[ 110 ] 復興作業

「ロイ! こっちの木材を南側に運んでくれ!」

「はい!」


 翌日は、早朝から村の復興作業が始まった。元々火山の側の村ということで、災害は想定した作りになっており、土壌も柔らかかったことから木材などは大部分がそのまま使えそうだった。


 僕とレーラさんが埋まった木材を重力魔法で持ち上げて、一度中央にあるフィクスブルートの側に運ぶ。凸凹の土壌をザントシルドでミルトが整え、ファレンさんがアングリフで身体能力を強化してハンマーで叩いて整地。


 ルヴィドさんに関しては、レーラさんいわく魔法の精度が低いと指摘された。そのため森へ向かってクラウンクロイツで枝打ちにしているが、百を超える雷の剣を細かく操るのは相当な集中力が必要らしく、一人にして欲しいと言われてしまった。


「いいか? 俺様みたいに強くなりたかったら、筋肉も大事だ! 魔法ってのは便利だが無限に使えるわけでもねぇ。身体能力が高ければ練度★1の魔法なんて避ければいい」

「脚には自信あります! 痛っ!」

「バッカ、そんなひ弱な腕でどうやって敵を倒すんだよ。丸太を整地した場所へ気合いで運べ。重量は半分まで軽くしていい」

「はい!」


 重量魔法使いにとって、バランスを取るために体幹を鍛えることはすごく意味があるんだとか。実際に強いレーラが言うのだから従うしかない。僕は言われた通りにがむしゃらに働いた。


「ミー! お前はザントシルドとフリューネルを交互にやれ!」

「はーい」


 ミルトの強みは六属性を使えることだ。ただデメリットで練度★2までしか使えない。これをうまく活かすのが魔法の同時使用だとレーラは言った。


 例えば火魔法のヴェルアとアングリフ。これを続けて使うと十秒程度の再使用制限がかかるが、ヴェルアのあとにすぐフリューネル。これは可能だ。つまり別属性を同時に使うことを訓練し、限りなく隙間なく使うことが強みだと。


「ザントシルドフリューネりゅ! 噛んだー!」


 早口言葉の有無が成功の鍵だ。


「よし、今日はここまでだー!」

「はぁ……疲れた」

「すまんな、旅の方にまでやらせてしまって……。夕飯はわしらが用意したので食べとくれ」

「ありがとうございます。村長さん」


 村長さんから色々と話を聞くと、この村は元々フィクスブルートを祀っていたとある部族の子孫の村らしい。火山が近くにあるため一年中暖かく温泉も沸いているから、のの気候が好きで移住してくる人もいるとか。


「お兄ちゃん村を治してくれてありがと! これあげるー!」

「ありがとう、リオちゃん」


 村の女の子に木彫りの熊をもらった。すごく良くできてる……! 後で何かお礼を返さないと。


 村の人達も良い人ばかりで、村がなくなったばかりだというのにみんな明るい。いつか火山が噴火したら村はなくなる。その気持ちが常にあるから、いつでも立ち直せるような準備を常日頃からやっているらしい。


「よし! 飯食ったな! 午後も気張っていくぞー!」

「お、おーー!」


 午後もたっぷりしごかれ、村の復興は急ピッチで進んだ。星の魔力の回収に失敗したから、これを奪いにくると思ってたんだけど……。


 潰れたゾルダートの血溜まりには、魔吸石が落ちていた。青く輝く小さな石で、石の中に半分くらいまで水のような物が溜まっている。これが星の魔力なんだろうか。レーラがロイが持ってろと言うので、ペンダントにして首から下げている。


「魔法研所に持っていけば、何かわかるかも知れませんね」

「ルヴィドさん。これを取り戻しに来ると思いますか?」

「ええ、トロイさんから聞いた話的にも、これは彼らの最重要アイテムですし」


 また奴らは来る。星食い達はどれくらいの人数なのか。仮にも王国騎士団に潜り込むことが出来るとして、最低でも五十人くらいはいるんじゃないだろうか……。


「心配か?」

「レーラさん……。いつ奴らが攻めてくるかと思うと……」

「そうだな。仮にゾルダートって奴が帰ってこない、魔吸石を取り返しに行こうってなっても、恐らく俺を殺せるほどの戦力を集めるのに、三ヶ月か半年くらいは掛かるだろうな」

「短いですね……」

「ああ、それまでにお前らのレベルを少しでも上げないとな? だ・か・ら……。サボってる場合じゃないないだろー!」

「いたたたた! すみません! すみません!」


 まだ初日だけど、彼のアドバイス通りに修行すれば確実に強くなれる気がした。それはルヴィドさんやミルトも感じたみたいで、この修行の果てに強くなった自分が見えたようだ。


「あの、私は騎士団に帰ることはもう出来ないのでしょうか」


 昨日木に縛ったまま忘れ去られたファレンさんは、人質ということになってる。まずレーラさんがファレンさんを完全に信用してないからだ。仮に彼が星食いの仲間だった場合、帰せば奴らにすべてバレてしまう可能性があると。


 仮にレーラさんや僕たちの属性がバレれば、対策を立てた部隊がやってる可能性は高い。


 重力使いは物理的な攻撃をする土魔法使いや水魔法使いには強いが、火風雷などは重力が効かないため、実は苦手な相手だったりする。いくら相手を重くてしても、ヘルブランランツェを打たれれば、防ぐ手立てはない。


「あったりめーだろ! また木に縛られてぇか?あーん?」

「め、滅相もございません……」


 彼には気の毒だが殺されないだけマシだと思ってもらうことにする。その代わり騎士団の情報やゾルダートの所属している監査班というのが、どんな部隊なのか今夜話してもらうことになっている。


 村の復興はまだかかりそうだけど、日も落ちてきたので初日は整地と家の場所を決めるだけで終わった。レーラさんのために持ってきたお土産の中身は、ハイネル村の特産キノコの詰め合わせだった。


 レーラさんはこれが大好物だったらしく、村の人を集めるとキノコ祭りが始まった。村の人もこれには大いに喜んでくれて、村が無くなったという悲痛の中、笑顔や笑いがこぼれたのは幸いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る