[ 136 ] 砂漠都市デザント-ギルド

「東側は、シュテルンさんに案内してもらったんですよね?」

「そうですね。街の東側が後から出来たって言う歴史は、教えてもらわなかったですけど」

「ふふ、彼はあんまり歴史に興味ないみたいだから」


 そう言いながらグイーダさんは、赤いポニーテールを撫でると少し頬を赤らめた。


「それじゃぁギルドに戻りましょうか。今週は私が夕方から夜の当番なんです。それとギルドに来ている依頼も見てみましょうか。一ヶ月以内に金貨六十枚は相当頑張らないと無理ですから」

「はい」


 グイーダさんとギルドに着く頃には、日も落ち夕方になっていた。夕焼けが砂やレンガに当たると、街全体が赤く輝き出しとても幻想的な光景だった。


「この街は夕方が似合いますね」

「ですよね? 私も夕方が一番好きなんですよ」


 グイーダさんと話しながらギルドに入ると、ラッセが受付カウンターで出迎えてくれた。


「おかえりなさい。浮気者」

「え……」

「ただいま、ラセちゃん。受付変わるわ」

「はい、本日受け付けた依頼と達成した依頼はこちらです。依頼主への」

「あ! ちょ、ちょっと待ってねラセちゃん。ロイエさん業務の引き継ぎするので、あそこのクエストボードを見ててくれますか? 私も後でお手伝いするので」

「わかりました」


 グイーダとラッセが引き継ぎを始めてしまったので、利率の良いクエストを探すことにした。


 幽霊屋敷の調査、金貨十枚

 希少鉱石の採取、金貨八枚

 噴水の掃除、金貨二枚

 街の掃除、金貨三枚

 王都への荷物搬送の警護、金貨二十五枚


 どれも高い! ナッシュに来る依頼とは雲泥の差だ。やはり信頼の高いギルドは違うな……。感心していると背後から声をかけられた。


「おい,ここはどこだ?」

「え?」


 聞いたことのあるフレーズに思わず振り返ると、そこには黒いフードをすっぽり被り、黒いマントを羽織った黒髪の男だった。


「……ミアさん? ミア・ブリッツさん?」

「なぜ俺の名を知っている……貴様、何者だ」


 ミアは無駄のない動きで後ろに下がると、マントの中の剣に手をかけて構えた。


「またこの掛け合い?! ミアさん僕ですよ。ロイエです」

「……? 知らんな」

「えぇ……。まぁ確かに影が濃い方ではないけど……。あ! そうだ! えーと確かここに……」


 がさごそとポーチの中のあれを探す。


「あった! ミアさんこれ!」


 僕はポーチから折りたたんだ紙を取り出した。


「僕とナッシュで買った地図ですよ。ミアさんが買ってくれって言うから買ったのに、振り向いたらいなくなってるから」

「ああ、あの時の子供か」

「思い出してくれましたか、やっと渡せてよかったです。ヘクセライにはもう行ったんですか?」

「ああ、なんとか先月な……」


 ナッシュでリンドブルムの騒ぎがあってから、僕はハイネル村、フォレスト、バルカン村、デザントと一年近く立ってるけど、辿り着いたのは先月なのか、どれだけ迷子になったんだ……。


「元々何の用事でヘクセライに向かってたんですか?」

「ふむ。魔法研究所の協力要請でな。それで報告のためにデザントを目指していたんだが…………」

「あの、ここがデザントですけど……」

「なんだと?」


 辺りをキョロキョロと見渡すと、ハッ!と本人が一番驚き目頭を抑えた。


「まさかすんなり来れるとは……。俺もやればできるじゃないか」

「よ、よかったですね。マスター呼んで来ましょうか」

「ラッセ! グイーダは来たか?!」


 呼んでこようと思った本人、ギルドマスターのオスティナートが勢いよく管理人室から現れると、すぐにこちらに気付いた。


「お! ブリッツ! やっと戻って来やがったか! ったく、依頼達成にどんだけ時間かかってんだよ!」

「問題ない。いつも通りだ」

「はぁ〜。テメェの方向音痴は今に始まった事じゃねぇか……。早めに言っておいてよかったぜ」

「うむ、それとこれが例のモノだ」


 いつも身軽なミアが、背中に大きな荷物を背負っていると思ったら、依頼されていた品物らしい。ドサっと床に下ろした。


「バ! バカお前! 丁寧に扱えよ!」

「ああ、そうだったな。すまん」


 何か割れ物だろうか? それにしては少し過剰反応な気もするが……。


「報酬用意するから適当に待ってろ」

「……わかった」


 ミアとマスターの会話を背中で聞きながら、先ほどの依頼書に手を伸ばす。幽霊屋敷の調査、金貨十枚は破格だ。モンスターがいるわけでもなさそうだし、調査するだけで十枚なら後十枚で今週のノルマは達成できる。


「それ、面白そうだな……」

「あ、ミアさんも興味あります?」

「ああ、俺は怖いモノ好きでな。旅の暇つぶしによく本を持ち歩くが、基本的にはホラー小説のみだ」

「へぇ、今度おすすめを教えてください」

「なら、丁度読み終わったからあげよう」


 ミアがマントの中をがさごそ探すと、あちこち焦げた文庫本が出てきた。


「タイトルは……超巨大幽霊vs王国騎士団。なんですかこれ」

「タイトルだけでそそるだろ? 超巨大幽霊の氷魔法がめちゃくちゃ強いんだ。面白いぞ」


 幽霊屋敷の調査で、超巨大幽霊は出てこないと思うけど……。


「あ、ありがとうございます。読んでみます」


 幽霊屋敷の調査依頼書をミアとみていると、グイーダさんから声がかかった。


「ロイエさん、お待たせしました。毎週金貨二十枚獲得計画でしたね。港の仕事の合否がわからないと計画は立てにくいですが、ロイエさんが達成出来そうな依頼を探しましょうか」

「お願いします」

「あら? それは幽霊屋敷の調査依頼ですか?」

「そうです。賃金が良い割には依頼内容が簡単そうなので、どなたからの依頼ですか?」


 「確か……」と言いながら、グイーダは台帳のようなモノを引っ張り出してきて、依頼番号を探していく。ナッシュと比べるまでもなくすごい依頼の数だ。


「ありました。そうですね。やはり店長からの依頼です」

「店長からか……」


 確か依頼を受けるには、依頼者の元に行ってギルドカードの提示が必要だったよな。会いに行ったら街に関する問題出されそうだ……。


「受けますか?」

「そうですね。利率は良いので受け……」

「その依頼、俺も連れて行け」

「え?」


 背後からの声に振り向くと、重そうな金貨袋を持ったミアが立っていた。

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