[ 219 ] 後始末
「申し訳ない……」
ギルドに戻ると、意識を取り戻したクルトさんは終始こんな状態で謝っている。
グロッサによる最初の水攻めで片腕を破壊されたクルトさんは泳ぐことが出来ずに溺れ、僕らが戦ってる間は終始気絶していた。
僕らの中で一番練度が低いクルトさんはグロッサとの戦闘に耐えられないだろうと、マスターと親方が判断して事務所に放置していたらしいが……。
「役立たずでごめんなさい……」
クルトさんは戦闘に参加できなかった事で自分を責めていた。元々ギルドマスターは練度★7以上という決まりがあるが、臨時ということもあり練度★4のクルトさんが特別に就任していた。その辺も負い目の一部だったようだ。
「あーあ、私も参加したかったなぁ」
テトラはソファーに寄りかかりジュースを飲み干すと、こちらも不満を垂らしていた。テトラもアクアリウムではそれなりの冒険者で、戦いは好きらしい。
「気にするでない。終わった事じゃ」
「いえ、ギルドマスターとして管理地での戦闘に参加できないなど、申し訳ない……」
酷だが、正直クルトさんがいても何も変わらなかったと思う。
「ええーい。しつこいやつじゃな。それよりもゼクトに関する情報が入ったんじゃろ?」
「うんー! ゼクトさんはねの朝方にベルク山の方へ飛んでいくのを見たって西門の門番さんが言ってたよ」
「ならヘクセライへ向かったんじゃろうな」
僕らがキーゼル採掘場へ向かった後、テトラがゼクトの目撃情報を集めてくれていたらしい。
「ちなみに、そのグロッサという護衛騎士はどうしたんですか?」
「あぁ、一応ミアさんが監視する事になりました」
気絶したままギルドまで運ばれたクルトさんは、グロッサの顔すら見ていない……。これもまたクルトさんが苦悩してる原因の一つだ。
――話は、少し前に遡る。
僕は先のことを考えずにグロッサの事を癒した後、その処遇に悩んでいるとミアさんがグロッサの監視役を名乗り出てくれた。
「……俺がこいつを預かろう」
「え?」
「お前らはヘクセライに行くんだろ? ロイエがナッシュに残るは痛手だ。それにこいつはお前らじゃ勝てないだろ」
「それはそうですけど……」
「お前らは先にヘクセライへ行け」
「……わかりました」
まだ意識の戻らないグロッサを診療所のベットに寝かせると、ミアさんを残しハリルベルが気絶しているクルトさんを背負い僕らはギルドへ向かったというわけだ――
「本当によかったんですかね」
「仕方ないじゃろう。ミア以外にグロッサを抑えられる奴がおらん」
「それはそうですけど……」
なんだか、自分の後始末をミアさんにやらせてしまったみたいで申し訳ない。
それでもミアさんは「俺が最初からトドメを刺せばよかっただけの話だ。最初に生かすと決めたのは俺だ」とまで言ってくれた。カッコ良すぎるよ……。
「そいえばハリルベル、親方はどうした?」
「ああ、親方ならロイエにぶっ壊された事務所を治しに行ったよ」
「ち、違っ……くないけど」
「まぁ気にすんなって」
重力魔法で手伝おうと申し出たけど「病み上がりで無理はするな、浮かせるだけでは意味がない。俺の土魔法なら理想の形へ作り直せる」と言われ、ついていくことすら許されなかった。
「まぁ気にするなロイエ、お前にはお前の役割があるんだって」
「ハリルベル……そうだね。ありがとう」
「して、クルトよ。ロイエ達の船の準備はどうかの?」
「ああ、それなら整ったと連絡があったそうです」
ロゼが用意してくれてる船の手配が終わったらしい。ここからは二日ほどの船旅でヘクセライに着くとのことだ。
「早ければアウス達の調査班もフォレストに向かって進軍している頃じゃろう。なるべく早くヘクセライへ入るのじゃ」
「あれ? マスターはいかないんですか?」
「うむ。ちと野暮用があっての遅れて向かう予定じゃ」
「わかりました」
ならヘクセライへ向かうのは僕とハリルベル、それにロゼの三人か……。戦力的には少し心許ないメンバーではある。
「それでは、クルトさんギルドの運営頑張ってください。マスターまた会いましょう」
「うむ、精進しなさい」
「いつでも寄ってくれよ。もっと冒険者を育成しておくからよ」
こうして僕とハリルベルはギルドを出ると、ロゼの待っている港を目指した。
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