[ 255 ] 王?
僕らはリューゲを追って城の上部へ登ると、豪華な大広間に出た。リューゲの姿が見当たらないのはもとより、騎士団や使用人の姿まで無く異常な静けさだった。
「アウスさん、城に誰もいないなんてあります?」
「城門は閉まっていたな。外に出ていないはずだが」
「なら王の糧にされた可能性が高いですね」
「ああ……」
アウスは顔を顰めながら、剣を片手に慎重に部屋の内部をら進む。それに続く騎士たちも周囲を警戒しているが、やはり何かおかしい。あちらこちらから魔力の反応は感じるのに……。
パチパチパチパチ
広間の中央へ来た辺りで、静寂とは相反する拍手の音が僕らの背後から聞こえた。
「誰だ!」
騎士団の人が振り返り声を荒らげるが、拍手の人物は拍手をやめない。騎士団の隙間から見えたその人物は、茶色い髪と鋭い目つき。赤いマントを羽織り、金細工された豪華な装いに頭には王冠……。
「リッターガルド王……」
アウスが絞り出すように声を出すと、リッターガルド王は拍手をやめた。
「アウス。君は忠実な私の配下だと思っていたのだがな……。残念だよ」
「黙れ! 貴様らがやってきた数々の悪事を知っていたら、俺は騎士団など入らなかった!」
騎士団達が左右に分かれると、アウスが王の前に出た。
「自らの命を延命するため、回復術師を始め数多の命を糧として扱った貴様の愚行。万死に値する」
アウスが王に剣を突きつけると、それに倣って騎士団も王に剣を向けるが 王は危機感がないのか、ふふっと笑うとアウスに問いかけるように手のひらを向けた。
「アウスよ。最高の国とはなんだと思う?」
「なに?」
「争いのない国、平和な国。私が目指したのはそれだよ」
リッターガルド王の言葉にアウスは耳を傾けてしまった。騎士団という立場そうさせた。上位者の話を聞くことが染み付いているからだろう。
「では、平和とは何か。外敵からの攻撃を全て防ぎ、民に安全を提供する。その代わり民は我らに労働を献上する。それが国というものだ」
「何が言いたい」
アウスが剣を握る。彼も気付いたのだろう、王の話術にハマりそうになっていると。
「王が死ぬと民には混乱が起きる。安全も低下する。しかもそれを民は回避できないし、どうすることもできない。安定とは程遠いだろう。ならば、我が死ななければ良い話だ」
極論すぎる……。例え王が亡くなったところで、次代に繋ぐ者を育てるのが王の役割だ。自らが死なないために民を餌にするなど、間違っている。
「その民が、あのありさまだが?」
「私は寛大なのだよ。王が不死となろうとも民が滅んでは意味がないであろう? 我は不死の力の一端を民に分け与えたのだ」
無茶苦茶だ。こんな奴の話を聞いた自分がバカみたいだ。その考えはアウスも同様だったらしい。
「リーゼファウスアルム!」
床から岩の腕が生えると、その岩掌はリッターガルド王を掴んだ。
「消えろ。空虚な王よ。あの世で民に詫びるが良い!」
アウスが岩の腕を操作すると、ぐしゃ!と王は潰れた。それは異様な光景だった。握りつぶされた王は泥になり飛び散った……。
「なんだと?!」
「これはいったい……」
泥? 分身魔法なら元が水のはずだ。予想外の展開にアウスも何が起こったかわからず固まると、さらに僕らの右側の通路から拍手が聞こえてきた。
パチパチパチパチ
「さすがアウス。容赦ないな」
「バカな……」
背後からリッターガルド王が、先ほどと全く同じ装いで現れた。やはり何かしらの分身魔法か……。本体はどこに……。
僕らが前方の王に気を取られているうちに、今度は右からまた王の声が聞こえてきた。
「自分の常識でモノを考えぬ事だな」
思わず視線を向けると、そっちにも王が。3人の王に囲まれた僕らだったが、騎士団の面々が四方へ走り王を倒した。
「やったか?!」
「まだだ油断するな!」
「「私は理想の国を作ったのだ。なぜ邪魔をする」」
「「そうだ。お前らも住まわせてやろう」」
「「この国の国民として」」
驚いたことに、あちこちの通路から次々と王が現れる。その数は数えられるだけでも20人を超えた。
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