[ 251 ] 兄と兄
「おいおい、恥ずかしいだろ」
「ぐすん。いままでどこにいたんだよ!」
ハリルベルが助けてくれた時、兄さんは牢屋にいなかった。その後、散々探しても誰も行方を知らず、まさかゼクトとして冒険者になっていたなんて……。
「ごめんな。捕まってすぐの事だ。重力と風のダブルは珍しかったから、俺は王都の研究所に売り飛ばされたんだ」
「そうだったんだ……」
「そこでいろんな実験をされたよ。まぁそのおかげで短期間で練度は上がったが、冒険者ギルドに潜入するスパイをさせられるようなった」
どうりで王都にギルドの情報が抜けていると……。ゼクトは、僕らがナッシュへ来ることを知っていたみたいだし。
「落ち着いたか?」
「うん……」
「ところでどこに向かっているの? ザイードは?」
「奴なら死んだよ」
ゼクト、いやリクロによると僕らがベルフィと闘ってる最中、回復が途切れたことでザイードが逃走を図ったけど、リシトを倒して復活したルヴィドさんが合流して、全員で倒したらしい。
「ベルフィには感謝しないとな」
「うん……」
馬車の中で眠るベルフィとハリルベルだが、僕が回復魔法の練度★8、リーべリーレンで命を分け与えたところ、初めて使った僕は、魔力も枯渇していたし初めての魔法で上手くコントロール出来ず、全ての命をベルフィへ注いで死にかけた。
それを今度はベルフィが、リーべリーレンで僕を助けてくれたらしい。
「ベルフィ……ありがとう」
「あとでちゃんと例を言うんだぞ」
「うん。ところでどこに向かってるの?」
「もちろん王都だ」
馬車の窓から見ると、前後にも数台の馬車が走っていた。恐らくアルノマールなど他の冒険者が乗っているのだろう。
「やはり王を倒しに?」
「無論だ。早く行かねば、王は王都の人間の命を全て吸い尽くして、とてつもない魔力を得てしまう。だが、それより俺の恐れているのは――」
「ふわぁああああ〜!」
リクロ兄さんが何か言いかけた時、ハリルベルが起きた。それに釣られてベルフィも目を覚ますと、ハリルベルが号泣しながらベルフィを抱きしめた。
「ベルフィ! よかったぁよかったぁ!生きてたんだなぁ!兄ちゃんずっと探してたんだぞ!うわぁあああん!」
「お兄ちゃん、ロイエさんたちが見てるから……」
恥ずかしそうにするベルフィと、お構いなしのハリルベルを堪能すると、改めて自己紹介と挨拶をすることになった。
「ハリルベルです。こっちは妹のベルフィ。回復術師として王都に売られてずっと探していたんだ。ゼクト、君には感謝してもしたりない。ありがとう」
「ゼクトは冒険者名だ。ロイエの兄リクロだ。すまない、護衛班は強く、俺1人の力ではどうにも出来ず従うふりをしていた」
「ゼクト、いやリクロ。ロイエの兄ってのは本当か? なんでロイエを探さなかった」
ハリルベルの顔つきが変わった。いつもの飄々とした雰囲気ではなく、怒気を孕んでいるのは明らかだった。
「ああ、そうだ。ロイエがどこにいて何をしているのかは、常に把握していたが、会えば俺の活動に支障が出るから会えなかっゴフッ!」
ハリルベルの拳が兄さんを殴り飛ばした。
「テメェの勝手で! 兄弟を! ロイエを心配させんじゃねぇよ! それでも兄貴か!」
「お兄ちゃん!やめてよ!」
「すまない、とは思っている……。俺だって、会いたかったさ。でも世界を救うのが先だ。それはロイエだって同じ気持ちのはずだ」
「兄さん……。ハリルベルいいんだ。会えないのは悲しかったし不安だったけど、そのおかげでハリルベルに助けて貰えたし、いろんな冒険が出来て成長出来たよ」
これは僕の本心だ。もしすぐに兄さんに助けてもらっていたら、今の僕の成長は無かっただろう。
「ロイエがいいなら……いいけどよ」
「ハリルベル、君がロイエの兄として側にいてくれたからこそ、俺は陰で動くことが出来た。礼を言う」
「ばっ、ロイエの兄気どりなんかしてねぇよ!」
「あ、お兄ちゃん赤くなってる。ふふ」
「ハリルベル、ありがとう」
こうして僕らを乗せた馬車は、王都へと向かった。
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