[ 254 ] 王のため

 螺旋階段を登り、岩の上に出るとアウスがリッターガルド城へ橋を掛けてくれた。


「行くぞ! 目指すは玉座!!」


 おおおおーーー!


 騎士団の面々は、次々にリッターガルド城へ乗り込んでいく。眼下ではジンテーゼが群がっているが、あまり頭は良くないらしい。


「ロイエ。お前は私と共にこい!」

「はい!」


 アウスとその他10数名の騎士団と共に、城の内部に潜入するとここもジンテーゼがうろついていた。装いを見るからに貴族や護衛騎士などの類だろう。


「これ全て王に喰われたってことですよね……」

「そうだ。その後に人体実験に使われて操られているのだろう。もう元には戻せん。手加減は無用だ」

「はい……」


 僕の回復魔法でもこれは元に戻せない。それはシュテルンさんも同じだ。あんな姿にされるなんて……。


「ロイエ! 玉座に向かう! ついてこい!」


 ある程度のジンテーゼは優秀な騎士団が倒してくれるため、僕とピヨは魔力を使うことなく内部へとどんどん進める。総力戦においては人数が有利ということを痛感した。


「あの、この城ごと破壊するのはどうですか?」

「無理だ。王が玉座にいるとも限らぬし、そろそろこの城は魔法軽減の石が至る所に使われている」

「そうなんですか……」


 城ごと破壊してしまう案は無理か。


 バァン!


 本殿と思わしき巨大なドアをアウス他数名が破壊すると、玉座の間に見知った人が座っていた。


 確か……


「リューゲ。貴様そこで何をしている。お前には先行して王都に潜入する任務を与えたはずだが?」

「わかってるくせに無駄な質問をするんですね? 団長は」


 副団長リューゲ。フォレストで一緒に今後について会議をした人だ。やはり王と繋がっていたのか。


「お前がそこに座ってるということは、裏切りと解釈して良いんだな?」

「おかしなことをいう、王国騎士団の団長でありながら、王に刃を向けている裏切り者はあなたでしょう?アウス団長」

「……俺は容赦せんぞ」

「ご自由に」


 その言葉を受けて、アウスが腰の剣を抜きリューゲに斬りかかった。よく見ると無詠唱のザントシルドを足裏に出して、自身を急加速させている。


「覚悟ッ!」

「甘いんだよねぇ……いつもあなたは。ツァイト」


 リューゲが風魔法の空間の空気を一瞬だけ固定化させる魔法を唱えると、空中でアウスが固まった。


「土は風に弱い。騎士団の入団試験でも出るレベルですよ?」


 リューゲは腰の剣を目にも止まらぬ速さで抜くと、アウスの首へ剣を振った。


「ゼレン!」

「ちっ!」


 ゼレンでアウスを引っ張ると、リューゲの剣は空を切った。空気が固まろうが重力魔法の方が強い。


「そういえば君は重力魔法を使うんだったね」

「リューゲさん、なぜ王に加担するんですか!?」

「なぜ? 騎士団が王に忠誠を誓うのがそんなにおかしなことかい?」

「あなたは、この街の有り様を見て何も思わないのですか?!」

「うるさいな。やはり馬鹿正直に相手する必要ないか……。ラーゼライトロンベ」


 風魔法、練度★8の巨大竜巻が突如部屋の中で発生すると、玉座の間の天井を破壊。部屋の中は立っていられないほどの暴風に見舞われた。


「くっ」

「リューゲ、なにを……!」

「お前らの相手はこれで十分だろう。行け!」


 壊れた天井からは大量のジンテーゼが降ってきた。その数にして40弱。それらが竜巻に乗って襲いかかってきた。


「騎士団! なるべく固まって確実に迎撃しろ!」

「「はい!」」


 ――それからものの10分も立たぬうちに、騎士団は全てのジンテーゼを倒した。アウス以外はあまり強くないのかと思っていたが、全員がハリルベル程度の強さを持っている。


「クソの役にもたたねぇな、だが王の元へは行かせん」

「リューゲ、なぜそうまでして王に……」

「俺はな、王の息子なんだ。と言ってもたくさんいるうちの1人でしかなかったがな。故にあいつがどんな奴であれ、俺は王を裏切らん」


 覚悟の瞳でリューゲはアウスへ斬りかかってきた。火花を散らしながら剣戟が続くが、剣の腕はアウスへの方が確実に強い。次第に押されるリューゲはついに剣を弾かれて尻餅をついた。


「もう諦めろ。この国は一度終わる。王を倒し再生すべきだ」

「言っただろ。俺はこの国が全て、王が全て。フリューネル!」


 それだけ言い残すと、リューゲは穴の空いた天井へ飛んで逃げてしまった。


「お前らまだ戦えるか? リューゲを追う、あの先に王がいるはずだ」

「はい!」


 アウスは何度もリューゲを殺せる場面があったのに、そうしなかった。それは長年団長、副団長としてコンビを組んできたから手が迷ったのだろう。


 僕らはリューゲの後を追った。

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