[ 256 ] 戦いの果てに

「総員! 一度引くぞ!」

「……はい!」


 20人を超える傀儡の王を相手にがむしゃらに突っ込むのかと思ったけど、そこは団長らしく戦況を見極めていた。

 アウスでもダメージを与えられてない王を相手に、これ以上魔力を使っても勝ち目はないと判断したのだろう。


「フェルスアウトファーラー・オルト・ヴェルト!」


 土魔法の練度★4、クルトさんが砂の兵士を作っていた魔法だ。周囲の砂や土を自在に操り城壁に巨大な穴を開け逃げようとしたが……。


「「退出は認めておらぬ」」


 複数の王が同時に喋ると、一瞬で空いた穴は塞がってしまった。


「「お前たちはここにいれば良い。もうすぐだ。もうすぐ全てが手に入るのだ。最後の国民として見届けよ」」


「どういう意味だ」


 王はさっきから攻撃してくる気配がない。まるでこの状況を望んでいるかのような……。


「「そうだな。教えてやろう――。私の長年望んだ不死を手に入れたが、それは完璧な不死ではなかったのだ。怪我をしたら回復? 失った腕が生える? それでは脳がやられたら死んでしまうではないか」」


 やはりもう数日前に回復魔法★練度9を習得したと聞いたのに、動きがなさすぎると思ったら……。王は不死で満足していなかった。


「「そこで私は一つの結論に至った。私の目指していた不死は人間という形の中では不可能だと」」


 完全な存在。それが王の求めていた答えだったのか。


「「私はその答えを見つけた。私はこの星と一体となる。この星と同化すれば死などとは無縁。そう思わんかね?」」


 意味がわからない。王は何をしようとしているんだ?! このままここにいてはまずい気がする……。それはアウスも同じだったようだ。


 この城のどこかにいる王の本体を倒さないと、取り返しのつかないことになる。その思いで剣を握った時だった。


「ラーゼライトロンベ!」


 先ほど修復されてしまった城壁の向こうから、ゼクトの声と共に風の暴風が壁を壊し大穴をあけた。


「兄さん!」

「ロイエ! 時間がない! 庭園へいくぞ! そこに王はいる!」

「「行かせるか!!」」


 王の放った無数の炎の槍がゼクトに向かってる放たれたが、それをアウスが土魔法で妨害した。


「いけ! ゼクト! ロイエ! ここは我らに任せろ!」

「ピヨ行くよ!」

「おっけーピヨ!」


 ゼクトの出した風に乗って城の上空へ舞い上がると、城の隅に中庭よりもっと小さな空間を見つけた。そのあるブヨブヨの肉塊とフィクスブルートも。


「あれが……王?!」


「そうだ。あれを作った張本人から聞いたから間違いない。潰すぞ!」


 ブヨブヨした肉の塊からは、手足のように肉が城の至る所へ伸びている。壁の中や床の中を這われせることで、城の中に自在に自身の分身を出したのか。


 こうして見ている間にもフィクスブルートが輝き出した。恐らく王がいうように星との同化を進めているのだろう。今ならまだ間に合うかもしれない。


「行くぞロイエ! ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ・オルト・ヴェルト!」


「うん! ジオグランツ・ツヴァイ・オルト・ヴェルト!」


 二人掛けの超重力魔法。肉塊に巨大な穴が空いたが、ジュルジュルと肉が盛り上がると一瞬で再生してしまった。


「ちっ! やはり不死身か! ならばこの城ごと破壊するまでだ! ロイエ、範囲を広げるぞ!」


 その時だった。


 ゴゴゴゴゴゴと、とてつもない地鳴りと共に王の聞こえてきた。


『フハハハ! 手遅れだったな。たったいま私はこの星と同化した。この星そのものが私だ!』


 見ると肉塊がフィクスブルートに覆い被さり、飲み込んでいる。


『このようにな!』


 王の掛け声ひとつで、地中から巨大な石の腕がいくつも現れた。そのサイズは人間が使役できる許容を大幅に超えるサイズだった。


 なんてことだ。手遅れだ。もう王を倒す術はない。


 王を倒すというのはこの星を破壊することと同義だ。


 そんなことできるはずもない……。


 この星の生物は、王の支配元生きていくしかないのか。


 でも、そんな世界いやだ! 絶対に諦めたくない!


 その思いはゼクトも同じだった。


「……お前如きが星全てを支配下に置いたとは考えられん。今なら間に合うはずだ。覚悟するのお前だ……王! シュヴァルツェスグランツ!」


 使ったら最後、術者すら飲み込むブラックホールを出現させると、ゼクトを中心にあたりの物体を次々に吸い込んでいく。


『やめろ! その魔法を止めろ!』


「ロイエ!」


 あちこちから様々な魔法が飛んでくるが、僕がとっさに発動させたフリーデルシルドでダメージを軽減。

 さらにグローリアヴァイトとの併用でダメージを継続して回復。ゼクトのブラックホールを止める手段が王にはなくなった。


 城中に張り巡らされた王の肉体が、次々とブラックホールに飲まれていく。どうやら王もわかっているらしい。仮に王がブラックホールを出したとしても、それは自分をも巻き込んでしまうと。


『やめろ! 私の夢が!』


「星との同化がそんな簡単にできるわけもない。お前にできるのはこの辺一体の土地と同化したにすぎん。この星の未来のためだ。俺たちと消えてもらおう! ロイエ!」


 ゼクトの魔法だけでは範囲が狭い。

 僕も重ね掛けすることでさらに強力な魔法へと昇華させる。


「シュヴァルツェスグランツ!」


 僕もブラックホール魔法を発動させると、ゼクトと僕のブラックホールが互いの力を強め合い、さらに巨大なブラックホールとなり、城はおろか城下町すら飲み込む勢いで膨れていく。


 ロゼやアウス、みんなが逃げてると信じて僕は限界まで魔力を注いでいく。


『やめろ! 貴様らも死ぬぞ!』


「お前を倒せるなら本望だ!」


 周囲はブラックホールに飲み込まれ、城壁が飲み込まれると通ってきた大桟橋までもが見えた。そこには既に馬車の姿がないことに安堵すると、僕は兄へ視線を送る。


「僕も最後まで付き合うよ。兄さん」


「いや。ロイエ、もうこのブラックホールはお前の制御を受付ないほど大きくなっている。あとは俺に任せろ」


「え? 何を言って――」


「お前は新しい時代を作ってくれ! ヴィベルスルフト・オルト!」


「兄さん!」


 僕の身体が上空に弾き飛ばされるのと同時に、ゼクトのいた場所までもがブラックホールの闇に飲まれてしまった。


 その後、一瞬だけさらに膨れ上がると、リッターガルド城はおろか城下町を含む周辺の大陸までもが王と共に飲み込まれ、消えてしまった。



――後日


「ロイエ、準備出来たか?」


「うん、ハリルベル」


 王城がゼクトと共に消えてから数日。生き残った僕らはヘクセライからナッシュへ船で出発するところだった。


 僕らの乗ってきた船はボロボロになってしまったので、カノーネの計らいで新しい船をもらった。

 リッターガルドの城下町を含む城が無くなったことで、当面の間はヘクセライがこの大陸の管理者として動く事になった。


 それにはもちろん各街のギルドを賛同しており、カノーネはやっとヘクセライの時代がやってきたと、終始ニコニコしており大体のお願いは叶えてくれた。


「出航だーー!」


 ボーー!と大きな汽笛の音が鳴り響くと、船は出航した。


 アルノマール市長は、国王になれなかったことへの不満からか、ヘクセライに残りあれこれと口を出すと言って残った。

 アルノマール市長が国王になったら、とんでもないスパルタな国になってしまう。


 かと言ってナッシュの元マスターのアテルは歳を取りすぎているし、他の街のギルドマスターもみんなそれぞれの街の管理があるからすぐには動けず、日かか的暇なへクセライのカノーネが妥当だという話に落ち着いた。


「ロイエさん、ナッシュに戻ったら何をするんですか?」


 出航した甲板の上で、ロゼが僕の腕をギュッと掴んだ。


「骨すら見つからなかったけど、墓を作って兄の仮面を供えるよ」


「あの、それでロイエさん、えっと――」


 ロゼが何か言いたそうに、顔を赤めもじもじしているのを見て僕は気付いた。


「ああ、そうだね。ロゼとの結婚式をしなきゃね。それとこの国に病院を増やしたいから、ナルリッチさんに相談しようかな。ハリルベルは?」


「俺はまたキーゼルの親方のところかな。エルツのお母さんも見つかったし。いい報告が出来そうだ」


「ちょっとハリー、私たちも結婚式するのを忘れないでよ」


「そ、そうだね」


  ハリルベルはシルフィにたじたじだけど、少しズボラなところがあるから、尻に敷かれていた方が良いかもしれない。


 本当に色々あった。


 きっと全員が全員、自分の信念のために守りたいもののために戦った。だから、誰が悪いわけでもないけど、犠牲もたくさん出てしまった。それだけが心残りだ。、


「ロイエさん、もう少しヘクセライにいなくてよかったんですか?」


「うん……。父と母は見つからなかったけど、こうしてこの国を救うことが出来たし、まだ僕らの助けを待ってくれている人がいるかもしれないから」



――それから数ヶ月後


 国の再建は思ったよりスムーズに行ったらしい。納税先がヘクセライに変わっただけだし、その他の街も独立して動いていたことから、ほとんど影響がなかった。


 そう思うと改めて王がやってきたことは税の搾取くらいしかなかったんだなと思う。街の警備は冒険者がやっていたし、納税率も下がって国民としては嬉しい限りだった。


僕もナッシュに大きな病院を建てることが出来た。廃業したホテルをナルリッチさんが買い取って改修したので、思ったよりも費用が掛からずすぐに稼働出来たのも大きい。


 王が亡くなったことで、隠れ潜んでいた回復術師も外に出れるようになり、僕の病院で働いてもらったり、各街のギルドに救護班として常駐してもらい、市民や冒険者の安全度は遥かに増した。


「ロイエ先生。こちらの患者さんなのですが……」


「これは回復魔法では直せないね。オペの準備をしておいて」


 回復魔法やポーションがある世界でも、僕の医療知識は役に立った。腫瘍など回復魔法では直せない病気もあることから医療技術の向上は急務だ。


 それと各地のフィクスブルートが蘇った。ブラックホール魔法で吸い込んだモノがどこに行くのかと思っていたが、どうやら星のエネルギーとして救出されていたらしく。たっぷりと星の魔力を吸った王を吸い込んだおかげで、フィクスブルートが活性化した。


 各地ではそれに伴って、いろんな踊りや儀式が再熱しているらしい。


 家族は救えなかったけど、僕は前世でできなかったことを今世でやり切りたいと思う。一人でも多くの人を救いたい。それは前も今も変わらない。

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求:回復術師 〜絶対見捨てない為に、僕が今できる事〜 まめつぶいちご @mametubu_ichigo

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