[ 220 ] ハリルベルと?
「ロイエさーん!」
港に着くと、ロゼさんが笑顔で出迎えてくれた。その背後には、白い大きな帆船が堂々と停泊していた。
「これって……」
「はい、デザントでみた物と同タイプのアーバレストと呼ばれる帆船ですわ。ってロイエさん何かありました?」
濡れてしまった洋服は着替えたけど、なんで何かあったとわかるんだろ。
「実は親方のところで――
――事の経緯を説明すると、ロゼははっきりと言ってくれた。
「ロイエさんは優しいですね。それでいいんですよ。救える命は救う。その後どうするかは、また別な問題です。善人だろうと悪人だろうと救うその心がロイエさんの美点ですわ」
その言葉を聞いて涙が出そうになった。そうだ、僕は前世相手が誰であろうが怪我人は怪我人だ。関係ない助ける。その思いでやってきたはずだ。
「ありがとう、ロゼ……」
僕は思わず、ロゼをギュッと抱きしめると、ふわっとした柔らかい感触と良い匂いが僕を刺激した。
「ロ、ロイエさん? 恥ずかしいですわ」
「あ、ご……ごめん」
「おーい。少し休憩してから行くかー?」
「ハリルベルっ。からかわないでよ」
「へへへ、はぁ。シルフィどうしてるかな……黙って出てきちまって、また怒ってそうだ……」
そうだった。ハリルベルはメルヘラのシルフィを置いたきてしまったんだ。今頃どうなっていることか……。
「ま、ちょっとしつこかったし、めんどくさいから丁度いいか。アハハ」
「ハ、ハリルベル……」
「ん?どうした? しっかし、シルフィもなぁ。もう少し胸が大きければなぁ」
「ハリルベル!」
僕がハリルベルの後ろを指さすと、僕の悲壮な顔を見てか事態の重要性を察してくれたらしい。ゆっくりと後ろを振り向くハリルベルの背後から、怒りに満ちた声が降ってきた。
「誰が……しつこくてめんどくさくて、ぺちゃぱいですか?」
「シ、シルフィ……。ど、どうしてここに……」
そこにはフォレストに置いてきたはずの、ハリルベルの彼女……シルフィの姿があった。
「ハリーが私に無断でフォレストを脱出したって聞いて、超ダッシュで追いかけてきたんですが……?」
ずいっとハリルベルへ近寄るシルフィ。
「そ、そうなんだ……よかったね。お、俺たちもう行かなきゃいけないから、ご、ごごめん……」
「ハーーーリーーーー?」
「ひぎぃいああああああ!!」
耳を引っ張られて、建物の影に連れて行かれるハリルベル。もう僕らが手を出せるレベルじゃない。怪我なら回復させてあげるから我慢だ。ハリルベル。
「私が! どれだけ! 心配したと!」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
シルフィの折檻は手出し無用だ。黙って声を聞いているしかなく、待ってる間にベンチに座るとロゼから質問があった。
「あの、そういえば……わたくしはミアさんという方に会ったことないのですけど、どんな方なのです?」
「あ、そうだっけ?」
「はい」
「えーっと、黒いフードにマント黒髪で、黄色のイヤリングをしてるのが特徴かな」
「ずいぶん真っ黒な方ですね……」
「そうだね……はは。でもSランク冒険者でかなりの腕前だよ」
「それは心強いですわね」
まぁよく迷子になるけどね……。グロッサの件で仮があるため、僕はロゼにミアさんの弱点は伝えないでおいた。
「だぁれぇがまな板よ! 絶壁よ!」
「そ、そこまでは言ってない……」
「言ってないだけで思ってたんでしょ!? あ! いま笑ったよね?!」
ハリルベルとシルフィの喧嘩はさらにヒートアップして、まだまだ収まりそうに無い。
「ハリルベル達、長そうだから先に船の説明と航路や積載内容など教えてくれる?」
「はい、わかりましたわ」
港長の方に船の説明を受けると、いくつかの問題点がある事がわかった。
まず一つは、今は風の弱い時期らしく、予定より到着が遅れるとのこと。
ひたつ目は、王都から物資の買い付け依頼がいつもより多く荷物が重いため、さらに到着が遅れるとのことだった。
「荷物の重量なら僕が魔法で軽くしますよ」
「お! あんちゃんは重力か! こりゃ助かるぜ! うちにも数人いるんだが練度不足で範囲が狭くてな。全部は無理なんだわ」
港長へ練度の説明をすると、なら船ごと行けるか?というので、やってみることになった。そこで僕はグロッサ戦でやった重力魔法の無詠唱が出来る裏技を試してみる事にした。
「ヴェルト!」
何も起こらなかった……。恥ずかしい。ロゼも港長も聞かなかったことにしてくれている。
どうやら適正★10の効果で無詠唱になるのは、練度★3までで、それ以上の魔法が一緒に入るのはダメらしい。
「ジオグランツ・オルト・ツヴァイ・ヴェルト!」
重力魔法の範囲を船の限界まで広がると、白い帆船『アーバレスト』がふわりと浮いた。
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