[ 125 ] 湿地帯
翌日朝早くファプロの武器屋に集合した僕らはユンガと合流して、ヘーレ洞窟を目指した。
「ヘーレ洞窟まではどれくらいなんですか?」
「んー、山なりに歩いたら三時間くらいだよ」
僕とシュテルンさん、ルヴィドにミルト、ユンガに受付嬢のラッセを加えた六人で向かうことになった。ユンガは店で待ってるように言ったけど、「おっさんに会えるチャンスに行かないなんて、そんな選択肢はねぇよ!」との事で強引についてきた。
ラッセに至っては、一応ギルドとしてはヘーレ洞窟のモンスター討伐依頼は断ってるとの事だったので、無断での立ち入りは良く無いと今朝ギルドは向かったら、マスターから「ガーハハハハ! 倒せるモンなら倒してくれるとありがてぇな!」と簡単に許可が降りた。ただ、心配だからとラッセについて行くように命令が下った。
「湿地帯など行きたくありませんが、マスターの命令とあれば仕方ありません。アンポンタン」
相変わらず口が悪い……。マスターの監視下から外れたからなのか、礼儀正しさもなくなってしまった。見た目は清楚系で綺麗な顔立ちなのに……。
ちなみに、ユンガ自体は水魔法練度★2らしいけど、あまり魔法には興味はなく、特に練度とかどうでも良いと言っていた。
「ところでファブロさんってどんな人なんですか?」
「どんな人? うーん、見た目は普通のおっさんだぜ?」
ユンガの普通のおっさんの基準がわからないから、なんとも言えないけど……普通のおっさんらしい。
「ヘーレ洞窟に向かう前に何か言ってなかった?」
「そうだな……。確か『石が俺を求めてる』って出て行ったかな……?」
ん? どこかで聞いたセリフだな。どこだったかな。
「そいえば、あの店の内装……懐かしさが……。あ!!」
思い出した。ナッシュのギルドだ。あそこと外装と内装がファブロの店は同じなんだ。確かマスターが武器屋の店主から借りたとか言ってたな……。で、店主は「石が俺を求めてる」ってどこかに行ったっきり帰ってこないとかなんとか……。
「あのファブロさんって昔ナッシュに住んでませんでした?」
「うーん、自分の過去のことはあんまり喋ってらない人だけど、リッカム料理が好きって言ってたかな」
リッカム? リッカム……。確かナルリッチさんの店のメニューにそんな料理があって、深い谷でしか育たないけど、自家栽培に成功したとか言ってたかもしれない。
「確かなナッシュに、リッカム料理を出す店があるので、ナッシュから来てそうですね」
「そうなんかー。今度聞いてみるか」
話しながら歩いていると、だんだん風景が変わってきた。まず地面がジメジメと水分を含むようになってきて、少し霧が出てきた。鳥の鳴き声も少なくなり、しーんとした静寂が訪れる。
「あれ、ラッセさんどうしました?」
「申し訳ございません。これ以上進みたくありません」
「どういう……」
「ジメジメが酷くなってきました。これ以上は服が汚れるから無理です。鈍感」
綺麗好きみたいだし、でもマスターからはラッセさんが監視役としてって話なので、着いてきてもらわないと……。
「ジオグランツ」
「きゃあ! な、なにを! この変態!」
「ご、ごごめんなさい!」
ラッセさんを浮かせて引っ張っていけば、洋服が汚れることもないと思って浮かせたら、スカートが捲り上がってしまった。
「ロイエ様、見ましたわね? どすけべ」
「いや、あの……見たというか見えちゃったというか……すみません」
「後日、責任を取って頂きますから、覚悟してください。バカ」
「はい……」
いくら請求されるのか、手持ちのお金で足りるかな……。
「ロイエ君待ってください」
浮いたラッセさんに紐に握ってもらい歩いていると、ルヴィドさんからストップがかかった。
「この先の道、あそこから地面の色が違います。毒の可能性がありますね」
「毒?」
見ると湿地帯が紫色に染まっている。見るからに毒ですと言わんばかりの色で、誰でも入るのを躊躇する色だ。
「あれ? 昔俺がきた時はこんな色じゃなかったぜ?」
「そうですね。ここは普通の湿地帯のはずですが……」
ユンガもシュテルンの記憶でもここは毒沼ではないらしい。しかし実際この色は毒にしか見えない。
「うーん、本来なら湿地帯を突っ切るのが早いけど、山を迂回する?」
シュテルンの提案はもっともだが、僕らにはあまり時間がない。
「バルカン村に向かった時の方法で行きますか」
「あ、そうですね」
その提案で、近くの木を切るとユンガが持っていた道具で繋いでもらい木の絨毯を作ってもらった。
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