[ 133 ] グイーダの解説
「ロイエさんは、お昼はまだですか?」
「はい」
「なら、軽くお昼を食べながら、この街の成り立ちについて説明しましょうか」
「わかりました」
グイーダさんについていくと、噴水広場の近くにある一軒の古びた喫茶店に入った。お世辞にも綺麗とは言えないし、客も老人ばかりだ。店内の照明も暗い。
「あの、この店は?」
「ふふ、オンボロで驚いたでしょう? 私のお気に入りなんです」
「え? ええ、いい店ですね」
「実はこのお店、デザント最古のお店でして、デザントの民と認められるには、まずここからと言われるほどです」
シュテルンさんは、そんな事これっぽっちも言ってなかったな……。あんまり歴史には興味ないのかな。
「グイーダちゃん、そっちの坊主は?」
「こちらは冒険者のロイエさんです。訳あってしばらく滞在するそうです。ロイエさん、こちらは店長のジャックさんです」
「は、初めまして! よろしくお願いします!」
「ははっ、よろしくな坊主。この街は気に入ったかい?」
「はい、武器屋もたくさんあってワクワクします」
「……テメェ。いまなんつった」
何かまずい事を言ったのか、店長の顔がヒクついてる。
「ごめんなさい、店長さん。彼にはまだ街の説明をしてなくて……」
「ああ、そういう事か……なら仕方ねぇ。坊主、グイーダちゃんから説明きいたらもう一度この店に来い。わかったな」
「は、はひ……」
どこにNGワードがあったんだ?! 武器屋くらいしか言ってないけど?! ガン!と乱暴に水を置かれると店長はカウンターへと戻っていった。
「ごめんなさいロイエさん、わたしが先に説明しておくべきでした」
「え? いえ、僕も何が何だか……」
「武器屋はNGワードなんです……。店長が怒っていた理由は後で順を追って説明しますね。まずは街の成り立ちから話しましょうか」
「お、お任せします」
店長ではなく、ウェイトレスがサンドイッチや飲み物を持ってきてくれた。なお、お金はないのでここはグイーダさんの奢りとなっている。情けない話だが、無い袖は振れない。
「オホン、えっとですね。この砂漠都市デザントは、元々遊牧民が使った小さな集落だったんです」
「そうなんですか」
「はい、彼らは安定した生活を求めて,この地に辿り着きました。そこで、まずは水の確保のために噴水を作り、そこに水魔法で水を貯めることで徐々に発展していき、集落から村へ、村から街へと大きくなりました」
「なるほど……。それが今も受け継がれているんですね。あれ? でも、その水の確保を、なぜグイーダさんがというか、ギルドがやることに?」
「だんだんと前回は誰がやったやってない問題になりましてね。何百年も前に中立であるギルドが間に入って、代わりにやることになったそうです」
それでギルドがあんなに立地の良い場所に立っているのか。ナッシュは酷い扱いだったし、フォレストでさえ最高とは言えない立地だ。
「私の魔法がもう少し練度が上がって、ヴェルトを覚えれば楽になるんですけどねぇ……なかなか」
「あの噴水を満たすのは大変そうですね」
「ええ、あの噴水からみんなの家や店に水路が繋がっていますから、見た目より多くの水が必要でして、大切な仕事なんです」
「この街のヒーローですね」
「ふふ、そうかもですね」
早めの昼食を食べ終わると、睨みつけてくる店長の視線に押されながら慌ただしく店を後にした。味はすごく美味しかったんだけどなぁ。
「さて、この街の大まかな地理ですが、北部には港があり先ほど定期船がアクアリウムに向けて出航しました。そして西側は居住地。噴水広場を挟んで東側は武器屋がたくさんあります」
「そうですね。シュテルンさんに武器屋のある東側は案内してもらいました」
「では、先ほどの件もあるので、西側から案内しましょうか」
「はい、お願いします」
噴水広場から西へ向かうと、住民街というわりにはチラホラと店が多い。東側では見なかった道具屋や飲食店もあるし、東側より生活寄りな気がする。
「あれ? 結構……お店が多いですね?」
「ふふ。実はこの西側が元々デザントの街なんです」
「え? どういうことですか?」
「元々は西側の居住地と噴水、これだけが街の全てだったのですが、良質の鉱石が出るという事で各地から集まった鍛冶屋のために増設したのが、東側になります」
「なるほど……。それで西側にも飲食店やら色々あるんですね」
「ええ、こちらの方が歴史が長いのです。もちろん住人の数も段違いなので、住民街と呼ばれていますが、こちらが本来の街です」
「もしかして、さっき店長が怒ったのって……。」
「そうです。東側はデザントにあらずというのが店長の主張です……。いるんですよ。古い保守派の中には東側は外から来た奴らが、勝手に作った区域だと主張する方々が……」
まぁ確かに話を聞く限り、ナンバーワン武器屋と言われた店のオーナーを思い出してもわかる。東側は完全に部外者が作った街だ。日本でいうところのチャイナタウンみたいなモノか。
「お互い手を取り合って、新しいデザントを見つけられると良いですね」
「そうなんです! まさにそれです! 東側の方達も良い方ばかりなのですが、反りが合わないようで……」
「じゃあ、デザントの市長は間に挟まれてる感じですか?」
「ええ、街としては西側を大事にしたいのですが、税収の面では圧倒的に東側の方が多いので、市長も強く言えず……」
苦労してそうだな……。どの世界も上に立つ者が一番大変なのだ。前世の病院でも、院長は胃潰瘍で何度手術した事か……。
「もう少し、西側と東側の詳しい話を聞かせてください」
「はいっ。では歩きながら説明しますね」
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