[ 218 ] ミア・ブリッツ
「ミ、ミアさんどうしてここに……」
「誰だ……?」
「いやいや! 僕ですよ! ロイエです! デザントで幽霊屋敷に行ったじゃないですか!」
「おー! あの時の少年か、それで? 巨大幽霊は出たか?」
「今はその話をしてる場合じゃないです! 早くグロッサを!」
僕がミアと話していると、腕を組んで立っていたミアの全身が突然大量の水で覆われた。グロッサの攻撃だ!
「ミアさん!」
「や、やった! いくらミアとはいえ……。ぎゃぁあああああ!」
突然グロッサが悲鳴を上げて倒れたと思ったら、バチバチと何やら放電している。どうやらミアが無詠唱で雷魔法を使って感電させたらしい。
それと同時にミアさんやハリルベル達を閉じ込めていた水の牢獄も、パシャンと弾けて消えた。
「げほっげほっ。ふぅー、さすがに死ぬかと思ったわい……。もっと早く助けにこんかい」
「別に助けに来たつもりはないが……。見知った水が見えたので来ただけだ」
3人とも無事だったようだ。ハリルベルは水を飲んでしまったらしく、親方に叩かれて水を吐いている。
「ぐぅ、こんなはずでは……」
かろうじて起き上がったグロッサだが、あれだけでも相当なダメージを受けているように見える。
もしかしてクローネ系の精霊化は他属性や物理に強くなる代わりに、弱点属性のダメージが倍化しているのか?
「また悪巧みか? ……グロッサ」
え? し、知り合い?! 人の名前も地名も依頼内容も何もかもすぐ忘れるあのミアさんが、人の名前を覚えてるなんて、二人の関係って……。
「くっ、相変わらず無茶苦茶を……。相手が悪すぎるわ……」
起き上がったグロッサだったが、今の衝撃で体の一部の精霊化が解けてきている。やはりあれだけの魔法なら体への負担が大きいのだろう。
「まだ王の手足となって働いてるのか?」
「うっさいわね。裏切り者のお前には関係ないでしょ!」
裏切り者? グロッサの吐いたセリフから推測すると、ミアとグロッサは昔は仲間だったってこと……?
「あの、もしかしてミアさんって……」
「そうじゃ、ミアは元護衛騎士なんじゃよ」
「ええぇえええ! そ、そうだったんですか、どうりでめちゃくちゃな強さだと……」
「昔の話だ……さて、キーゼル。頼んだぜ?」
「あぁ、わかった」
ミアと親方も認識があるようだ。どんな繋がりなんだろう……。そんな事を呑気に考えていたら、親方が呪文を放った。
「ザントシルド・オルト・ヴェルト!」
唱えた瞬間、僕らの足元からそれぞれ砂の盾が競り上がりぐるっと包み込んだ。視界は塞がれたが、その先の展開は予想できる。
「グロッサ、話は後で聞こうか」
「い、いゃぁあああああー! やめてぇーー!」
「逃げても無駄だ。ヴァイスレーヴェ!」
「待って待って! ぎゃぁああああああああー!」
バチバチ!という音と共に、グロッサの悲鳴が聞こえると爆弾でも爆発したかのような爆音が、僕の体を揺らした。
砂の盾に守られてるおかげで、僕らはノーダメージだけど、きっと外ではとんでもないことが起きているんだろう……。
外を覗こうとしたら、グシャっと砂の盾が崩れた。辺りを見回すと、少し離れたところで焦げたグロッサが倒れていて、側にパリパリと放電してるミアが見えた。
「ジジィ、どうする? トドメさすか?」
「そうじゃのお、生かしておいても邪魔だしのぉ」
グロッサは虫に息だ。放っておいても死ぬかもしれないほどの重傷だったが、僕は本能的に可哀想だと思ってしまった。
「あの、助けちゃ……ダメですか」
「アホかロイエ、俺なんか窒息する手前だったぞ?」
「ふむ。どうしてだ。ロイエ」
親方が僕に聞くと、明確な答えを持っていない僕は、感覚で答えるしかなかった。なんとなくそう思っただけだ……。
「グロッサは、僕らを殺そうと思えばいつでも殺せた気がするんです……。それに村長だって一命を取り留めてます。もしかしたらそこまで悪い人じゃないんじゃないかなと……」
「ふむ」
僕が余計な事を言ったから、みんなにも迷いが出てしまった。親方はどんな事も確実に進めたい人だから、敵であるグロッサを生かしておく必要はないと考えているだろう。
「ロイエが、生かしたいと思うなら生かしても良いが、責任は持てるのか?」
「そうだぞ。そいつが後で暴れて俺たちを殺しに来たらどうすんだよ」
「それは……」
そんなこと保証出来ない。また襲ってくるかもしれない。正直ミアさんがいなかったら僕らは全滅していた可能性も高い。それくらい強い相手だった。
そうだ。今回もまた強い人に助けられてしまった……。
いつまで経っても、僕は一人では何も出来ない。いつになったら僕は一人で戦える力を手に入れられるんだ。
「おい、ロイエ! 聞いてんのかよ」
「あぁ、ごめん。ハリルベル」
考えすぎて、今答えなきゃいけない事から逃げてしまった。でもやはり僕は……。
「僕はグロッサがまた暴れたら、対処できるほど強くはない……でも、グロッサは村長の命を助けてくれました」
「いやいや、そもそも村長をあそこまで痛めつけたのはグロッサだぞ?」
いや、まぁそうなんだけど……。
うまくこの気持ちを言語化できないでいると、みんなから責められた。
「村長が生きてたのは、ヘクセライや王都へ向かう俺らを釣る為だろ。それにハイネル村の人たちを殺してるんだぞ」
「そうだけど……」
「命を足し引きで考えるなら、そいつは相当なマイナスだぞ。村長一人の命を救ったと言っても、元はそいつが負わせた怪我だろう」
みんなの言ってることは全部反論しようがないほどの、正論だ。グロッサを生かしておく必要なんてこれっぽちもない。でも、それでも――
「僕は、グロッサを助けたいんだ。ごめん」
「この中で回復術師はお前しかおらん。好きにするんじゃ」
「はい……。クーア・オルト・ヴェルト」
優しい光がグロッサの傷を癒して行く。
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