[ 228 ] 満身創痍
「おい! 小僧どうするんだ! このままじゃヘクセライに突っ込むぞ!」
横方向の重力の扱いがまだ慣れてなく、結構な速度で船はヘクセライへ向かって落ちている。現在、船が垂直に立っていて、これ以上ゼレンの速度を弱めると遠心力が弱まり、僕らが船から落とされる可能性があるから速度を弱められない。
「ロイエさん! シルフィさんも魔力が限界近いと!」
ロゼが叫ぶ中、僕は最善の手を必死に模索した。理想は縦になっている船を一度空中で横に……正面に戻し、そのまま静かに着水することだ。下手したら船は大破か船底が浸水して沈没……。みんなを信じるしかない。
「ハリルベル! ピラートを叩き起こして船尾を軽くして!」
「わかった! 行ってくる!」
「ロゼ! シルフィに僕が合図したら風魔法でこの船を水面に押し付けるように言って!」
「わかりました!」
方法はこれしかない。ヘクセライへ近づきながら船を横に90度傾けて、ゆっくり着水させる。
しばらくすると、ピラートが魔法を発動したのか、船尾が軽くなり持ち上がってきた。徐々に船尾が上がり、船が横を向き始める。
「よし! シルフィお願い!」
僕の合図をロゼがシルフィに伝えると、横を向いた船が上から風魔法で水面へ押し付けられる。いままさに船は正面を向き、徐々に降下しながらヘクセライへ向かっている。
「よし! いいぞ!」
「おーい! もうすぐ港だぞー!」
船長が叫んだ。遥か前方にデザントより少し小さいくらいの街が見えた。全体的に紫色の色彩を基調とした街は、あちこちに大きな風船のようなものが浮いている。
「あれがヘクセライ……」
「ロイエ! もうピラートが持たない!」
ハリルベルが甲板へ飛び込んできた。もうこれ以上ピラートは無理だろう。僕はシルフィへ着水の指示を飛ばした。
「シルフィ! 最後だ! もっと水面に船を押し付けて!」
ぐんと船が水面へ近づく、あまり速度が出過ぎていると船が水面にぶつかった瞬間に大破する。僕もゼレンを徐々に弱めてタイミングを見計らって解除した。
「みんな! 衝撃に備えて!!」
……ザッバーーーーン!!!
大きな水飛沫を上げて船が着水すると、甲板は水浸しになった。着水の反動で揺れる船にしがみつき甲板を見渡すと、乗組員は全員いるし、ぱっと見だと船への損傷は無さそうだ。
「みんな! 大丈夫?!」
「ああ! 問題ない!」
「船底の水漏れも今のところねぇぞ!」
貨物室から店長が出てくると船内の様子を伝えてくれた。どうやら調理器具が散乱したらしい。それくらいは勘弁してくれ……。とりあえず船の大破と浸水による沈没、この二つが避けられただけでも上出来だろう。
「ここからヘクセライまでは2kmほどだな。さてどうするか」
船長が望遠鏡でヘクセライまでの距離を測ると渋い顔をした。
「ぅ……。うぐぅ」
シルフィが完全に魔力切れを起こして青い顔をしている。元々乗っていた風魔法使いも同様に魔力切れでダウンして気絶した。
「二人がダメだと、ここから動けねぇぞ」
「とりあえず帆を張り直して、風任せでもヘクセライを目指しましょう」
空中で揉みくちゃにされた結果、船の帆が一部壊れてしまっている。船長がすぐに直せる範囲だというので、それは任せることにした。
「ロイエ、俺よくわかんなかったけど、さっき重力が横にかかってなかったか?」
「うん、船がぐるんぐるん揺れてる時に重力魔法の練度★5『ゼレン』が解放されたんだ」
「マジか……。追いつかれちゃったじゃねぇかよ」
そっか。ハリルベルも練度★5か。これで僕も少しは戦えるといいけど、ゼレンは扱いの難しい魔法だ。ヘクセライについたら少し訓練してみよう。
それにしても僕の重力魔法の練度★6はなんだったかな。あ、★6は全属性共通でヴェルトか……。後一つ上がれば、ツヴァイしなくてもヴェルトが使えるようになる。これは戦力上ものすごく重要だ。
練度★6になれば、レーラが使っていた超広範囲の重力魔法『ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ・オルト・ヴェルト』が使えるようになる。いままではツヴァイで回復魔法のヴェルトへ連携してたから、ジオフォルテを使えなかった分、威力は弱かったけど。
いや待てよ? ヴェルトからヴェルトへ繋げる?
『ジオグランツ・オルト・ヴェルト・ツヴァイ・ヴェルト』もいけるのか? ヴェルト自体が効果範囲と威力を10倍にする効果があるから、それの10倍なら100倍になるんじゃ……。重力効果範囲が最大1.2kmにも及ぶ? そんな馬鹿な……。
少し未来に習得するであろう重力魔法の完成形をイメージして、僕は戦慄した。
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