[ 252 ] 王都の異変

 僕らは馬車に揺られること数日。

 王都リッターガルドへと続く大渓谷にかかる橋を、馬車で渡っていた。


 本当なら馬車を重力魔法で浮かせて風魔法で飛ばしたかったけど、僕の魔力の回復が悪くてそれは出来なかった。


「あれが、王都リッターガルド……」

「気をつけろよロイエ。もう王都は王の手に落ちていると考えた方がいい」

「お父さん、お母さん、無事でいて……」


 王が練度★9の回復術師を取り込んだと聞いた時に1番初めに不安がよぎったのは、回復術師として捕まっているお母さんのことだ。


「ロイエ、なにがあっても王の討伐を優先しろ。最悪世界が終わる可能性すらある」

「……わかった」


 本当は分かってない。それは兄もわかってる。それでも言うしかない。家族よりも王を倒すことを優先すると。


「お前ら! 王都は目の前だ! なんとしても王を倒せ!」


 殺せと言わなかったのは、殺しに慣れてない僕がいるからだろう。アルノマールは本当はすごく優しい。ここに来るまで全員のケアをするために、3台の馬車を走り回っていた。

 背負われて、ジェットエンジンがわりにさせられてるフィーアとピヨは可哀想だけど。仕方ない。


 ガタゴトと、大橋を馬車が渡る。バカに静かだ。

 仮にもこの大陸で1番の街なのに、人の声も物音も何も聞こえない。まるで廃墟へ向かってるかと思うくらい静かで不気味だ。


「王は街中の人の命を吸収しちゃったのか?」

「可能性は高いな。ヘクセライを出た船があそこに」


 兄の指さす方を見ると、確かにロゼとリュカさんが王都へ向かった船が停泊している。破損した形跡は無さそうだ。


 その時だった、大橋の中腹まで来たあたりで王都の巨大な門がギギギギギと不快音を立てながら、ゆっくりと開いた。


「なんだ? あれは――


 開いたら大門から飛び出してきたのは、頭を狂ったように左右に振りながら走ってくる、王都の住民と思われる人の群れだった。


「正気には見えないな……」

「あれはもしかして……」

「ベルフィ何か知ってるの?!」

「ジンテーゼです。研究所でみたことがあります。星の魔力を注入された人間の慣れ果てです」


 練度を無理やり上げるため、フィクスブルートから抽出した星の魔力を注入された実験体……。こんなにいたなんて……。意識を失っても、フィクスブルートの意思で外敵排除を目的としたゾンビと化してる。


「気をつけてください! 魔法を使ってきます!」


 ベルフィの声に反応したかのように、走ってきた30人ほどのジンテーゼ達が、次々に魔法を放ってくる。しかも、フィクスブルートの魔力で強化されてるからか、どれも練度が高い。


「ゼクト! ロイエを連れて先に王都へ飛べ!」

「待ってピヨ! ピヨも行くピヨ!」


 アルノマールの激を受けて、ゼクトが先行して馬車から飛び出すと、僕もハリルベルとベルフィを軽くして持ち上げ、ピヨの風魔法で飛んだ。


「行くぞロイエ! 港からだ! 先行して王都入りした騎士団の連中が心配だ!」

「うん!」


 大橋での戦闘はアルノマールや他の冒険者達に任せて城壁を越えると、街の中が見えてきた。デザントよりも広い王都の中には、先ほどと同じ実験に使われたジンテーゼの群が徘徊している。まるでゾンビ映画だ。


「これは……」


 意識を無くし、ただ街中を彷徨い敵がいたら攻撃する。どうしてこんなことに……。


「兄さん、王は住民の命を吸うだけじゃなかったの?!」

「恐らく……。命を吸った後の亡骸に、誰かが星の魔力を注入したのかもしれん」


 だから意識がないのか。

 死体となった住民を無理やり動かしているなんて――


「ひっひっひ。来たなゼクトよ」

「やはり貴様か、ゲーティバルト」

「見てくれ、ついに完成したのだよ。死を恐れぬ最強の軍団だ!」


 城壁を乗り越えた僕らを待っていたのは、空を飛ぶ老人だった。片方の目に眼鏡をつけて黒いローブに身を包んだこの老人こそ、王都研究所のトップなのだろう。


「お前は私の最高傑作だった。お前のおかげで生者に興味をなくし、死者に目線を向けた私の研究は直ぐに芽を出した」

「それがこの星の魔力入りの死体か」

「王に命を吸わせて空になった身体に星の魔力を注ぐだけで、あっという間に完成じゃ! ひっひっひ」


大袈裟に手を挙げて喜ぶ老人の目は、正気ではなかった。この人がみんなを苦しめた張本人!


「外道が……死で償え! ゼレン!」


 老人を引き寄せて巨剣を振りかぶったゼクトだったが、地上から飛んできた何かがゼクトとゲーティバルトの間に割り込んで、ゼクトを火魔法で攻撃した。


「な、なんだこいつは……!」


 火魔法を剣で弾いたゼクトの前には、身長は3メートルを越える怪物が現れた。筋肉質の太い腕が4本に加え、筋肉の鎧を纏ったその巨体は、何人もの人間を混ぜて作ったとすぐにわかるような異形の生物だった。


「ひっひっひ。わしの可愛い最強のジンテーゼ。シュテルンだ」

「え、シュテルンさん……?」

「ヴォオオオオオ!!」

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