[ 250 ] きょうだいの絆

「ヴァルムヴァント!」

 

 炎の結界を展開したハリルベルだったが、氷の槍の貫通力は高く。炎の結界を貫きハリルベルの足に突き刺さった。


「くっ……!」

「ひゃーははは! ずいぶん弱い炎だな!」

「お兄ちゃん!ごめんなさいごめんなさい!」

「ベルフィ……待ってろ。すぐ助けてやるからな……」

「違うの! 私が護衛班に協力しないと、捕まってるみんなが殺されちゃうの!」


 人質をチラつかせてベルフィにいう事を聞かせていたのか。しかし王都の民はもう王によって命を吸われている可能性が高い……。


「ベルフィ。もういいんだ。あとはお兄ちゃんがなんとかするから」

「ならいまなんとかしてみろよ! アッシュグランランツェ・オルト・ヴェルト!」


 男の放った無数の氷の槍がハリルベルの目掛けて飛ぶ。しかし、ハリルベルは避けずに全身で受けながら進むと、ベルフィに寄生する男の顔を掴んだ。


「くそ! なんだテメェは!? なぜ死なねぇ!」

「ベルフィがいままで受けた心の傷を考えたら、この程度! 痛くもねぇ!」

「お、俺を殺せばこの女も死ぬぞ!」

「テメェはさっさと出てけ! ヴェルア・オルト・ナックル!」

「ぎゃぁあああああ!」


 掴んだ男の顔がヴェルアの炎で燃えていく。自分の後頭部が燃えているのだ、ベルフィもダメージを受けて辛そうな顔をしているが、回復魔法を使うとあの男も回復してしまう。


 ハリルベルは、ベルフィがダメージを受けてるのをわかって男の頭を焼いている。

 ベルフィも、ハリルベルが攻撃をやめないために声を出さずに耐えている。


「があああぁぁぁあ!クソが! 女!早く回復しろ!」


 信頼する二人が、同じ目的で心を一つにした。

 もう男の断末魔は2人には届かない。


「クソ……が、

 

 顔は焼け最後には口だけが残った男は、最後に一言だけ発すると灰となって崩れ落ちた。


「ベルフィ! くそ! ロイエ! ベルフィを!」


 傷を見ると損傷が激しい。

 ベルフィの後頭部は脳が露出し焼け爛れていた。

 この傷はクーアでは治せない。

 それに僕は魔力が枯渇している。

 どうすれば……。


「ロイエ! 早く!」


 そうだ! 新しく覚えた回復魔法、練度★8のリーべリーレンがある。アウスに聞いたところ、自分の命を他人に分け与え得る魔法らしい。これしかない。


「リーべリーレン!」


 ガクッと僕の中から何かが抜けていく、これが命が抜ける感覚なのか。命を代償とした魔法は倫理を捻じ曲げた回復を可能とした。


「ベルフィ……!」


 ベルフィの頭部は元々何もなかったの如く、元の状態に戻っていく。これが回復魔法練度★8のチカラ……。練度★9は逆に相手の命を奪うことも可能だと聞く。こんな事を他人に強要するのか……王は!


 すると、僕の中にベルフィの記憶が流れてきた。研究室で行われた数々の実験、殺されていく仲間たち。ベルフィが受けた数々の苦痛が僕の中に溢れると、僕の意思は薄れていった。


 ダメだ僕の命が尽きる……。


「ロイエ?!」

「べ、ベルフィ! なにを!」


 ……名前を呼ぶ声が聞こえる。目が開かない。何も聞こえなくなり、意識は完全にブラックアウトした。





――ガタゴトガタゴト


 僕は、馬車の揺れる音で目を覚ました。


「うぅ、ここは……?」


 視線を泳がせると馬車の中で身体が浮いていた。重力魔法? 誰が……? いや一人しかいない。


「気が付いたか」


 顔を上げると、座席にはどこか懐かしい顔の男性と、寝ているハリルベルとベルフィが乗っていた。


 重力魔法を使えるのはこの辺でゼクトしかいない。

 それに戦ってる最中に聞いたあの声と、いま聞こえた声は同じだった。つまり……。


「ゼクト? いや、リクロ兄さん……」

「大きくなったなロイエ」


 にこっと微笑んだ顔は、昔一緒に遊んだ時の兄そのものだった。ゼクトこそ、一緒に山賊に捕まって行方不明になっていた兄、リクロだった。


「兄さん!! うわぁあああああ!」

「はは、泣き虫は変わってないな」


 僕は思いっきり泣いた。

 やっと会えた兄の胸でハリルベルやベルフィがいるのも気にせず、チカラいっぱい兄を抱きしめた。

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