[ 134 ] 砂漠都市デザントー西側

「あれが市役所です。現在の市長はフォルク・オックパートという男性の方で、この街を作った民族の長の子孫に当たる方です」

「はい……フォルク・オックパートさんは子孫……と」


 オックパート? オックパート……。どこかで聞いたことがあるような。無いような……。


「これは絶対出題されるので、覚えてくださいね?」

「は、はい!」


グイーダさんから、店長に会った時にテストを出されるので、しっかり覚えてくださいと怖い事を言われて、必死に街の事を覚えてる最中だ。


「市役所以外にも、西側には街の主要機関がいくつもあります」


 グイーダさんの説明によると、住宅街には市役所を始め、東側には無い図書館に道具屋、骨董品屋など住宅街とは思えないような様々な店が存在していた。


「なにか伝統の食べ物とかありますか?」

「いい質問ですね。デザントの民は昔から砂肉がご馳走です。それと湿地帯で取れる湿地リンゴも有名ですね」

「あの、どうして砂漠の隣に湿地帯があるんでしょうか?」

「それは諸説あるのですが、アインザーム火山が噴火した時の火山灰と岩がやたら水分の吸収が良く、それが現在の湿地帯の原型だと言われています」

「なるほど……」


 確かに火山灰は水を含みやすい性質があるな。水捌けが悪い原因はそれか。


「そしてデザントの砂は元々水捌けがよかったので、このような地形になっているとの話です」

「ありがとうございます」


 これもテストに出るかもしれない。


「あの……あれは、なんですか?」

「あれは砂の剣です」

「砂の剣?」


 住宅街の真ん中に、ポツンと突き刺さる剣。確かに看板には砂の剣と書かれている。


「その昔、巨大なモンスターに襲われたことがあったようで、その時にモンスターを倒してくれた冒険者が村の守りにと置いて行った剣だそうです」

「へぇ……」

「西側の住民の方は、この剣がこの街を守っていると信じていますので、粗末に扱うと大変な目に遭うかもしれません」

「気をつけます……ちなみに、その冒険者の名前とかはわからないんですか? テストに出そうで……」

「ふふ、大丈夫です。名前は言い伝えられていないのです」

「よかったぁ」


 砂の剣っていうくらいだから、土魔法の使い手だったのかな。剣は結構大きくてガンツさんが持つなら丁度良いくらいだろうか。


「さて、市長に挨拶していきましょうか」

「え、そんな気軽に会える人なんですか?」

「この街のギルドの貢献度は高いですからね。ギルドのマスターは市長と同等の発言権を持っていますよ」

「そんなに優遇されてるんですね」


 グイーダさんに連れられて入った市役所は、レンガで出来た平屋でフォレストより親しみがある。


「こんにちは。キャロル」

「あ、グイーダさんこんにちは」

「市長いる?」

「すみません、今日は船の出航なので港で執務にあたっています」

「あ、そうでした。忘れてました。行ってみます」

「はーい」


 ひらひらとお互いに手を振ると、足早に市役所を後にした。そうか。月に一度の船の出航なら街としては重要な日だ。


「ごめんなさい。忘れてました。ついでだし港に行ってみましょうか」

「はい」


 住民街を北上して、噴水の北側にある港へと向かった。しかし砂漠都市なのに、東側には湿地帯。北側には港にってあまり砂漠感が無いな……。


「あのぉ、砂漠なのに港があるんですね」

「そうよ?何か変かしら?」

「いえ……」


 そうか。高校の修学旅行で行ったけど、鳥取砂丘もすぐ近くに日本海があったな。同じようなものか……。


 港に近づくと活気のある声が聞こえてきた。


「ジオグランツ!」

「それはこっちだ!」

「……はい!」


 聞き慣れた魔法の詠唱が聞こえてきて、思わず駆け寄ってしまった。


「わぁ、重力魔法だ!」

「そうです。港では他の街から運んできた荷物を大量に下ろすから、ここでは重力魔法が重宝されているの」


 ここでバイト出来ないかな? 魔法の練度上げとお金稼ぎが一緒に出来るぞ。


「あ! 市長ー!」

「ん? おぉ、グイーダか。どうした」


 既に船は出航した後で、船員などが港の整理で忙しそうだった。特に先ほどの重力魔法でコンテナを運んでる男の子が気になって仕方ない。


「こちら冒険者のロイエさんです。この街にしばらく滞在する事になったので、街を案内していました」

「そうか。よろしくロイエ君。私はこの街の市長をやっているフォルク・オックパートだ」


 市長フォルクは、がっしりとした体格にパリッとしたスーツを着こなしたジェルトルメンだった。オールバックの髪型とアゴヒゲ、四角い顔がガンツさんを連想させる。


「よろしくお願いします。冒険者のロイエです。ナッシュから来ました。一ヶ月ほどこちらの街に滞在する予定です」

「なぬ? ナッシュだと?」

「ロイエさんって、ナッシュからだったんですか?!」


 あ、間違えた。正確にはフォレストからか?


「グロースは元気か?」

「グロース?」


 え,誰だろう……。ナッシュにそんな名前の人いたかな……? グロース? 骨董品屋の主人の名前とかだろうか。


「ナッシュの市長の名前ですよ。ロイエさん」

「あ、あー?」


 確かリンドブルムが襲撃してきた時のアナウンスで、そんな名前が流れてたような気もする……。


「市長はナッシュの市長の兄弟なんですよ」

「え?! そうなんですか?!」

「ああ、グロース・オックパートは俺の弟だ」


 へぇ、こんなところでナッシュとの繋がりがあるなんて、少し嬉しいな……。


「僕は直接会ったことないのですが、一度だけ声を聞いた時はハッキリと強い声の方でしたよ」

「ほぉ? あの弱虫グロースがねぇ」


 やはり兄弟共なると、いろいろ昔のあれこれがあるのだろう。弟さんのことを思い出して、市長はどこか嬉しそうな顔をしている。

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