[ 135 ] 砂漠都市デザント-港

「市長、次の予定が……」


 市長の陰に隠れていた秘書がヒョコッと顔を出すと、間に割って入ってきた。オレンジ色の髪の毛を頭の上で結んだ、気の強そうな顔の女性だった。


「お? もうそんな時間か……。ロイエ君、せっかくの機会だ。ゆっくりしていってくれ」

「はい」


 市長はハハハと笑いながら、秘書と共に役所の方へ戻っていった。


「さてと……。ポルトさーん!」


 グイーダさんが手を振ると、港でみんなに指示を出している男性が手を挙げた。


「あのポルトさんというのは?」

「ああ、この港を取り仕切ってる方です」


 グイーダさんが手を振った方に視線を向けると、頭にねじり鉢巻と首にはタオルをして、ツルッとした眩しい頭の男性が仕事をしていた。


「アルバート! あとはこれを運んでくれ!」

「はい!」


 ねじり鉢巻のおじさんもといポルトさんが、先ほどの重力魔法使いの少年に指示を出すと、こちらへ向かって走ってきた。


「よぉ! お前さんが港に顔を出すなんざ久しぶりじゃねぇか、どうした」

「ちょっと相談したいことがありましてー」

「なんだよ! 時間がねぇんだ。要件早く言ってくれ」


 グイーダさんが、ツンツンと僕のことを突いてきた。自分で言えって事かな……。


「あの、僕は冒険者のロイエと申します。重力魔法使いなのですが、一ヶ月以内に金貨を六十枚集める必要がありまして……。この港で雇って頂くことは出来ないでしょうか?」

「はぁ?! 金貨六十枚? 随分な大金だな、何使うつもりだよ?」

「武器を購入しようと思って……」

「それにしても六十枚は高すぎるだろう! どうせ東側の武器屋だろ? 騙されてるんじゃねぇか?」


 なんだか話が変な方向に向かってるぞ?!


「いえあの、ぼったくられていないので大丈夫です。高価な武器なので金額は納得済みです」

「そうか。なら良いけどよぉ……もし騙されたら俺に言えよ! じゃあな!」

「違う違う! 待ってください!」 ポルトさーん!」

「なんだよぉ。忙しいって言ってんだろー」

「重力魔法使いなので、一ヶ月だけ雇ってもらえませんか?」

「あー、すまん。言ってたなそういえば、んー? そうだなぁ、人手が足りてないのは事実だしな、ちょっと明日までにはみんなで決めるから、これに必要事項書いて、あそこのポストに入れておいてくれや。じゃな」


 それだけ言うとねじり鉢巻を締め直して、ポルトさんは走って行ってしまった。


「よかったですね。ロイエさん」

「え? ええ」

「港の仕事は高額なので人気なんですよ。ポルトさんのところに仕事をくれって言う人は毎日十人はいるくらいです」

「そんなにいるんですか」

「ほとんどが門前払いで、ほぼ合格の場合だけその紙をくれるんですよ」

「……へぇ、やっぱり重力魔法使いは需要があるんですかね」

「いえ、たぶんナッシュ出身ってところだと思います。ポルトさんもナッシュの出身なんですよ」

「そうなんですか? どこで働いてたんだろう」

「明日聞いてあげてください。さ、それに必要事項を書いてしまいましょうか」

「はい」


 貰ったクシャクシャの紙には、名前と年齢、職業、過去の履歴、使える魔法と練度を書く欄がある。


「ロイエ、十四歳、冒険者、モンスター大量発生クリア、重力魔法、練度★3っと」


 必要事項を記載してポストにいれると、まだ片付けをしている港のメンバーの表情を見て、明日はここで働けるかな?と期待を胸に、港を後にした。

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