、いや浮いているのだから、少しマイナスになるようにレーラに調整されてる。


「重力魔法使い同士の戦いは練度が全て、オルトも使えないお前では俺に勝てるわけ……なっ!」


 ふわふわ浮いてる状態で背を向けていた僕は、突如レーラの方へ急加速した! レーラは避けきれない。


「浮いているなら! 方向さえ与えればいいだけだ!」

「ちっ!」


 慌てて丸太から飛び退いたレーラだったが、手の甲に数ミリほどの傷を付けることに成功した。


「クソッ! 油断したぜ……。しかし、あの状態からどうやっ……。おま……え、マジかよ」


 僕の腹からボタボタと大量の血を流しているの、見てレーラが固まった。


「ゴフッ! レーラさ……んを、倒すには。これしかありませんでした。うっ!」

「ロイエ君……。君って人は無茶をする。宝剣カルネオールにミルトが込めたフリューネルを、まさか自分に刺して発動させ、推進力にするとは」

「……クハハ。アーハハハハ! こりゃバカだぜ! お前すげーバカだな! ハハハハ! 一本取られたぜ! わかったよ。お前の覚悟……確かに受け取った。鍛えてやろうじゃねぇか」

「ありがとござ……ゴフッ」

「お、おい! 刺しすぎだろ!」

「大丈……夫です」


 無詠唱のクーアを発動させると、見る見るうちに突き刺したお腹の怪我が治っていく。だが、やはり失った血までは戻らない。


「お前、重力と回復のダブルだったのか……?!」

「ふぅ……。はい、重力は練度★3の適正☆8、回復は練度★4の適正☆10です」

「まじかよ。なら、あれが出来るかも知れねぇな……」


 あれってなんだろう。


「ふへへ、ワクワクして来たぜ。よし。お前を正式な俺の弟子にしてやろう」

「あ、ありがとうございます!」

「ところで名前なんだったか? あー、ロイなんとかかんとかって長い名前だったな。ロイでいいや。俺はそう呼ぶ決まりだ」


 勝手に名前が決まってしまった。


「よかったですね。ロイエ君」

「ところで、お前らはなんだったっけ?」


 レーラがルヴィドさんとミルトに初めて向き直った。


「ロイエ君の友達のルヴィドとミルトです」

「お前らも俺の弟子になりたいのか?」

「いえ私は「なるーーーーーーー!」」

「わかった。お前らも俺の弟子二号と三号な」


 知能指数が下がったミルト発言で、ルヴィドさんとミルトまで弟子になってしまった。


「ル、ルヴィドさんよかったんですか? 僕から誤解だと伝えましょうか?」


 知能指数の下がったミルトとレーラは気があるのか、二人ではしゃいでいる。


「お前の魔力回路はなんだー!?」

「全部ーーーーー!」

「バカ言ってんじゃねぇ! 全部なんて……出てるー!おま!これどーなってんだよ!えええ?!」


「いえ、せっかくなのでレーラ師の元で私も修行しましょう。前回の戦いと今回の戦いで痛感しました。私は弱いと、このままではミルトを失う日が来てしまいそうで……。今やれることをやりたいです」

「わかりました」


「おい! お前ら! こいつやべーぞ! 全部出てるじゃん!」

「ヴェルア!グリーゼル!ザントシルドぉー」

「すげーすげー!うははは!」

「あひーほへー」


 あ、ヤバい。ミルトがもはや言語能力すら失いそうだ……。


「レーラさん! ミルト! ストップ! ストーップ!」

「仕方ありません……。ゼクンデ・オルト」


 バリバリと電気が走り、ルヴィドさんがレーラとミルトを気絶させた。パタリと倒れた二人を見て、疲れが一層増したのを感じる。


「はぁ。ロイエ君。明日も忙しいみたいですし、今日は寝ますか」

「そうですね……」


 僕の血で汚れた宝剣カルネオールを、近くに置いてあったバケツの水で洗うと、ミルトをテントに寝かせ、僕らもそのままテントの外で気絶してるレーラと一緒に横になった。


「はぁ。ルヴィドさん疲れましたね……色々と」

「ええ。本当に……」


 うるさい二人が気絶したおかげで、あたりはシーンと静まり返った。


「あの……。ルヴィドさん、僕はカルミールベアやルーエさん、グリフォンやゾルダート。これらの戦闘で何の役にも立ってません。毎回誰かに助けられて生きながらえました……。こんな幸運がいつまでも続くとは限りませんし、いつまで経っても家族を探す冒険など不可能です」

「それは私も痛感しましたよ。自身の最大呪文である練度★5の魔法もボスカルミールベアにはほとんど効かず。今回も何の役にも立ちませんでした……」

「練度★6がヴェルトの解放ですよね? 後一つじゃないですか」

「そうですが、私が練度★5になってから、もう十年です。なにをやったら練度★6に上がるのやら……」

「え。十年……そんなに……。練度を上げる条件はみんな同じじゃないんですか? 練度★3くらいまでは同じでしたけど」


 クルトさんとの練度攻略では全く同じ条件で練度★2に上げることが出来た。他の練度も同じ属性なら、同じだと思っていたけど……。


「それは魔法研究所でも意見が分かれてまして、私の支持するのがバランス説です」

「バランス?」

「敵に使った回数、練度ごとの利用回数。使用時間、これら全てが一定を超えないと練度★6は解放されない可能性が高いです」


 そんなに条件がキツかったのか……。確かに火であれば、練度★4の魔法ヘルブランランツェが解放されれば、それより威力の弱いヴェルアや身体能力を上げるだけのアングリフなどの魔法は、使う頻度が減ってくるかもしれない。


「なるべくバランス良く使ってるつもりですが、上がらないのですよね……。レーラさんとの修行で活路を見出せたら良いなと、思いました」

「じゃあ、一緒に強くなりましょう!」

「ええ、是非」


 僕とルヴィドさんが決意を胸にしまうと、真夜中のモンスター騒動はやっと終わりを見せた。明日からまた怒涛の日々が始まる……。

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