[ 253 ] 騎士団合流

「これが……シュテルンさん?」

「知り合いか? 実験体の女を解放する代わりに、星の魔力を持ったきてくれたんだが。なかなかに練度も高いし、材料になったもらったよ。ひっひっひっ」

「くっ! シュテルンさんをよくも……!」


「その女性は解放して、どうした」


 ハリルベルが怒気を強めて、ゲーティバルトを問い詰めた。シュテルンさんが救おうとしていた女性……。まさかエルツのお母さん……?


「んー? まぁ約束じゃしな。解放して街に放ったがそのあとは知らんな。わしのジンテーゼちゃん達に殺されてるかもしれんなぁ。ひっひっひ」

「絶対許さねぇ……。ゼクト、ロイエ。ここは俺が止める。先に行け」

「え、ハリルベル平気なの?」

「当たり前だろ」

「無茶はするな。どうやらあのデカブツは俺と戦いたいらしい。ロイエ、お前は騎士団のメンバーを探せ」


 ゲーティバルトの狙いは自身が育成した最強のゼクトと死者を集めて作った最強のシュテルンを戦わせることか。

 ゲーティバルトはハリルベルとシルフィに任せよう。


「わかった! ハリルベル無茶はするなよ! 行くよピヨ!」

「ピヨ!」


 僕は3人を残して、船着場へと飛んだ。やはり追ってくる気配はない。背後への警戒を弱めて王都へ視線を向けると、街中あちこちにジンテーゼが溢れている。


 噛まれても大丈夫だけど、元人間とわかっておきながら、痛めつけるのは心苦しい。


「ロイエ、あれは何ピヨ?」

「ん?」


 ピヨが羽を指した方向には、巨大な岩が出来上がっていた。恐らくアウスが籠城するために作ったのだろう。周りにはジンテーゼが群がっている。


「上に誰かいるピヨ!」


 よく見えるな……。目を凝らすと確かに誰かいる。女の人かな?リュカさんだ。風魔法使いの彼女なら、岩の上まで飛び乗るのは容易い。


「ロイエくーーん! こっちこっち!」


 リュカさんが登っていた岩の上に降り立つと、中心には穴が空いていて、中に入れるようになっていた。


「大丈夫ですか?」

「なんとかね。とりあえず君たちが来るまで隠れてたんだけど」

「ゲーティバルトがきませんでした? でかい怪物を連れて……」

「いえ来てないわ」


 なら怪物シュテルンは、いまさっき完成したばかりだったのかな? とにかく無事ならよかった。


「冒険者のみんなはどう?」

「無事です。ハリルベルの妹も救出して、ゼクトも仲間に加わっています」

「そう、心強いわね。なら私たちも打って出るわ。下に降りましょう」


 穴の中に飛び降りたリュカさんに続いて、穴の中に入ると思ったより狭い。どうやら外からジンテーゼが岩を破壊してるため、分厚くしているようだ。


「ロイエ、よく来てくれた。状況はどうだ?」


 真っ先に僕へ声をかけてくれたのはアウスだった。


「遅くなってすみません」


「いや、本来なら先に到着して市民の安全を確保して、戦いやすい環境を整えるのが私達の役割だったがすまない。到着した時には既に手遅れだった……」


「そうですか……。市長は大門で戦闘、ゼクトとハリルベル、シルフィが王都上空でジンテーゼの合成生物と戦っています」


「よし、我々も行こう」


 穴の中に待機していた騎士団の面々は、土魔法を駆使して穴の中に螺旋階段を生成、岩から梯子をかけて直接城に乗り込む算段らしい。


「ロイエさん! ああよかった!」


 ぎゅっと豊満な胸で抱きついてきたロゼを抱きしめると、疲労とストレスなのかいつもより軽く感じた。


「大丈夫だった? ええ、ですが住民が……」

「うん、絶対に王を倒そう」

「はい!」

 

 僕とロゼが手を取り合っていると、ロゼの後ろから女性の声がした。


「あなたがロイエ君?」

「え?」

「はい、そうですけど……」


 ピンク色の髪をした女性が声をかけてきた。年齢として40代前半だろうか。


「あ、ロイエさん。彼女はエルツさんのお母さんです」

「無事だったんですか?!」

「ええ、逃げるためにずっと港に隠れてたところを、彼らに救われて……」

「よかった……。これでエルツに良い報告ができます」


 デザントのフィクスブルートから魔力を抜いた行為は許されないけど、シュテルンさんが頑張った甲斐があってよかった……。


「何名かの土魔法使いを置いていくので、冒険者のロゼ殿とリュカ殿はここで待機を頼みます」

「わかりました」

「はい」


 アウスが的確に指示を出すと螺旋階段を登り始めたので、僕を彼に付いて登り始めた。ピヨの魔力も酷使を続けているため、できるだけ残しておこう。ここでは何が起こるかわからない。

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