[ 132 ] また金欠

「よし、おおまかな仕様はこれで良しとするか。で、お代の方だが金額七十枚を前金で頂こうか」

「え?」

「わしだって慈善で依頼を引き受けたわけじゃないぞ? ずっと洞窟暮らしだったからな金もないし、せっかく手に入れた材料は売りたくない。生活するためには金が必要じゃ」

「そう……ですよね……」

「うむ。全部とは言わんがいくら持っているんだ」

「いま手持ちが金貨十枚ですね……」

「全然足らんな。あと六十枚稼いでこい。取り掛かるのはそれからじゃ」


 お金のこと全然考えてなかった……。少しルヴィドさんに借りておけばよかったな。どうしよう。お金を稼いでから取り掛かってもらうと、どんどん完成が遅れてしまう……。


「あの! お金は必ず用意するので! 作業に取り掛かって貰えないでしょうか?!」

「んじゃ、とりあえずその金貨十枚は頂こうか」

「はい……」


 ポーチから金貨を取り出すと、全てファブロさんに手渡した。まずい無一文だ。今日泊まる宿の費用どころか夕飯代すらない……。


「完成までおよそ一ヶ月。残り金貨六十枚。毎週二十枚持ってこないと作業は中止するからの?」


 この爺さん、結構足元見てくるな……。


「はい、必ずなんとかします……」


 と言って武器屋を出たけど、どうしよう……。冒険者登録するための金貨五枚集めるのにあんなに苦労したのに、毎週二十枚とか、悩んでる時間もないくらいだ。


「とりあえずギルドに行こう。もう僕は冒険者だ。あの時と違って依頼を受けることができる。よし」


 僕は中央の噴水広場に向かって走り出すと、噴水前にいる赤い髪の若い女性が気になった。


「なんだろ……」


 女性は噴水の前で両手を広げると、呪文を唱えた。


「ヴァリアブルクヴェレ・オルト」


 女性の足元から三匹の水の蛇が現れると、噴水へと飛び込んでいった。


「ふぅ……。三回目終わりっと」

「あの……何をしていたんですか?」

「ひゃあ!」

「あ、すみません……」


 後ろから声をかけて驚いてしまった女性は、その場に尻餅をついてしまった。慌てて手を差し伸べて起こすと、改めて謝罪した。


「ごめんなさい、急に声をかけて」

「いえ、私の方こそ……」

「あの何をされていたんですか?」

「ああ、水の供給です」

「供給?」

「はい、この砂漠都市デザントは、ご存知の通り砂漠の中にあります」


 僕らはバルカン村から気絶してる間に運ばれたからわからなかったけど、砂漠の中にあるのか……。あれ?


「ここから東南に向かった先には、湿地帯がありましたが……」

「ヘーレ湿地帯のことかな? あそこはちょっと盆地になってて、アインザーム火山に降った雨が全部あそこに溜まるんですが、その影響からかこっちには全く雨が降らないですよ」


 まぁ湿地帯と街は結構離れていたけど……。


「それで雨が降らないから,魔法で供給って事ですか?」

「そうです。これもこの街でギルドが有利な立場に立っている理由ですね」

「ということは……」

「挨拶が遅れました。デザントギルドの受付嬢をしています。グイーダと申します」


 赤いポニーテルを揺らし、大きな瞳が笑顔になるとグイーダは、ぺこりとお辞儀をした。


「あなたがグイーダさんですが、マスターからお名前だけは聞いていました。冒険者のロイエと申します」

「ああっ。聞いてます聞いてます! 街の案内が遅れてしまい申し訳ありません。せっかくですからご案内いたしましょうか」

「それが、いま諸事情で大金を稼がなくてはいけなくて時間が……」

「あら、この街でお金を稼ぐならこの街の事を知るのが近道かと思いますよ?」


 確かにそれは言える。ナッシュも西と西、中央区に住む人となりを知ることで、仕事の有無は全く違っていた。グイーダさんのいうことは正しい。


「わかりました。お手間で無ければ案内をお願いいたします」

「はいっ」


 明るい春のような笑顔で、グイーダさんは返事をした。

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